第22話 ファンタジー生物

キリエは魔法の威力の調整を特訓しながらヒコウの町への旅を進めていた。


「だいぶ制御に慣れてきましたわ。」


炎を巨大化させたり扱いやすいボールくらいのサイズにさせたり、キリエの意思で魔力の出力をコントロールできるようになってきていた。


「さすがキリエ様。精霊術の天才だぜ!」

「このくらい私にかかれば簡単ですわ。」


キリエはドヤ顔をしている。


「えぇえぇ、こんなにコツを掴むのが早いとは。

下積みの長さが違いますからねぇ。」

「それは褒めてますの?」


「よっ、天才!小さな魔法を使わせたら右に出るものはいないぞ!

伊達に小さな胸を維持しておられない!」


大きな炎がアクリョーの体を掠めた。


ドーンッ

「ヒヒーーーン!」


ドサッ


飛んでいった炎の先にいた何かが空から落ちてきた。


「なんだなんだ?魔物か?」


キリエたちは落ちてきたものを確認しに近づいた。


そこには真っ白く大きな翼をもつ生き物が倒れていた。


「これは...ペガサスですわね。」

「ペガサス!?

殺しちまったのか!?

生きてるなら捕まえられないのかな!?」

アクリョーは目を輝かせてペガサスを眺めた。


「捕まえる?ペガサスなんか捕まえてどうする気ですの?」

「どうするって、そりゃ飼って乗り物にするんだよ!

空の旅なんて憧れるだろ!

絶対移動も早くなるし楽になるぜ!?」


はしゃぐアクリョーをキリエは呆れた目で見つめた。


「はぁ...これだからお馬鹿さんは。

あんな巨体で長時間も飛んでいられないことくらい見てわからないんですの?

鳥じゃないんですわよ?

せいぜい数分程度ですわ。」


「えぇ...なんだよそれ。

で、でも普通に馬が旅に加わるだけでも便利だろ。

崖とか川とかちょっとしたところが飛べるだけでも十分有用だぜ?」


「馬にも乗ったことが無いんですのね。

普通馬には跨って乗るものでしょう?

見てご覧なさい。

ペガサスには胴体の部分に大きな翼が生えてるんですわよ?

足をどこに置くつもりですの?跨がれませんわよ?

首でも掴んで背中にうつ伏せで寝ながら乗るつもりですの?」


「えぇ...とんだがっかり生物じゃないかよ。

飛べないし乗れもしないなんて馬以下だな...

あ、じゃあせめて馬車を引かせるのはどうだ?

これなら乗らなくていいし、ちょっとした所は飛んで移動できるだろ。

魔王城にだって突入できそうだぜ。」


「本っ当に救いようがないお馬鹿さんですわね。

馬車を引かせたまま飛ぶなんて、積荷をばら撒きながら飛ぶつもりですの?

サンタさんじゃないんですのよ?」


「この世界にもサンタとかいるのかよ!

いや、そうじゃなくて。じゃあペガサスには何ができるんだよ。」


「それはもちろん...

「ブルルルル。」


言い合いをしているキリエの後ろにはペガサスが立っていた。


「うわーーーーー!」

ビュウォー ...ズザザザザザ


キリエは咄嗟に風の魔法を放った。


ペガサスは翼で体を守ったが、大きく後ろへ飛ばされた。


「死んでなかったんですわね!

ファイアボール!!」


ペガサスの元へ大きな炎が飛んでいった。

バサリと翼を羽ばたかせると炎をかき消してしまった。


「しぶといですわね...これならどうですの?

サンダーボルト!!」


キリエからペガサスに向かって稲光が走った。


バリバリバリバリバリ

「ヒヒーーーン!」

バタッ


「やった...んですわよね?」

「無駄にフラグを立てるな!」


今度こそペガサスは倒されたようだ。


「さぁて、早速準備ですわ。

ペガサスなんて久しぶりですわね。」

キリエは嬉しそうにペガサスに駆け寄った。


「準備ってなんのだよ?」

「何ってもちろん食べる準備に決まってますわ。

ペガサスは美味しいんですわよ?」


「あら、ちょっと中まで火が通っちゃってますわね。

倒し方を考えるべきでしたわ。

ペガサスは生で刺身にしていただくのが1番ですのに。」


ファンタジー生物の中でもドラゴンの次くらいに憧れていたペガサスが食用でしかない現実にアクリョーは幻滅した。

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