つじみやびさん企画、参加作品

2025年1月 第一回 匿名ライターズ杯 「一足遅かったクリスマス」

主催者:

 つじみやび

概要:

 作品受付期間:2024年12月27日(金) 23:59

 投票期間:2024年1月6日(月) 20:00

 作品レギュレーション:『一足遅かったクリスマス』をテーマに2,000字程度(ルビ・空白・改行は含まない)で書かれた短編小説


順位:3位/25作品

 詳細はこちら

 https://x.com/writers_cup_555/status/1876230175857480114


題名:

 あと一足遅かったわ


本文:

 トナカイの餌やりに手間取ってしまったのが敗因だな──


 私は原因を冷静に分析しながら愛トナカイの頭を優しく撫でてやる。


 彼だって自分の持ちうる最大のスピードで空を駆け抜けたのだ、結果は私だけが受け止めるべき。彼は決して悪くない。彼を褒めてやるのが当然だろう。




 トナカイのマップは、飼い葉桶にたっぷりと入った餌を貪るように食べる。そりゃそうだ。極寒の夜、荷物をタップリと積んだ空飛ぶソリを引っ張って、超高速で夜空を飛び回るんだもの。一回の輸送で無茶苦茶にお腹が空くよね。しっかりと食べて次は頑張ろーね。


 ***


 セント・ニコラウス貨物運送協会──クリスマスの日に世界中を飛び回り、子供達にたくさんの夢と愛情と、そして一番大事な贈り物おもちゃを届ける。そんな大事な使命を与えられた、この世界で一番有名な秘密組織だ。


 世界中に支店があるけど、日本支店も重要拠点の一つらしく、協会長からはいつも応援のメッセージとプレッシャーが飛んでくるんだって。お腹周りがぷにぷにして可愛い支店長のジョセフさんは、十二月に入りクリスマスへのカウントダウンを意味するアドベントカレンダーが世間に出始めると、それに合わせるように顔色が青くなっていく。なんか可愛そう。


 私はそこに就職した新人。

 普段は物流ドライバーの女性配達員なんだけど、クリスマスの時だけサンタの格好をした臨時サンタクロースって言うわけ。


 なんせ、たった一晩で日本中の子供達に荷物を配るんだもの。配送遅延は許されない、絶対にダメダメ。だけど認印は必要ないし、子供の枕元への置き配だけだから多少は楽かな。それでも目が回るような忙しさには変わりない。


 だからこそ、クリスマスの本番に向けて、十二月中は毎日毎晩、練習という名の本番さながらのプレゼント配送レースが、深夜の東京競馬場、明かりの消えた真っ暗な夜空で繰り広げられているの。


 昨日のレースも、もう一足のところで予選落ちだった。このままじゃぁ、当日子供達にプレゼントを配れない、緊急事態対応の予備サンタに回されちゃう。


 熟練のサンタ達は、レース途中に挿入されるトナカイ休憩を上手く使ってタイムロスが出ないように気をつけているけど、新人サンタの私はそれが出来てない。

 だから、そこは諦めて別の部分で勝負に出る。女性はオジサン達よりも体重で有利だから、スタートダッシュと各家庭への配達を模倣するジグザグダッシュで前に出るしかない。


 作戦は決まった。愛トナカイのマップは今日も絶好調らしく私に寄り添ってくる。頼んだよ。

 東京競馬場の地下にある秘密のサンタ控え室で、出走準備を始める。空飛ぶソリにプレゼント代わりの重りを載せ、レース用のサンタ衣装に着替える。

 よし、今日こそ予選通過だ! 私は両方の頬を両手でパチンと叩いて気合いを込める。


「お姉ちゃん、気負ってるとダメだぞ。サンタは笑顔が一番だ。俺たちは、子供達に夢を届ける商売だからな」

「あ、はい! 分かってます」


 私が緊張した面持ちで準備をしている横から、ベテランのサンタが優しく声をかけてくれる。


 そうか、そうだよね。分かってます、て返事をしたけど私は全然分かってなかった。勝負に勝つことしか今の今まで考えてなかった。


 ──サンタの仕事は荷物を早く配ること、だけじゃないんだ。


 そうだ、私がこの世界を知ったのは笑顔のサンタさんに偶然出会ってしまったからだもの。


 クリスマスイブの日、偶然夜中にオシッコで目が覚めたら、枕元にプレゼントを置き配してるサンタさんと目が合っちゃったから。

 その時のサンタさんは、驚いて固まってる私に向かって、にっこりと微笑んだ。それから、黙っててねというジェスチャーとして、自分の口元に一本の指先を当ててから、ゆっくりと後退り、庭に面した窓から出て行った。

 我にかえった私が、慌てて開いている窓から外を見ると、サンタさんは庭に浮かんだソリに乗って、ゆっくりと赤鼻のトナカイに出発の合図を出しているところだった。

 窓から顔を出した私に気がつくと、サンタさんはこちらを向いてから声に出さないように、メリークリスマスと口元を動かすと、空に向かって一気に上がって行った。


 全てが夢だと思ってた、次の朝。

 枕元のプレゼントが真実を告げていた。

 ──サンタさん、ありがとう。


 そうだよね。サンタの仕事。それはプレゼントを予定通りに届けるだけじゃない、想いを届けるわけだもの。勝ち負けにキリキリしてちゃあ、ダメか。

 作戦変更! 真心込めて全力作戦だ。今年がダメでも来年があるさ。


 私は笑顔を忘れないようにして、出走ゲートに向かう。


 ***


 やっぱり、あと一足遅かった、か。結局は予選落ちの予備サンタに。

 ──来年こそは、正サンタとしてクリスマスイブの夜空を駆け抜けてやる。


 愛するトナカイの首筋に、私は両手を回して雪辱を誓うのだった。


(了)

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