第20話 2人で

「〜リョー...アクリョー...」


「キリエ...」


「アクリョー!!」

ズズズッ


アクリョーがゆっくり目を開けるとキリエの真っ赤な目がこっちを見つめていた。


「馬鹿...」


「少し...寝る...」


キリエは黙り込んだ。

アクリョーも調子が戻り切っておらずもう少しだけ休むことにした。


次にアクリョーが目を覚ますとあたりは暗くなっていた。


キリエは野営の準備を終え、サペとばをしゃぶっていた。


「キリエ。おはよう。」

「もう大丈夫でふの!?」


「落ち着けよ。

口に物を入れたまま喋るな。はしたない。」


キリエはサペとばを噛みちぎり、モグモグと咀嚼したあと飲み込んだ。


「もう大丈夫ですの?」

キリエは改めて質問した。


「ああ。もうなんともない。

急に意識が遠のいてな。」


突然の出来事に困惑し原因を探るため情報を整理した。


「今までにもこんなことはなかったんですの?」


「ああ、俺がこの世界で目覚めて...キリエに出会ってからは一度もこんなことはなかった。」


「そうですの。」


「俺はどれくらい眠ってたんだ?」


「倒れてるのに気づいてから5分くらい経ってやっと目覚めましたわね。

それからまた寝て5時間くらいですわ。」


「そうか。」


「倒れていた時は体も薄くなって、消えそうで...」


「消えそうか...

そういえばあの時、力が抜けてく感覚があって...一時的に目覚めた時は全く力が入らなかったな。」


「力ですの...

そういえばあの時、魔法の威力が急に弱くなって...

それでアクリョーの方を見たら倒れてましたわね...」


「...」


「いや、絶対それだろ!!」


「なんですの!急に大声なんか出して!

びっくりしますわ!」


「だ、か、ら!

お前が俺の魔力かなんかを使って魔法を撃ってたんじゃないかって!?」


「え?」


「お前がはしゃぎ回って馬鹿みたいな魔法を馬鹿みたいな顔でばかばか撃ちまくったから倒れたって言ってんだよ!」


「馬鹿馬鹿うるさいですわ!

あなただって!絶対いなくならないとか言っておいて、私を置いて消えようとしてましたわよね!

嘘つき!ばーか!」


「それはお前のせいだろ!馬鹿!」

「馬鹿って先に言ったほうが馬鹿なんですわ!」


「それならお前が馬鹿だな!

目覚めて開口一番に言ってきたの覚えてるぞ!!」


キリエは何も言い返せなくなってしまった。


「じゃ、じゃあ証拠はあるんですの!?」


「証拠...?」


アクリョーは考えた。


「あーそうだ!思い出した!

お前が初めて巨大な魔法を使った時。

あの時俺はお前を助けたいと思って出てきたんだ!

俺がお前の前に出てきたからだろ!でかい魔法が使えたの!」


「そ、それは!

...あの時私の才能が開花しただけの話ですわ!」


「じゃあ今やってみろよ!

俺はお前を助けないから!

同情も何も微塵も思わないようにするからさ!」


「いいですわ!見てなさい!」


キリエは魔法を放った。


小さな炎が夜空へ飛んでいった。


「ほれみろ!やっぱりだ!」


それでもキリエは認めなかった。


「昼に魔法を使いすぎて疲れてるだけですわ!

明日になったらきっとまた使えますわよ!」


アクリョーはキリエを逃さなかった。


「いいや、もっかいやってみろ!

今度はお前に力を貸すように念じといてやるから!」


「くっ...」


キリエは再び魔法を放った。


巨大な炎が夜空へ飛んでいき、ここら一体が明るくなった。


「...うそ。」

キリエは言葉を失った。

そんなキリエにアクリョーは追い打ちをかける。


「えぇっとぉ?なんでしたっけ?

才能が開花した?...ぷぷぷー!

力を貸してもらってただけなのに自分がすごいと思っちゃったんでちゅかねー?ぷーくすくす。」


キリエはプルプルと震えている。


「うるさい!うるさいですわ!!」

目を瞑り怒鳴るキリエから大粒の涙が溢れた。


アクリョーも流石にやりすぎたと反省しキリエを慰め始めた。


「ご、ごめん。悪かったって。

言い過ぎました。俺が悪かったです。」


キリエは泣き止まない。


「ほんとに、ごめんて。

キリエは悪くない。悪くないよ。

原因はわかったしこれでもう俺が倒れることもないだろ?

それにキリエだってこれからも強い魔法が使える。それでいいだろ?すごいぞぉ!?」


「やっぱり...私...才能...」


馬鹿にされたことへの怒りと悲しみだけではなかった。


初めて見つけた自分の才能が否定され、両親とは違い自分にはなんの才能もないという事実を突きつけられたことがキリエにとってはショックだった。


「キリエ...

ごめん。ごめんな。俺も調子に乗りすぎてたよ。


俺も本当は不安だったんだ!

俺がいてもキリエにできることはほとんどないんじゃないかって!

キリエを守るなんて言ったけどさ、俺にできるのはお前と話をすることくらいだったからさ。


寄り添うことはできても、魔物が襲ってきた時、俺はキリエを守れない。

だから俺の力でキリエが魔法を使えるとわかったら嬉しかったんだよ。


俺がいる意味はあったって。

俺の力でキリエを守れるんだって。


それで...少し調子に乗りすぎました。ごめんなさい。」


キリエの呼吸がさっきまでよりは穏やかになっていた。


「キリエ。お前には精霊術の才能がある。

だってそうだろ?

俺はお前と一緒に魔術も精霊術も学んで特訓してきた。

だけど魔法なんて一度も撃てたことないんだぜ?


仮に俺がすごい魔力を待ってたとしても俺はそれを使うことができない。

それを使って魔法を、精霊術を使えるのはキリエだけだ。

それがキリエの精霊術の才能ってやつだろ?


あの魔法はキリエだけの力じゃないかもしれない。

だけど俺だけの力でもない。

俺とお前、2人の力があってはじめて成立する魔法なんだよ。


だからもう泣かないでくれよ。

俺にはお前が必要なんだ。

これからも2人で協力して旅を続けよう。

2人で生きていこう。」


「馬鹿...」


キリエはすっかり落ち着いたようだ。

泣き疲れたのかそのまますぐに眠ってしまった。

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