第19話 キリエと悪霊
ヒコウの町を目指して歩みを進め、ウーラカ村はもう見えなくなっていた。
「ようやくいつもの顔に戻ったな。
今までずーっと、ぶすーっとしてたからな。
ぶすーっと。」
悪霊は大袈裟に、瞬き中に写真を撮られたような顔をしてそう言った。
「そんな顔してないですわ!」
久しぶりにキリエに怒鳴られた悪霊は嬉しくなってさらに挑発を続けてしまった。
「いやぁ?してたさ。
でも今の顔の方が可愛くてキリエにはお似合いだぜ。
いかにもわがままな悪役令嬢って感じでさ。」
「フンッ!」
キリエは悪霊から顔を背けた。
「それよりあなた、いつから私の名前を呼び捨てするようになったんですの!?」
「いつって...いいだろ別に。
いつまでもお嬢様なんて呼びづらいだろ!
俺のことだって好きに呼べばいいさ。」
「そうですわね...
そういえば聞いたことがなかったですわね。
なんて名前ですの?」
「ああ...洸太だよ。飯田洸太。
おまえら風にいうと、コータ・イイダか?」
名前を聞いたキリエは少し考え込んだ。
「コータ・イイダ...
悪霊のくせに贅沢な名前ですわね。
今日からあなたの名前はアクリョーですわ!
わかったら返事なさい?アクリョー。」
「風呂屋の
...まあそれでいいよ。好きにしろ。」
「返事は!?」
キリエはしつこく返事を求めてきた。
「はいはい。」
アクリョーは呆れて答えた。
「はいは1回ですわよ!アクリョー。」
「はい。」
「よろしいですわ。」
キリエは満足そうだ。
その後も歩きながら何度か名前を呼んできた。
「アクリョー。」
「はい。」
「アクリョー?」
「はい?」
「アクリョーッ!」
「はい!!」
「ふふふっ」
(元気になったなら、まあいいか。)
アクリョーはうざいと思いながらもキリエが飽きるまで付き合ってあげた。
ご機嫌なキリエはふと何かを思い出した。
「あ!私の魔法!!」
キリエが放った巨大な魔法のことを思い出した。
今まで余裕がなかった2人はすっかり忘れていたのだ。
「そうだそうだ。
お前いつの間にあんな魔法を使えるようになったんだ?
ピンチで覚醒でもしたのか?」
「わからないですわ。
試しに炎でも出してみますわ。」
キリエはいつもの特訓のように右腕を前に突き出し手のひらを上に向けた。
アクリョーも近づいてそれを覗き込んだ。
ボゥッ
キリエが集中すると目の前に巨大な炎が出現した。
「ぎゃーーーー!!!」
アクリョーは炎に包まれた。
「アクリョー!」
キリエは慌てて炎を消した。
「あちっ!死ぬっ!あちい!!」
アクリョーはのたうち回っている。
「熱っ...くない...
...そうだった。俺、死んでるんだった。」
キリエはアクリョーが無事だったことに安堵すると笑いが込み上げてきた。
「ぷっ...あははははっ。
あちぃ!しぬぅ!ですって!っぷふふ。
無様ですわね。」
キリエはアクリョーの真似をしながら大爆笑している。
「お、お前がいきなり馬鹿みたい炎を出すから!!
お前、ちゃんと!その、あれだ!周りに注意しろ!!」
「ぷふっ...ふっ...はぁ。
大きな炎なんて出すつもりなかったんですわ。...ぷふ。
いつも通りやっただけですわ。」
キリエは笑いを堪えながら答えた。
「これがあれなのか?
ハバキが言っていた特訓を続けていたらある日突然とかいう。」
アクリョーは冷静に分析を始めた。
「きっとそうですわ!
遂に努力が報われたんですわ!
やっぱり私はハバキなんかよりも優秀な精霊術師だったんですわ!」
魔術の才もなく、剣術の才もなく、精霊術もなかなか上達が見込めなかったキリエは、初めて持った強大な自分の力に酔いしれた。
踊りながら巨大な炎や巨大な水の塊など様々な魔法を空に放ち続けた。
「おい。調子に乗りすぎだぞ!」
「ふふふっ」
舞い上がったキリエはアクリョーの忠告も聞かず魔法を放ち続けている。
「いい加減落ち着けって。
おい!キリ...エ...」
キリエの放つ魔法が突然、小ぶりで可愛い見慣れたサイズになった。
「あれ?おかしいですわね。」
落ち着いたキリエはアクリョーの方を見た。
「アクリョー?...アクリョー!!」
キリエは駆け寄った。
アクリョーはヘチョリと床に倒れている。
「アクリョー!!アクリョー!!」
心なしかアクリョーの体がいつもより薄くなっている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます