第10話 れいの森
「今日からは実技の訓練にしましょう!
まずは私が精霊術のお手本を見せます。」
「ファイアボール!!」
ハバキの目の前に人の頭ほどの大きさの火球が現れた。
火球はそのまま屋敷の庭から空へと飛んでいき弾けて消えた。
「どうでしたか?」
「どうと言われましても...
お母様のファイアボールよりも小さい普通の魔法にしか見えませんでしたわ。」
「そう!そうなんです!
アカネ様の魔術はすごい!...じゃなくて!
普通の魔法にしか見えませんでしたよね!」
「ええ...それがなんですの?」
「つまり!精霊術も魔術も基本的には同じなんです。
結果は同じで発動のさせ方が違うだけなんです!」
「はあ...
だからその発動のさせ方を教えていただきたいんですのよ?」
キリエの質問を無視してハバキは続けた。
「キリエ様は魔術が使えるとお聞きしました。
まずはそれを見せていただけますか?」
「馬鹿にしてるんですの?
魔術が使えないから精霊術を学ぼうとしてるんですのよ?」
「い、いえいえ、そうではなくて!
小さな火を出すことはできたと聞いたのでそれをやってみせていただきたいんです。」
キリエは釈然としないまま、久しぶりに火の魔術を使った。
「それで全力ですか?
もう少し大きくしたりとかはできないでしょうか?」
「だから馬鹿にしてるんですの!?
これしかできないから魔術は諦めたんですわ!」
「なるほど。
最大サイズがロウソクに灯した程度の炎と...」
キリエはハバキの発言一つ一つに苛立ち、目の前の小さな炎よりも体が熱く燃えるようだった。
「もう十分ですわよね!?
早く精霊術を教えてくださいまし!!」
「待ってください!!
この炎はどれだけ持続させられますか?」
ハバキは火を消そうとするキリエを止めて質問した。
「どのくらいって、こんな小さな火ならいくらでもつけてられますわよ。」
それを聞いたハバキは何かに気づいたかのように興奮して話し始めた。
「そこです!おかしいと思いませんか!?
こんなゴミみたいな火しか出せないのに!!」
「ゴミみたいで悪かったわね!!
ええ!!こんなものしか出せないなんておかしいですわよ!!!」
とうとうキリエはブチギレてしまった。
ハバキは自分の失言に気づき慌てて謝り続けた。
「すみません、すみません、すみません...
そういうことじゃないんです...
私が言いたかったのは全力でこれだけの炎しか出せない魔力量なのにそれを維持し続けられることがおかしいということです。
普通なら魔力切れで少しの間しか維持できないはずです。」
キリエは少し冷静になり考えた。
「それで?続けなさい。」
「はい。つまりキリエ様が使っているのは魔術ではなく精霊術ではないかということです。」
キリエは自分に精霊術の才がある可能性に歓喜した。
しかし、ハバキの魔法に比べ小さく、今までもやってきていてこれなら結局才はないのかと疑心暗鬼にもなった。
「森へ行きましょう!」
「突然ですわね。
どこでだって変わらないですわよ。
どうせ小さな火しか出せないんですもの。」
「いいえ!変わりますよ!...たぶん。
森へ行ってみましょう!」
「でも、じいやが許してくれないですわよ。」
いつもはあまりじいやの言うことを聞かないキリエだったがこうも食い下がるのは訳があった。
森にはあまりいい思い出がないのだ。
「なら確認してきましょう!」
そう言うとハバキはじいやを探しに行き、ハバキがついているならと許諾まで取ってきてしまった。
キリエは断る理由を思いつけず森まで連れてこられた。
「さあキリエ様。
ここでまた魔法を使ってみてください!」
キリエは言われた通り魔法で小さな火を起こした。
「わざわざこんなところまで来てやることは同じですの?
何も変わってないですわよ。」
「いいえ!よく見てください!
やっぱり!火が少し大きくなってますよ!」
キリエは小さな火をよく観察した。
言われてみればひと回り大きいような変わらないような、若干大きくなった気がした。
「大きくなった気がしないでもないですわね??」
「そうでしょう!
これはつまり環境によって魔法の威力が変化したということです!
草木が多い森の中だと庭よりも魔力が集まりやすいので大きくなったんです!
キリエ様が使っているのは間違いなく精霊術です!!」
話に納得したキリエはハバキに教われば自分もお母様のような魔法が使えるようになるのではないかと少し希望が湧いた。
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