第23話 特殊な魔法
「やっぱりペガ刺しは美味しいですわね!
ファイアボールで丸コゲにしなくてよかったですわ。」
キリエは解体したペガサスをどんどん口へ運んでいく。
「そんなにうまいのか。
まあまともな食事自体久しぶりだしな。」
もぐもぐもぐ...ゴクンッ
「そうですわね。最近はサペとばばっかり食べてましたわ。
ペガ刺しにありつけるなら調味料も持ってくるべきでしたわね。」
キリエが旅に出たのはこれが初めてだ。
知識はあったとしても実際にやってみて気づくこともある。
保存が効いてそのまま食べられる携帯食料を前提にしていたので調味料までは用意していなかった。
長期の旅となると保存食だけでは持たず、自給自足が必要になることまでは思い至らなかったようだ。
「ふぅ。お腹いっぱいですわ。
いくら美味しくても流石にもう食べられないですわ。」
「一頭丸々食べる気でいたのかよ!
残りは冷凍でもして持っていったらいいだろ。」
「これだから旅の素人は...」
「お前もだろ!」
「冷凍してどうするんですの?カバンに詰めるんですの?
そんなことしたら荷物が全部べっちゃべちゃになってしまいますわ。
持って運ぶにしてもすぐに手が霜焼けになってしまいますわよ。
そういうのは馬車を持った商人とかがやることですわ。」
「魔法があってもやっぱり不便な世界だなぁ。
あ、マジックバッグとかないのかよ?
冒険者といえば定番だろ?
収納魔法を使って異空間にしまったりとかさ!」
「なにを馬鹿なことを言ってるんですの?
そんなものがあるならこんな重い荷物背負ってないですわよ。」
「ほんとに残念な世界だな。」
魔物がいて魔法が使えるファンタジー世界なのに変なところで現実味がある。
そんな世界にアクリョーは失望した。
「そんな便利な魔法があったら、もっと交易も盛んになってますわよ...」
キリエの瞳が急にパチリと大きくなった。
何かを思いついたようだ。
「アクリョー!
あなたならできたりしないんですの!?
特殊な魔法の1つや2つ!」
「えっ俺?
なんで俺が。魔法も使えないのに。」
目を輝かせるキリエにアクリョーは困惑した。
「特殊な魔法といえば精霊術ですわ!
ハバキが使っていましたわよね!?
箒で空を飛ぶ魔法!!
精霊術師は1人1つくらい魔術にはない特殊なな魔法を使えるって言ってましたわ!」
「あ、ああ。言ってたな。
だけどなんで俺だよ?精霊術師はお前だろ?
お前が使うんじゃないのかよ。」
「あなた言ってましたわよね?
ハバキの箒に精霊が宿って精霊術が上達したって。
その箒の精霊が持つ不思議な力が、空を飛ぶ魔法なんじゃないですの!?」
「な、なるほど...
空を飛ぶための箒として大事にしていたら宿った付喪神だから、空を飛ぶ魔法が使えたってことか?
たしかにそれはありえるかもな...」
納得するアクリョーにキリエは期待の眼差しを向ける。
「それで!?あなたには何ができるんですの!?」
「...お、俺の特殊能力か...そうだなぁ。」
(俺の能力?そんなの俺が聞きたいよ!
なんだよそれ。
ハバキの箒は望まれた力を持って付喪神が生まれた。
なら俺は?何か望まれて生まれたのか?
いや、ただ死んだから幽霊になっただけだぜ??)
「俺の能力は、そう....
強大な魔力!!」
「そ、そうですわね!
あなたの魔力は強大で、つくもがみ??よりもすごい神なんでしたわよね!?ね!!
それで、どんな魔法が使えるんですの!?」
「え、だから...」
「汝、神を試すことなかれ!!」
「...」
みるみるうちにキリエの瞳から輝きが失われていった。
「まさか....
本当にそれだけですの?
なにも特殊な魔法は使えないんですの...?」
アクリョーはなにも答えない。
「はぁ。やっぱりただの悪霊ですわね。
神を騙る愚かな悪霊のことを教会に報告する必要があるみたいですわ。」
「お、おいおい!
俺の魔力にここまで助けてこられただろ!?な?
特殊な魔法なんて俺にもわからねぇよ。」
慌てるアクリョーをよそにキリエは旅の支度を始めた。
残ったペガサスの肉を少しだけ切り出して布に包みカバンの中へ詰め込んだ。
そして持ちきれない分は炎の魔法で燃やし尽くして供養し、町に向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます