第27話 不徳のギルド

宿屋で朝食を済ませたキリエたちは冒険者ギルドへ向かうことにした。


「冒険者ギルドはどこにありますの?」


「町の奥、海の近くにある建物が冒険者ギルドですよ。」


「感謝しますわ。」


「ええ。いってらっしゃい。」


店主に場所を聞き宿屋を出た。


「海かー。この世界で海を見るの初めてだな。

キリエもそうか?」


「ええ。海は危険だと教えられていますわ。

海の魔物は陸よりも遥かに強いらしいですわよ。」


「そうなのか。」


この辺りの地形は小さな山が多く集まっている。

今まで旅をしてきた道のりも小さな山々の間を縫って進んで来たのだ。

海沿いを通れば歩く距離はかなり減らせたはずだ。

それでも森を通ってきたのは海沿いを歩くと強力な海の魔物に襲われる危険性があるからだった。


「じゃあ海の方にギルドがあるのは魔物から町を守りやすくするためなのかな。」


「たぶんそうですわね。」


話しながら歩いていると町の中心を抜け、ひらけた場所までやってきた。


そこにあったのは一軒の大きめの建物と、大きな壁だった。


「海見えねーじゃん。」


「海なんだから堤防くらいありますわよ。」


海岸に沿って堤防が、いや城壁がそびえ立っていた。


2人は冒険者ギルドと思われる建物へと入っていった。


中に入ると酒を飲む男たち、紙がたくさん貼られた掲示板、正面には可愛い女の子が立つ受付。

いかにも冒険者ギルドという景色が広がっていた。


「おおー。

なんか、その、こうだよなぁって感じだな。」


キリエは早速受付に並んだ。


「初めて見る方ですね!

ご依頼でしょうか?」


受付嬢はキリエとは比べ物にならない愛想の良さで話しかけてきた。


「いえ。冒険者として登録しに来ましたわ。」


「冒険者志望の方でしたか!

ではこちらに必要事項をお書きください。」


キリエは名前、性別、年齢、役職などを渡された紙に書き込んだ。


「パーティの欄は何も書かれてませんが、まだ決められていませんか?」


「ええ。今のところ1人の予定ですわ。」


「そうですか。パーティや役職については後からでも変更が可能なのでその時はまた最寄りの冒険者ギルドで手続きをお願いします。


内容については...

精霊術師さんなんですね!珍しい!

あ、すみません。

内容は問題ないです!」


「やっぱり精霊術師ってのは珍しいんだな。」


「それで...登録料についてなんですが。

銀貨100枚となっております...」


「「銀貨100枚!!?」」


「昨日の晩飯で孔銀貨3枚だったよな!?

町に入る通行料でも孔銀貨4枚。

昨日の飯が...計算しやすく考えて1500円だったとすると孔銀貨1枚500円...

銀貨は孔銀貨の100倍の価値だから1枚5万円。

それが100枚で500万...ぼったくりすぎだろ!」


「孔銀貨100枚じゃなくて銀貨100枚ですの!?」

あまりの額にキリエは聞き返した。


「はい。孔銀貨ではなく銀貨100枚です。

すみません。皆さんそういう反応されるんですよ。」

受付嬢は上目遣いで申し訳なさそうにこちらを見ている。


呆気に取られるキリエとアクリョー。

ここにいる呑んだくれたちはそこまで金持ちだったのだろうか。

いや、そうは見えない。この登録料ではこんなに冒険者がいるはずがない。

2人はそう思った。


「そんな大金みんなが払えるわけないですわ!

何にそんなに使うんですの!?」


「すみません。私もそう思っています。

ですけどギルドの運営には金がかかると。

この額が妥当だと上から言われるんですよ...

よよよ...」


受付嬢は涙を浮かべながら理由を説明した。


かと思うと突然笑顔で話し出した。


「ですが!そんな皆さんのためにギルドも考えました!

冒険者さんのためなら身銭を切ってもいいと!

ギルドが一時的に負担し無料で登録が可能になったんです!」


「一気に胡散臭くなったな。

吹っ掛けといてから恩を売って冒険者をいいように使おうとしてるのか?」


「もちろん。一時的にですので返していただくため、依頼の報酬から半分を返済分として天引かせていただくことになりますが...」

「だいぶガッツリだな!」


「通行料も一生払わずにいられて、様々なところで身分証として信頼されている冒険者カードが本来なら銀貨100枚のところ実質無料!!

ちょこっと報酬が減るだけで貰えるんですよ!」

「ちょこっとってレベルじゃないだろ!」


「さらに!新人の冒険者を紹介すると紹介した方もされた方も孔銀貨15枚分が支払免除になるんです!

さらにさらに!

未登録の方同士でパーティとして登録に来られると...

それぞれから!メンバー1人につき銀貨1枚分!免除になるんです!!

特別に今から一度帰ってお友達を誘って一緒にパーティで登録されても構いませんよ!!」


「ねずみ講のやり口じゃねぇか!

しかも初回限定の結構デカめな割引で惑わせやがって!

つっても1人5万で500万には遠く及ばねえよ!」


「いえ。1人でいいですわ。」

「お前も何普通に答えてんだよ!

さっきまで一緒に戦ってただろ!」


「そうですか。

ちなみに...これだけの価値がある冒険者カードですから。

偽造されたりはしないでくださいね。

他にも罪を犯したり、返済期間中に3年間依頼をこなさなかった場合も規約違反になります。

その場合、自首しに来られなければ捕縛依頼が出回ることになります。


まあ、その後は高級な海の魔物狩りの船に乗って効率良く返済をしていただくだけなんですけどね!」

「ベーリング海送りかよ!

絶対死人出るやばい仕事じゃん!」


「ちなみになんと返済期限はございません!

銀貨100枚が無料で返済期限もなしなんですよ!

ただ、1ヶ月ごとに借金額のほんの5%ほど利子として追加させていただくことになります。」

「月5%って!しょぼく見えて複利計算すると1年で80%くらいだろ!!

3年も経てば5倍近くに膨れ上がるぞ!!

500万の5倍って...完済させる気ないだろ!」


「もちろん一括で払われるのであれば報酬は満額ですし、その後更新費などはなく3年以上依頼をこなさなくても問題ありません。」


「キリエ、やめとけ!!

こんな悪徳組織に所属する必要ないって!

通行料くらい払えばいいさ!

仕事もなんとか別で探そう!」


「いかがですか?

ギルド持ちで登録ということでよろしければこちらにサインと血判をお願いします!」


「あ、一括でお願いしますわ。」

ジャラララー


「一括で払えるんかーい!!

さっすがお嬢様だぜ!!」


「わあ、お金持ちなんですねー。

じゃあこっちの方の書類にお願いします。」


キリエは無事、冒険者となった。

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