幼少期
第5話 夢にまで見た
「あのぉ...
お嬢様が心配なのはわかりますけど、
この謎生物を前にして触れずにいるとは、なかなかの大物ですね。」
そう言ってお嬢様を抱きかかえた老人の前に立ちはだかった。
それでも老人は頑なに反応しようとはしない。
「いや、わかってましたとも。
見えても聞こえてもないんですよね。
謎生物どころか生物ですらない幽霊ですからね。
視える方がおかしいですよね。」
(もうわかってたことだけど、やはり俺は幽霊になったんだな。)
(お嬢様にだけ見えるのは俺が取り憑いてしまってるからなのか。
それとも元々お嬢様はそういうのが視える人だから俺も引き寄せられてしまったのか。)
あれこれ考えながらお嬢様に目をやると、歩き疲れたのか老人の腕の中ですやすやと眠っていた。
_______
「ふぁ〜〜〜」
「...」
(酷い夢でしたわ。
変な悪霊に追い回さらて取り憑かれて。)
ベッドで目を覚ました少女は二度寝をしようと再び瞼を閉じて寝返りを打った。
「やっと起きたか。」
家では聞きなれない声にうっすら目を開けると、さっきまで重かった瞼がどこかへ弾け飛んだ。
少女の目の前には夢に出てきた悪霊が居たのだ。
「へんたーーーい!!!」
思わず上げてしまった叫び声に呼応してドタドタと足音が鳴った。
ガチャッ
「お嬢様!!何事ですか!?」
スーツを着た老人が慌てて部屋へ入り込んだ。
「大丈夫でございますか!?侵入者ですか!?」
老人の言葉に対してお嬢様は目の前を指差した。
老人は指の先の窓を開け、外を見渡すが誰も居ない。
「お嬢様。寝ぼけていらっしゃるようですね。
昨日は森にまでご冒険あそばされていましたからね。
そんなことばかりしているから悪い夢を見たのでしょうな。」
夢ではない。
確かにそこに居る。
お嬢様はソレが自分にしか視えていないことを悟った。
「なんでもないですわ!
私は寝るからじいやは早く部屋から出てってくださいまし!」
「もう朝でございますよ!
二度寝などなさっている暇はありません。
午前中には昨日おサボりになられた分の勉強をしていただきます。」
じいやによって布団は剥がされ、お嬢様は渋々起きることにした。
じいやは満足そうに部屋から出て行き、入れ替わりでメイドが入ってきた。
お嬢様が立ち上がるとメイドがお嬢様の服を脱がせ始めた。
「いつまで見てるんですの。変態さん。」
お嬢様の言葉にメイドは困惑した。
「申し訳ございません!
お嬢様のお体は見ないようにいたします。お許しください。」
「あなたに言ったんじゃないですわ。」
そう言い終えるとベットのそばにいる悪霊を睨みつけた。
悪霊はドアを通り抜けて部屋から出ていった。
_______
朝食を終えるとお嬢様の勉強の時間がやってきた。
「それでは、今日は魔法について学んでいきましょう。」
「魔法!!?」
悪霊はじいやの口から出た"魔法"という言葉につい反応してしまった。
「まずは簡単な復習からしていきますぞ。
魔法には体内の魔力を用いて発動する"魔術"と、
体外の万物に宿る魔力を用いて発動する"精霊術"があります。
精霊術は才能によるものが大きいため、まずは魔術について〜
「魔術と精霊術!!
俺にも魔力ってあるのかな!!万物に宿るって言ってたし!!
魔法が使えたら物に触れたり他の人と話したりもできるようになるのかな!!
俺も一緒に勉強させてもらうぜ!!」
心を踊らせた悪霊はじいやの話を遮り魔法への想いをぶちまけた。
「わかりましたわ!!うるさいですわ!!」
お嬢様はやかましい副音声を一喝した。
「うるさいとはなんです!!
お嬢様がおサボりになられるからこうしてみっちり詳しく教え直しているのですぞ!!
それをうるさいとは〜
「それはありがとうございますわ!!!
どうぞ続けてくださいまし!!!」
お嬢様はうるさい悪霊への苛立ちと、そのせいで怒られる理不尽に耐え、歯が欠けそうになっていた。
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