第30話(最終話)
夕方、帰宅した勇太は顔面蒼白というか口を小さく結んで目が泳いでいて…なんだか魚みたいだった。
「おかえり、どうかした?」
「いや…千里、怒ってへん?」
「何をさ」
「いや、今朝…無茶苦茶してもうて…その、」
「いいよ、勇太が気持ち良かったならぁ」
私もそれなりだったし自己処理でイったし、まぁ秘密だけれど少々被害者ぶってはみる。
「…蒸し返して悪いんやけど…あの、旅行で行ったフーゾクなんやけどな」
「食事前にやめてよぅ」
「ちゃうの、あのー……あれな、に、」
「に?」
「にゅ、ニューハーフ、の店やってんて…」
落ち着かない眼球はぐらぐらと震えて瞳孔が開いて、よほどのショックだったことが窺えて…笑える。
おそらくその店はそれを売りにしているのだろうし隠してもいなかったのだろうと思う。
けれど酔いと
「………はぁ、」
「一緒に行った同僚に聞いてん、『お前知らんかったんかー』言われて…いや、分かるかいな…完全に女やったぞ」
「はぁ」
「今思やぁ変な感じはあってん、そうか…あれ人工物やってんな…」
きっと元・男性を是非に抱きたいという癖の人もいるのだろう。
けれど勇太は性対象が完全に女性なのだから…まぁ嫌悪感を抱くのも仕方がないか。
彼は鳥肌の立った腕をすりすりと摩って私に近付いて、
「なぁ千里、あのー」
と打診するも私は
「無かったことにはなりません」
と指でバツを作りわざとらしく目尻を下げてやった。
「ダメかぁ」
「ザマアミロって感じだね」
「…珍しい経験してしもた…千里、朝はすまんかったな、夜の部はゆっくり抱くから…許してくれ」
「うーん」
嫌な怪我の功名だね、ソファーで膝を抱える勇太を尻目に私は保温中の鍋に火を入れ直す。
「(そこを落とし所にするか…間抜けな結末…)」
何を真実とするかは当人次第、勇太の証言だって100パーセント本当の内容ではないかもしれない。
今だって私に見えないところで舌を出しているかもね、「上手くやった」って…そうなるともう真偽なんてどうでもいい。
「ちさと、最高♡」
「一番?」
「いちばん、千里♡愛してる、」
私は彼を信じる、その愛を、この温もりを。
でも50パーセントくらいね。
それが限りなく100に近付く日まで私は愛を試し、彼は愛を過剰に伝えては切なく鳴くのだろう。
おしまい
いっそ嫌いになれたら楽なんだけど 茜琉ぴーたん @akane_seiyaku
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