第31話 竜の神

キリエたちが森を歩いていると前方に村が見えてきた。


「村ですわね。」

キリエは村に立ち寄ろうか悩んでいた。


「この前のヒラミヌ村は酷かったからな。

気持ちはわかるぜ。

でもそろそろ保存食も少なくなってきてるんだろ?

寄ってったほうがいいと思うぜ。」


キリエは村へ入った。

だが、あまり人気は感じられない。

しばらく村の中を歩いているとお婆さんが散歩しているようだった。


「ごきげんよう。お婆様。」

「こんにちは。お嬢ちゃん。

こんな村に何かご用かい?」


「ビーストベルトへ旅をしてる途中なんですわ。

それで食糧を分けていただきたいんですのよ。

もちろんお金は支払いますわ。」


「そうかい。大変だねぇ。

力になってあげたいけど私のところも分けられるほどはないわ。

村のみんなにも聞いてみようかね。」

「そうしていだだけると助かりますわ。」


お婆さんは来た道を戻り出した。

ゆっくりとしたお婆さんの歩調に合わせキリエもついて行く。


「それにしてもあまり活気が感じられないですわね。」


「そうねぇ。若い子たちはほとんど出稼ぎに行っちまったからね。

昔はもっと人がいたんだけどねぇ。


ホロカリ村といえば炭鉱が有名でね。

男たちはみんな村で石炭を掘ってたのさ。

だけど2年前に掘り尽くしちゃったみたいでね。

最後には魔物か何かの骨が出てきたくらいで石炭1つ見つからなくなったのさ。」


「そうなんですわね。

それでみんな出稼ぎに出てるんですのね。」


「いいや。前ほど豊かじゃなくなったけど畑もあるからねぇ。

皆なんとか生活はできてたのさ。


でもつい1ヶ月くらい前のことさね。

近くに大きな魔物が現れてね。

竜神だ、竜神だなんて大騒ぎになってねぇ。」


「まさか、その魔物に襲われたんですの!?」


「いいや。人を襲ったりなんかしないさ。

怪我人も出ず皆ピンピンしとるよ。」

「襲われてないのかよ!

不幸なことが起きる割にしぶとく生き抜いてんな!」


「竜神は人を襲ったりはしないんだけどね。

よく食べるのさ。畑の野菜も森の植物も。

退治しようにも大きな魔物だからねぇ。

村のみんなじゃ歯が立たないのさね。

冒険者ギルドに依頼を出そうなんて話もあったけど、今の村にはそこまでのお金がないからね。

それで若い子たちがほとんど出稼ぎに出てるのさ。」


「そうなんですわね...

お婆様。その竜神とやらはどこにいるんですの?」


「村の奥の森の中さね。

炭鉱があった場所の近くに住み着いてるみたいだねぇ。」


キリエはゆっくり歩くお婆さんを置いて歩き出した。


「お嬢ちゃん。どこ行く気だい?

まさか、竜神のところに行くんじゃないだろうね?」


「こう見えて結構強い冒険者なんですのよ。

任せてくださいまし。

それに、竜神は襲ってこないのですわよね?

様子を見て無理そうだったら戻ってきますわ。」


「そ、そうかい。すまないねぇ。

いや、ありがとねぇ。こんな村のために。」


キリエは竜神がいるという森へ向かった。


「本当に大丈夫かよ?

竜神って言ってたぞ。」


「大丈夫ですわよ。

大きい魔物って言ったってたかが知れてますわ。

それに人を襲わないならきっとそんなに強くないんですわよ。」


「そういうもんなのか...?

まあ、でも竜か。どんなんだろうな。」


アクリョーはキリエを心配する反面、竜神とと呼ばれる魔物への期待で胸を膨らませていた。


「ペガサスにはがっかりしたからなー。

竜神かー。翼が生えてて火を吹くようなドラゴンなのかなー。

それとも空を飛ぶ蛇みたいな龍って感じかなー。

キリエはどっちだと思う?」


「知らないですわよ。」


森を歩いていると大きな広場に出た。


いや、ここは元々広場ではなかったのだろう。

おそらく草も木も食べられ不毛の地となってしまったのだ。


広場の奥には森の木を貪る大きな魔物がいた。

それはキリエの想像よりも遥かに大きく、高さは5mほど、全長にして10mほどはあるような大きさだった。


「あれが...竜神ですの!?」


「恐竜じゃねーか!!

しかもティラノとかじゃなくて草食系の恐竜じゃねーか!!

ドラゴンへのワクワクを返せよ!!

草食恐竜が竜の神名乗るなよ!!」


勝手に呼ばれているだけでとばっちりを受ける竜神は呑気に食事を続けていた。


「思ったより大きいですわね。

全力の魔法でもサイズ負けしそうですわ。」


「どうするんだ?逃げてもいいんだぞ。

お前が倒す義理はないからな。」

「いえ。倒しますわ。

あの魔物のせいで村が1つなくなるかもしれないんですのよ。」


アクリョーはキリエの気持ちを察した。


「そうだな。行こう!」


キリエは広場の中心まで走り出した。


「アイスブラスト!」


「ブモーーー!」


巨大な氷塊が竜神に直撃した。

竜神はキリエたちを敵と認識し、こちらへ向かってきた。


「サンダーボルト!」


大きな稲妻が命中したが竜神は気にもしていない。


「あんな巨体じゃ全然効いてないですわね...

とにかく数を撃つしかなさそうですわ。

アクリョー、まだまだ持ちますわよね!?」


「おう!好きなだけ撃て!」


「ファイアボール!!」


竜神に巨大な火球が当たった。

するとそこから竜神の体に着火したようだ。


「ブモーーー!!ブモーーー!」


あっという間に炎が燃え広がり竜神の体が炎に包まれた。


「俺たちの覚悟返せよ...」


キリエは竜神を倒した。


竜神はその後も3時間ほど燃え続けた。

キリエたちは念の為、燃える竜神を見張り続けた。


火が収まると真っ黒になった竜神の亡骸が残った。


キリエが亡骸に触ると表面が少し崩れ、竜神の骨が剥き出しになった。


キリエは崩れた破片を手に取り観察する。


「これは...木炭ですわね。

どうりで肉の焼ける匂いがしなかったんですわね。」


「植物の魔物だったのか?

なのに骨があるんだな。」


「ええ。おそらくスケルトレントですわ。

生き物の骨に絡みついて、その生き物の生前の姿や特性を真似る木の魔物ですわ。」


「そんな魔物がいるのか。

じゃあ本物のあの恐竜みたいな魔物もいたってことなんだな。」


キリエたちはホロカリ村へ戻った。

お婆さんに竜神を倒したことを伝えると村に残る若者たちもつれて、竜神の亡骸を確認しに行った。


夜になると村ではお祭りが開かれた。


「お嬢ちゃん。本当にありがとうねぇ。

まさかあの竜神を倒しちゃうなんてねぇ。」

「ただ魔物を倒しただけですわ。」


「それでも、村は救われたよ。

きっと出稼ぎに出てる連中が戻ったらまた昔にみたいに戻るさね。

お嬢ちゃん。そういえば名前を聞いてなかったね。」


「キリエ・フォークですわ。」


「キリエ・フォーク。

竜神を倒した英雄の名として村で語り継いでいくよ。

本当にありがとうねぇ。」


キリエは村の皆に感謝され祭りは終わった。

村の皆は騒ぎ疲れて眠りについた。


そうしてホロカリ村に朝がやってきた。


村中からかき集めたお米や保存食などを持てるだけ貰ってキリエたちは旅路についた。


英雄が村を去った後、竜神の骨は祀られ英雄譚えいゆうたんと共に村に残り続けた。

村には観光客が来るようになり、お土産として竜神の木炭がよく売れたそうだ。


ホロカリ村にかつてのような活気が戻ったことを、旅を続けるキリエたちには知る由もなかった。

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