蒼き英雄

雨宮結城

序章

第0話 普通

 「(ふとした時に考える事がある、普通ってなんだろう。


 普通の家庭ってなんだろう。 親がいない子供は、普通ではないのだろうか、悪人でも立場が偉いなら優しくするのも、世間では当たり前の事なんだろうか、考えても、結局いつも答えは出てこない。


 ただ、俺の普通はモンスターを……倒す事だけ)」


 彼の名はアスタ。 この世界においては、ごく普通の十六歳であり、剣士である。


 この世界は、当たり前の様にモンスターが存在し、それに対抗する人間、彼らは剣士と呼ばれ、数ある職業の一つでありながら、人類と希望と呼ばれている。


 そんな剣士の一人であるアスタの日常は、モンスターを倒し、困っている人々を助けること。


 今日もまた、彼は人を助けた。


 「あの……」


 「ん?」


 一人の少女に声をかけられ、彼女の方へと振り向く。


 「えっと……その」


 お礼を言おうとしていたが、つい先程モンスターに殺される恐怖を幼くして体験してしまったばかり、手が震えていた。


 その様子を見て、彼女の手をそっと包むようにして、手を重ねた。


 「もう大丈夫だよ」


 「__こ、怖かった……」


 感謝を伝えようと声をかけた少女だったが、思わず涙が溢れ、アスタに抱きついた。


 そんな彼女の不安を取り除くように、優しく言葉をかける。


 「怖かったよな……もう大丈夫だよ。お兄ちゃんがやっつけたから」


 「あり、ありがとうお兄ちゃん……」


 今回助けた少女とアスタには、同じ点が一つ存在していた。


 それは親がいないこと。アスタは親の記憶がなく、少女は親に捨てられ、一人途方に暮れていた中、モンスターに遭遇した。 少女の悲鳴が聞こえ、急いで現場に向かいモンスターを撃破した。


 今回の様なケースは、実は初めてではなく、アスタは何度も体験していた。


 その中には間に合い助けられた人もいれば、その逆も存在する。


 人助けの為に剣士になった訳ではないが、困っている人を放ってはおけないと言う本能が、彼を動かしていた。


戦い続けて五年、使命感で初めた人助けも、今ではその考えが頭と身体に染み付き、相手がモンスターでも人さらいだったとしても、殺す事に一切の躊躇ちゅうちょなく、終わらせている。


戦いの最中、子供からは遠ざけている為、知る由もないが、今のアスタは、使命感と言う縛りに、苦しみを感じることなく、生きている。


だがそれでも、アスタは今も戦い続ける。


 助けられた場合、今まではこう言った子供を預かってくれる施設があり、そこに預けていたのだが、つい最近その施設に剣士を名乗る商売人が押し入り、男の子は殺され、女の子はさらわれてしまうと言う事件が起きた。


 それをきっかけに、アスタは今後助けたくても、助けるのを辞めようと考えていた。


 助けたはずの子供が、生きて怖い思いをする現実に心が打ちのめされたからだ。


 だが今回、アスタは考えるより先に、彼女を助けていた。


 この世界は、正義〘剣士〙と悪〘モンスター〙が戦うヒーロー映画の様な姿もある一方で、アスタが視ている現実は、当たり前の様に子供が幼くして、捨てられ、売られ、誰にも助けられる事なく朽ちて死んでいく、残酷な現実。


 それが、この世界にとっての普通。

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