第25話 冒険者
「ふわぁーー。」
「珍しく早起きだな。
いや、眠ってた時間を数えると長すぎか。」
早朝に目を覚ましたキリエは天井を見つめぼーっとしていた。
「まだ疲れてるのか?
まあ、好きなだけ休めばいいさ。
町もまだ起きてはいないようだし。」
キリエは悩んでいた。これからの行く末に。
アクリョーに言われて旅を始めた。
言われるがままヒコウの町までやってきた。
たどり着いてしまった。
「どこへ行きましょう...」
「ん?買い物にでも行くんじゃないのか?
ああ、冒険者ギルドにも行かないとな。」
冒険者ギルド。町まで来たのはそのためだ。
冒険者になるために近くの町まで行こう。
そう言われてここまで来たのだ。
じゃあ冒険者になったら?何をしたらいいのだろう...
_______
「おーい。そろそろ起きたらどうだー?
お昼も食わない気なのかー?」
あれこれ考えているうちにキリエは再び眠っていたようだ。
ぐぅーーー
「睡眠も大事だけどな、ちゃんと食わないと大きくならないぞ?胸とか。」
「そうですわね。」
「お、おい。ツッコめよ。
これじゃあ俺がただのセクハラ野郎みたいじゃないかよ。」
ツッコミの有無に関わらずセクハラであることに変わりはないが、そんなことはどうでもよかった。
今のキリエにはそんな余裕がなかった。
それでも泣き叫ぶ腹の虫を治めるためにキリエは昼食を食べに行った。
「あら、起きてきたのね。
お昼は何にしましょうか。」
席に着いたキリエはメニューを眺める。
「悩んでいるならペガサスの握りなんてどうですか?
おすすめですよ。」
「じゃあそれでお願いしますわ。」
言われるがままに注文し、出てきたものを食べ始めた。
「どうしたんだよ?元気ないな。」
「それ食べたら買い物に行くか?
色々買い揃えないとだろ?」
「なあ...
ああ、もしかして人がいるからか?
まあそうだよな。側から見たら独り言にしか見えないもんな。」
お昼時で和気藹々とご飯を食べる人々の中、キリエは1人で黙々とご飯を食べていた。
食べ終わりお金を払うとまたすぐに部屋に戻ってしまった。
「食べてすぐ横になったら牛になっちゃうぞ?
あ、牛になるってホルスタインとか、別にそういう、他意はないからな。」
部屋で1人だというのにやっぱり反応はない。
「どうしたんだよ。悩みがあるなら話してみろって。
1人で考えても仕方がないだろ?」
「別に人に話したりとかしないって。
てかお前としか話せねぇだろ。
お前の話を聞くくらいしか俺にできることはないんだよ。」
キリエが重い口を開いた。
「アクリョー...
私はどうしたらいいんですの?
冒険者になって何をすればいいんですの?」
「どうって...冒険者だから冒険するんだろ?」
「どこに?」
「どこってそりゃ、どこでもいいだろ。
お前の好きなところさ。」
「好きなところ...?
そんなところ、もう...」
もうどこにもない。
たまにしか会えなかったけど優しいお父様とお母様。
そんな2人をじいやに怒られながら待つ。
大好きだったあの町はもうどこにもない。
「うーん。そうだなぁ。
言い方が悪かったな。
好きなところじゃなくていい、適当でいいんだよテキトーで。
冒険者なんてそんなもんだ。
ハバキだってなにか目的があってヨウニーに来たと思うか?
適当に旅してたまたまヨウニーの町に着いて、タイミングがよかったからキリエの先生をしてただけだろ?
たいそうな理由があって旅をしてたわけじゃない。
先生やってたのだって金払いが良かったからか知らんが、別に目指してなったわけじゃないだろ。
そんなんでいいんだよ。
適当で。自由で。」
「自由って言われても。
何も思いつかないですわ。」
「お前は深く考えすぎなんだよ。
今までずっとお父様たちの様になろうと頑張ってたからな。
娘としてって。
だけど人は皆、目的があって生きているわけじゃない。
キリエはキリエだ。
自分が生きたいように生きるしかないんだよ。
別に冒険者じゃなくってもいい。
それも選択肢の1つに過ぎないからな。
宿屋で働いてもいいしお花屋さんになってもいい。
なんならこのままお金が尽きるまでぐーたら過ごしていてもいいさ。
だけど生きるにはお金を稼ぐか獲物を狩るかそれくらいはしなくちゃいけない。
どんな方法でもいいし必要になってからでいいけど、それだけはやらなくちゃいけない。
ただ生きるためのことをやれればまずはそれでいい。
ここに来るまで全く楽しくなかったか?
ずっと辛かったか?」
「...楽しく...なくはなかったですわ。」
「そうだろ?
俺は楽しかったよ。
お前となんやかんや言い争いながらしてきた旅が。
ならそれでいいだろ。
とりあえずなにかやってみて、その日1日が楽しかったらそれで十分さ。
そんな1日を積み重ねて生きていくんだ。
目的なんか別になんだって何にもなくたっていいんだ。」
「そうですわね...
私、やっぱり冒険者になりますわ。
明日から。」
(明日からかよ!!)
という気持ちは抑えアクリョーは優しく声をかけた。
「ああ、これからもよろしくな。」
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