第11話 ナイフ訓練
倒れ込んだ暁律の目の前にナイフを突き立て、冷ややかな言葉を言い放つ。
「次はこいつを覚えろ」
「……ナイフ?」
「そうだ。お前の次の相棒だ。このナイフを自在に扱えるようにならなければ、組織の人間にすら勝てない」
日下部はナイフで空を手に取り、空を切り裂いた。
「これをどう使えっていうの?」
「料理にでも使うのかと思ったのか?」
暁律が疑問を投げかけると、日下部は皮肉めいた笑みを浮かべながら答えた。
「そんなことを言ってるんじゃないわ。ただ、この武器でどう戦えばいいのかを聞いているの」
「お前は刃物を使った事がないのか?」
日下部は暁律の手元をじっと見つめながら問いかけた。
「……ないわね。少なくとも、人に向けたことは」
暁律は冷静に答えた。
「だろうな。持ち方を見ればわかる。刃物を使ったことがない奴特有の握り方だ」
日下部は軽くため息をつきながら、自分のナイフを手に取った。
「だったらお前にはこっちのほうが早い。これを持て」
日下部は木製のナイフを暁律に差し出した。
無言で木のナイフを受け取った。手に持つと、ただのおもちゃではないということが、分かる。
「これは訓練用のナイフだが……下手をすれば死ぬ」
日下部は軽く腰を落とし、自分も木製のナイフを構えた。その動きは無駄がなく、鋭い。
「死ぬ……?」
暁律が一瞬不安げに呟く。
「そうだ。この訓練でミスが命取りになるという感覚を、体で覚えろ」
日下部の声には容赦がなかった。
「来い。最初の一撃を仕掛けるのはお前だ」
日下部は冷静な口調で言い放つ。
暁律は足元の重心を低くし、素早く間合いを詰めた。
木製のナイフを突こうとするが、顔面に蹴りを入れられて吹き飛ばされる。
「お前はどこの通り魔だ?」
日下部は冷ややかな目を向け、皮肉たっぷりに言い放つ。
「……くそっ……!」
暁律は拳を握りしめ、悔しさに顔を歪めながらも立ち上がった。
「両手で持つって発想がナンセンスだ」
日下部はため息交じりに言いながら、木製のナイフを軽く振り上げた。
「両手で持つのが安定すると思ったのよ……悪い?」
暁律は鋭い目で言い返しながら、再び構えを直した。その手には依然として木製のナイフが握られている。
「悪いな。両手で持ってる奴はゴロツキか通り魔、あとはメンヘラ女だ」
日下部の辛辣な言葉に、暁律は鋭い目で彼を睨みつけた。
「……そんな分類、聞いたことないけど」
暁律は悔しさを押し殺しながら、再び構えを直した。その手には木製のナイフがしっかりと握られている。
「冗談じゃない。現場でそんな奴らを何人も見てきた。だから言ってるんだ」
日下部は冷たく言い放ち、ナイフを軽く回してみせた。
とにかく、片手で扱うことに慣れろ。それができなければ、お前に生き残る術はない」
「わかったわ。もう一度やってみる」
暁律は深く息を吸い込み、再び身構えた。
今度は、片手での動きに意識を集中させている。
「いいだろう。来い。次はそのメンヘラ女レベルから脱却できるかどうか試してやる」
日下部は冷ややかな口調で言い放ち、再び構えを取った。
暁律は息を整え、片手でしっかりと木製のナイフを握った。
「メンヘラ、メンヘラうるさいわね……」
暁律は小さく呟いた。
「なら、脱却できるか試してみろ」
日下部は冷ややかな笑みを浮かべた。
暁律はナイフを握り直し、日下部に突進した。
「その程度ではダメだ」
日下部は突進して来た暁律を拳で叩きつける。
「ぐっ……!」
「勢いだけでどうにかなると思ったのか?メンヘラ女」
日下部は冷たく言い放ち、腕を組んで彼女を見下ろした。
「お前みたいなメンヘラ女が、この程度でどうにかなる相手だと思ってるなら、話にならないぞ」
暁律はゆっくりと体を起こしながら、日下部を鋭く見上げた。
「……メンヘラ女、メンヘラ女って……それしか言えないの?」
「気に食わないなら、一回でも私にナイフを当てられるようになってから言うんだな」
日下部は冷たく言い放ちながら、再び構えを取った。
「……いいわ。その言葉、後悔させてあげる」
暁律はナイフを握り直し、目の前の日下部に意識を集中させた。
「いい心意気だが、口だけではどうにもならないぞ。動け!」
日下部の声が響いた瞬間、暁律は一気に前に踏み込み、鋭くナイフを繰り出した。
「遅い。いまのでお前は確実に死んでいる」
「くっ……」
暁律は歯を食いしばり、再び間合いを詰めるべく動いた。
しかし、日下部の動きを捉える事は出来なかった。
「ただナイフを振り回してるだけでは、チャンバラと同じだ」
日下部は冷たく言い放つ。
「くそっ……!」
暁律はナイフを握り直し、再び構えを取る。
「ナイフはただの道具だ。重要なのはお前の使い方次第だ」
日下部の冷静な声が響く中、暁律はじっと日下部の構えを観察した。
「……使い方次第、ね」
暁律は小さく息を吐き、再びナイフを握り直した。その手には痛みが走るが、気にしている余裕はない。
「ナイフは便利な道具だが、使い方を間違えれば人を殺せる」
「……そういう使い方で持つんじゃないの?」
暁律は目を伏せず、日下部をまっすぐに見つめた。
「全然違う。これを持ってみろ」
日下部は腰からナイフを抜き出し、暁律に差し出した。
「これがナイフを持つ人間の重みだ」
日下部の冷たい言葉に、暁律は一瞬だけためらったが、覚悟を決めてナイフを受け取った。
「……これが本物のナイフ」
暁律は静かに呟き、その刃先を見つめた。
その重みを忘れるな。ナイフを持つということは、命を預かるということだ。敵の命だけじゃない。お前の命もだ」
日下部は厳しい声で言い放ち、暁律を見つめた。
暁律はその言葉を噛みしめるように静かに頷き、ナイフを構えた。
「覚悟はできてる。私にはこれしかないんだから」
「いいだろう。それなら見せてみろ。お前がこのナイフを持つに値するかどうか」
日下部は構えを取り直し、冷静な表情のまま静かに言った。
暁律は深く息を吸い込み、目の前の日下部に向かって一歩を踏み出した。
その手に握るナイフが、これまでとは違う重さを持って彼女の意志を試しているかのようだった。
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