第24話

「立花会長って、もしかして立花財閥の立花会長?」

「ご長男か?」


探るような視線に晒されても由貴は平然としている。

役者の俺よりも舞台度胸がないか?


「年齢的にご長男ではないから、3人のご子息のどなた……いや、甥っ子という線もあるな」


「立花の創始者一族は子だくさんで有名だからな」

「どちらにせよ立花財閥の創始者一族の誰かということだ」


「どうしてこんな時間にうちの局に?」


ビジネス絡みの訪問には遅い時間。

何のために来たのか、俺も知りたい。


「立花の事業はいろいろあるから、思い当たる節が多過ぎる」


でっかい声のヒソヒソ話。

不敬な態度に由貴の機嫌を損ねるわけにいかない受付嬢が青い顔をして由貴の顔を伺う。


あなた、純粋な被害者。

大丈夫、あなた悪くない。


それに由貴はこんなことでは怒らない。



「本当にお気遣いなく。今日の私は運転手なのですよ」

「運転手、ですか?」


「ええ、父に”そろそろ終わった頃だろうから迎えに行け”と言われましてね。父ときたら一緒に食事をしたいからとお腹を鳴らしながら待っているんですよ」


周りが騒つく。


立花会長はよほどの相手でないと一緒に食事をしないことは有名。

嫌いな人と食べても美味しくないという理由なのだが相当な美食家だからだと噂されている。


噂って……。


「どこにいるか分からなくて、こっちが賑やかだからここにいるかと」


ウロウロしてすみませんと由貴がにこやかに微笑めば百戦錬磨の受付嬢がポッと頬を染める。


「私も一緒に……」

「ご親切にありがとうございます」


由貴が片目をつぶって見せる。

ハイソサエティの雰囲気は崩さず、ちょっと触れてみたくなる遊び人の風情を出している。


「でも、ここにいるので大丈夫です」


驚く受付嬢に背を向けて、由貴は手を差し出す。


「迎えにきたよ」


王子様かよ!!

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