修行編

第9話 箒の魔法使い

あれから、お嬢様の奇行はぴたりとおさまった。


カンッ カンッ


「じいや!

もう十分剣も扱えるようになりましたわ!

そろそろお父様たちと魔物討伐にも行けますわよ!」


悪霊がいなくなってから3年。

お嬢様は10歳になり剣術も少しは上達してきた。


「何をおっしゃいますか。

上達したと言っても素人に毛が生えたレベルでございますよ。

このおいぼれに一太刀も入れられないようじゃまだまだです。」


じいやは昔、凄腕の剣士として名を馳せていた...訳でもなく、剣と少しの魔術を使う平凡な冒険者だった。

そんな平凡な、それも引退した老人にすら手も足も出ないのが、剣の才にも恵まれなかったお嬢様である。


「今に見ていなさい!

すぐにじいやじゃ相手にならないほど強くなりますわ!」


「ほほほ。それは楽しみでございますな。」


午前中は剣の稽古を行い、午後になると

座学を行う。


勉強嫌いは相変わらずだが、最近は魔物についてだけは積極的に学んでいた。

剣や魔術の才能がなくても魔物に詳しくなれば戦いようがあるのではないかと考えたからだ。


そうして報われない努力を続けるお嬢様の元に転機が訪れた。


「お嬢様。来客がいらしました。

旦那様が魔物討伐の際に出会った冒険者だそうです。」


そういってじいやは、とんがった帽子を被り丸い眼鏡をかけ箒を持った女性を紹介した。


「お初にお目にかかります。キリエお嬢様。

精霊術師のハバキと申します。」


「旦那様の手紙によるとハバキ様をお嬢様の精霊術の先生として雇われるようです。

ただし、精霊術を扱えるものは珍しいのでお嬢様に才があるか見極めるところからになりますが...」


「そういうことです。キリエ様。

まずは1ヶ月間よろしくお願いします。」


「よろしくお願いしますわ。」


精霊術師はしばらく住み込みで雇われることとなり、明日から精霊術の授業が始まる。


_______

「まずは座学から行います。

キリエ様は魔術と精霊術の違いはご存知でしょうか?」


「えーと、たしか...

魔術は自分の魔力を使って精霊術は外の魔力を使うんでしたわよね?」


「その通りです。

外と仰いましたが、地面、草、水、剣、あらゆる物にわずかに宿る魔力を借りて魔法を発動させることが精霊術と呼ばれています。」


「キリエ様は魔力が少ないと伺いましたが、実は私も魔力はあまり多い方ではないのです。」


「そうなんですの!?」


「ええ。精霊術に自分の魔力は必要ないので魔力量が低くても問題はないのです。

ただ、精霊術を扱うには物との親和性が大事だとか信仰心が必要だとか様々な説があります。

精霊術については未知の部分が多く、私自身もなぜ扱えるようになったのかは正直わかっていません。」

ハバキは照れながらそう言った。


「そんなんで大丈夫ですの...

本当に教えられるのか心配ですわね...」


キリエが懐疑的な目を向けたのでハバキは慌てて取り繕った。


「だ、大丈夫です!信じてください!

信じることが精霊術の第一歩なのです!!」


ハバキはいいことを言ったといわんばかりの顔をしているが、キリエは余計に胡散臭さを感じていた。

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