第八話【迷子注意】_11月11日 黙示録1×2×2
生徒会終わりの部活、一言で言うと僕は_疲労感が溜まっていた。椅子に座ったまま部室の机の上に頭を預ける。机が少しひんやりしていて、気持ちだけにはなるが少しづつ疲労感が取れていった。今日はいつもの実験器具の音が聞こえない。兎耳先輩は、僕のことを心配するかのように反対側の席で僕に視線を向けていた。
「…」
「…」
「…疲れ過ぎじゃない?全部一人で頑張ってたりするの?」
「僕が招いたことなので。あまり他の人に任せるのも図々しいというかそんな気がしますし。」
「朝麻は真面目すぎて怖い」
真面目に怖いもクソもないでしょ
「いつか過労死しちゃうよ?」
「そこまで馬鹿ではないです」
先輩の心配を無下にしようという気は一切ない。心配しなくても大丈夫だと遠回しに伝えるために先輩に言葉を返しているまでだ。机に顔を預けているので、先輩がどんな顔をしているかは見えない。そのとき突如として…勢いよく部室のドアが開く音が聞こえた。
「しっつれいしまーす!」
「朝麻、誰か来たよ」
「…」
返事をする気力を沸かしているうちに、部室への訪問者…阿野佐が困惑したかのような気配を察知する。当然だ。自分の友だちが机で寝ているかのような姿勢を取っていてその前にかの変人で有名な先輩がいたら誰だって困惑する。
「えっとぉ…朝麻、忙しい中来てごめん」
友人に言葉を選ばせながら怠惰な自分に謝らせるバカがいるもんか。当然ここにいる。まじでごめん。
「こっちこそこんなだらしない態度で迎えてごめん…」
「いや顔は合わせようよ」
珍しく僕が先輩に正論を言われた。確かに友達だとしても顔を合わせないのは心配の元、つまりよろしくない行為だ。僕は顔だけ左側に動かし、机からは上げないまま話を続けた。
「それで…用事は?」
「…ちょっと助けてほしい」
いつもは自分で解決できる阿野佐が助けてほしいなんて、よっぽどの事態なのだろう。流石に顔を机から離した僕は少しの間思考を巡らせる。その間にも先輩は阿野佐と話していた。
「これ俺聞いていいやつ?」
「もうぜんっぜん大丈夫です!嫌なら聞かなくても大丈夫なので!」
「なら聞くか」
「配慮とかないんですか」
後輩とその友達の重要な話を聞こうなんて、ちょっと配慮が足りないぞ
「助けてほしいなんて、大事っぽいじゃん」
あれ、意外と好奇心じゃなくて真面目に事を受け取ることもあるんだ。
「ありがとうございます!」
そう言って、今度は阿野佐が顔を下げた。僕とは違い、机ではなく床に。兎耳先輩が大事と捉えて話を聞いてくれるなんて、それでも心強かったのだろう。先輩だし。
「阿野佐、顔上げてよ。僕が恥ずかしい。」
そういったのも友達に気を使わせないためである。
「うん、そうだね。話戻すけど、一言で言うなら助けてほしくてさ。」
「…何があったの?」
先輩が阿野佐を諭すように言う
「まず大前提で俺の兄がこの学校で不良やってるんだけどさ」
阿野佐に兄がいた事自体知らなかったし、ましてや不良やっているなんて初めて知った。確かに不良やってる自分の兄の話をしたがる健全な生徒はいないだろうから。
「兄がいっつも母も父も困らせるもんだから、流石に参っていて」
自分も困っていると言わないあたり、阿野佐は本当に優しい。心の中でも黙って話を聞けないのかと、僕は僕に赤信号を見せつけた。
「それで昨日、いや一昨日かな?兄に言ったんだよ。そろそろ真面目に生きたほうが良いんじゃないかって。もうすぐ受験生でしょって。そしたら兄弟喧嘩になっちゃってさ、結局今度学校で決着つけようぜみたいなのをあっちが勝手に取り付けてきてさ…。来なかったら、俺のことを殺すとか脅されて。まじでやばいんだよ。でも兄は他の不良仲間といっしょに来るみたいだし、俺もその…他の人に助けてもらっても良いんじゃないかと思って…。なので、この学校にいるまともな能力者のいる科学部の人に助けてほしいんです!」
「…なるほど。確かに兄とその仲間に一人で追い詰められたら流石に勝てないどころか最悪入院になっちゃうか。脅された証拠もないみたいだし、何より相手もまだ子どもだから先生も対応しにくい。…能力者に頼ろうと思ったのは、あまり大事にしたくなかったからで合ってる?」
「うん、合ってる」
「本当に俺とかでいいの?」
「もう全然大丈夫です」
「どうする?朝麻」
このどうする?の意味が助けるかどうか、それともどうやって助けるかのどちらでもないことは僕には分かっていた。先輩が聞いているのは、おそらく僕が行くか先輩が行くかの話。
「…先輩はちょっと怖いので、僕が行きます」
「まあそう来るか」
「朝麻、本当にありがとう!」
…土下座するほど、嬉しかったんだな。でも土下座は謝る時の姿勢だぞ。
「じゃあ時給1000円で」
「朝麻のこれは冗談だから気にしなくていいよ」
…確かに半分は冗談だけど、半分は本気ですよ先輩。
…さて、今目の前にいるのが阿野佐の兄とその仲間。僕の隣にいるのが阿野佐。どっち側にもいないが、遠くから両方を見ている満面の笑みを浮かべた兎耳先輩。今にも雨が降ってもおかしくないほど一面真っ黒な雲が漂っていた。
「…まさか弟が生徒会長連れてくるとはな」
「…ルールとかはありますか?事後に揉めごとになるのは避けたいので。」
不良なら喧嘩腰でも許してくれる…というよりかはあまり気にしないだろう。
「じゃあどちらかが5分以上行動不能にするか、降参しますと言うまでだ」
「能力の使用は?」
まあおそらく髪を染めただけだが、あえて相手も能力者っぽいと仮定して交渉する。
「使わないといけないのか?」
「でも元々は能力を持ってない阿野佐に仕掛けた勝負ですよね?もしその状態であなたが能力を使った場合、どう考えても貴方のほうが有利になります。なら僕が来ようが来なかろうが能力の使用をルール上許可するのが鉄則では?」
この論理には穴がいっぱいあるが、そんなこと言及できるほど頭は良くなさそうだ。交渉という名の勝負を有利に進めるためのゴリ押しを、相手は受理した。
「分かった。能力の使用はOKしよう。ただしどうなっても知らないぞ。」
…やっぱり学がない。力の差が分かってないんだろうな。
「じゃあ18時にスタートだ」
…残り1分。交渉が設立したおかげでもう勝利は確実だった。ルールで「5分以上行動付のにする」と明言されていた、ってことはいくつか倒し方があるってことだ。相手はたぶん怪我して動けなくなる…救急車を呼ぶほどの事態を想定しているのだろうが…言い方が悪かったな。ルールはルールだ。阿野佐からは不安げな表情が、兎耳先輩からはちょっと楽しそうな表情を向けられる。あまり大事にしたくない、と阿野佐に言われていたので平和に終わる方法はいくつか考えていた。その作戦の中から一つを選び出したころにはもう開始5秒前で、僕は指を構えた。
「4…3…2…1…0」
相手がゼロと言った瞬間に指を鳴らす。いわゆる指パッチンだ。指パッチンを鳴らした瞬間、僕のイメージ通りに阿野佐の兄のみ眼の前から消えた。「全員」5分以上行動不能にしろ、とは言われてないため、これで大丈夫なはずだ。阿野佐の兄を選んだ理由は、ルールについて細かく言われると面倒だからの他ままならない。一方相手の仲間…だけでなく阿野佐も呆気に取られていた。…少し思考の時間を取った結果、これが誤解を招く事態だと分かったため、改めて説明をするとしよう。
「安心してください、別に存在が消えたわけじゃないので。今頃、阿野佐さんのお兄さんは家でスヤスヤ寝ていますよ。誰かが起こさない限り、5分が経つでしょうね。今から走って家に行こうとしても間に合いませんし。」
ようやく事の展開を掴めて安心したのか、各々が表情を変えた。阿野佐は安堵の表情を、相手の仲間は完敗とでも言いそうな表情をしていたが、若干引かれていた気もする。兎耳先輩が僕の近くに寄る。先輩の表情はさっきとはあまり変わってないが、楽しそうな表情から、ちょっとニヤニヤした表情に変わっていた。
「朝麻、わざとでしょ」
「…何がですか?」
「本当は指パッチンなんてしなくても能力発動できるんでしょ」
…細かいことを気にしないのが先輩だが、気にしないのと気づいているは違う。現に、先輩の鋭い観察眼のせいで発動条件に指パッチンが含まれていないことを見破られてしまった。
「なんで分かったんですか?」
「だって、指パッチンの音がなる前にすでに阿野佐のお兄さんが視界から消えてたもん」
意外と単純な理由で見破られたことに、少しふてくされた。
その日の深夜、僕はリビングで勉強をしていた。節電のため、2つある明かりのうちテーブルに近い片方の電気のみついている。つい一週間前に買ってもらった数学のワークを見ながら、答えをノートに写す。しばらくそうしていると、洗濯物を室内に干し終えた母がリビングに戻ってきた。母はそのまま台所まで行き、コップを持って水道水を入れて水を飲む。コップをシンクに置くと、そのまま僕の近くまで寄ってきた。構わず勉強を続ける。
「…」
「朝麻?」
「何?」
「そろそろ寝なよ?」
一旦顔を上げ、いつも近くに置いている時計を見る。時刻は11時11分。時計を眺めていると集中力が切れてしまうため、そそくさとワークに目を戻し、ノートに答えを書き込みながら答える。
「うん…このワーク終わったら寝る〜…」
「それってあと何ページなの?」
「んー…24ページ…」
24ページぐらいであれば、明日の3時までには終わるだろう算弾で言った。
「…ワーク終わらせなくてもいいから、できるだけ早く寝ていいよ」
「分かった…」
「…ごめんね」
「何が?」
いきなり謝られるもんで、何か悪いことでもしてしまったか不安になり、今度こそちゃんと母の方に顔を向けた。母はそのままバツが悪い顔で言う。
「本当は塾とか通わせてあげたいんだけど、私が離婚しちゃったばかりにお金が足りなくて…」
「…お母さんが謝ってどうすんの。別にワークとか参考書とかノートは十分に買ってもらってるし、第一お父さんがいたらこんな集中して勉強できなかっただろうしさ。」
なんだか悪く思ってないことで謝られ、またワークに目を戻す。でも、これだけはちゃんと言っておいて母親を安心させないといけない。
「まだ返せないけど、いつか育ててくれた分ちゃんと返すから」
「…」
本当に返せるかどうかは分からない。現に、今はどう考えても人生が決まる瀬戸際の一つに立っていると言えるだろう。たとえ嘘でも、無駄な気遣いをさせてしまうのは気が引けるので安心させておくのが一番だ。
「じゃ、おやすみ」
僕にまだまだ寝るつもりはない。でも母に勉強しているところを見られているのも恥ずかしいので、先に母に寝てもらおうと思ってそう言った。
「はい。おやすみ。」
外からの音がまったくない室内で、母が寝室のドアを開ける音だけが響く。自分にとって簡単なワークを解いているせいか、頭では勉強ではない余計なことを考えていた。
5W1H…Who、When、Where、What、Why、How
Who…セッケツ アヤマ
When…November 11th,at 8 p.m.
Where…A big forest
What…Killing "some animals"
How…With "a knife"
Why…Thinking
…木々の間をすり抜けるように降ってくる雨が、兎耳の髪を濡らしていた。濡れているおかげで青緑色の髪が、今日は一段と濃く見える。
いつも通りであれば、そこにはブルーシートがしかれ、数々の実験器具が置かれ、それでいて一匹の動物だけがそこにいるはずだ。いつも通りなら、匂いを嗅ぎつけてやってくる熊も、蟻も、綾真を見て逃げていく。いつも通りなら、兎耳は楽しそうに、純粋無垢な目を輝かせながら動物の体を弄び、弄り、殺す。いつも通りなら…
いつも通りではないから、兎耳の頭の中は黒い背景で英語を打っている。5W1H、こんな内容があってたまるものか。本当にあるなら、ホラー見を感じる。それでいて、もしそれを見るなら夜にしか見たくないとも思う。
兎耳が自分の頭の内、心の声を明かすことはない。否、正確に言うならば、「言語化」することができない。ズレた発言をしていれば、大抵のことは平和に終わる。中途半端に目立って、トップになる前に勢いを殺す。いつだって、死と隣り合わせだと考えたって、行動が変わるわけでもない。
雨が、今にも地面に染みそうな血に混じる。今日は、ブルーシートなど敷かれてなかった。実験器具もなく、唯一の狂気が月明かりに照らされているナイフだけ。そのナイフは、兎耳が持っている。死んでいるのか生きているのかも分からない動物は、一匹、もしくは一頭よりはるかに多い。原型を留めていなくても、流石にこんな大きい動物はこの森にはいないことが分かる。不気味だ。血の匂いを嗅ぎつけてくる動物もいないせいで、雨が葉っぱを揺らす音以外、何も聞こえない。風すらも音を立てない。
楽しそうな顔、純粋無垢な目を、今日の綾真はしていなかった。無表情だ。目の中の瞳だって、今や死骸しか写っていない。好奇心の反対は、無関心。はたしてそうだろうか?胸の中で煙が空気に溶ける。重たい血の塊のようなものが、兎耳の煙を消して、黒い空気の循環を阻止していた。みんなの指す興奮を、綾真は知っている。しかしなんとも言えない感情があるように、一つの感情にも種類がある。興奮が2種類あるなら、片方が体や表情に出るもので、もう片方は勝手に心を沈めるオモリだろう。今の兎耳は、後者だった。
黒い背景に、2本の青いラインが走る。その直後に、緑色と赤色をカモフラージュしたかのようなボヤが、真ん中と左下に現れる。真ん中より、少し左側に白い蛍光灯…学校の天井にあるような棒状のものが、ぼんやりとして見えた。
ナイフについている血を、少し舐める。ナイフの味か、はたまた血の味か、どちらも鉄の味がするので、判断することは難しい。動物の血液の中に人体に有害なものが入っていたとしても、どうでもいい。
今や野生動物が連続で故意に殺されているなんて、誰も気に止めない。曖昧なところで、兎耳は止まっている。でも、これだけ死んでいたら、たぶんちょっとは誰かしらのトラウマになるかもしれない。一度家に帰ってから、寝たフリをして、そして親が寝た頃にまた出かける。出かける前には、もちろん着替えていた。倒れたくなって、倒れる。さっきまで綺麗に流れ出していた血も、雨で冷やされて固まり始めていた。さっきまで暖かった動物も、もう冷たい。
兎耳は、明日が来るまで、ずっとずっと、そこで寝ていた。正確には、寝たフリをしていた。
「…」
目を覚ます。本当は覚めてはいないのだが、この世界に入るためにそうやって言ってみた。いつも通りの教室。ただいくつも違う点をこれから挙げたいと思う。まず教室が異様に綺麗。確かにまだ僕が十分に制御できていない不良共の落書きが消えているというのもあるが、それを覗いても壁や黒板は汚れ一つなかった。黒板の一番右端には、「十一月十一日」と日付のみ書かれている。日直は書かれていなかった。時計も、今は10時を指している。朝か夜かで言えば、窓の外に広がっている人のいない暗い校庭を見れば分かる。22時、青少年保護法で16歳未満が保護者の同伴があってもゲームセンターに入れなくなる時間だ。別の地域ではもっと早いところもあるらしいが。
最期に違う点は…先生もクラスメイトもいない中で、隣の席に兎耳先輩が座っていることだった。本当は僕が起きたことに気づいているくせに、先輩は前を向いたまま目を合わせようとしない。そんな先輩の態度に何を思ったのか、僕は先輩に話しかけた。
「おはようございます」
「おはよう、朝麻」
声が教室に響かない。耳元で喋られているかのように、声の聞こえ具合はとても鮮明だった。
「先輩は夢の中ですか?」
「確かに倒れはしたけど、実際に寝たのは明日になってからだよ」
「奇遇ですね。僕もです。先輩とは違って倒れはしなかったですけどね。」
「じゃあお互いに夢の中じゃないね」
追加で質問をしなくとも、深野先生が何も言わずに前の教室のドアから入ってくる。そのまま本来なら今日の日直が書かれているところに、先生は自分の名前を書いた。「授業担当 深野愛里」。どうやら先生は「愛里」の字にこだわりがあるようで、何度も黒板消しで消してはチョークで書いてを繰り返していた。
「話しかけないの?」
「笑わせないでください。話しかけてはいけないことぐらい分かってます。」
「なんだ。つまんないの。」
ようやく納得いく字になったのか、先生は僕らに向き直り、そのまま授業を始めた。先生の声は聞こえない。口が動き、手が動き、この教室の全ての席に生徒がいるかのように授業をする。
「なんで僕の担任じゃなくて、先輩のところの担任なんでしょうね。」
「科学部の顧問だからじゃない?」
なるほど、確かに僕と先輩の共通の先生と言ったら深野先生だ。納得がいった僕は、何を喋っているか分からない深野先生に目を戻す。僕らが普通に話していても、先生は教室全体を見渡しながら話し続けている。そして先生は、口頭での説明では理解しにくい内容を黒板に書き始めた。その黒板に見た内容を見て、僕はようやく先生の話している内容を理解する。
「…能力者について、ですか」
「どうやらそうっぽいね」
先生は全部で何色あるか分からないチョークの色を変えながら、一つのグラフを書いていく。「能力の強弱は、髪色によって大きく分けられる」、こんな説明書きは赤色のチョークでギザギザの吹き出しに囲まれていた。吹き出しの先には、その一つのグラフ。左右両方に矢印の書いてある横棒の上には、左から赤、オレンジ、黄色、緑、そして青の順にそれぞれの色の丸が書かれていた。横棒の下には、左側に「弱」、右側に「強」と書いてある。
「紫が書かれてないですよ」
「まあ紫入れたらこのグラフわかりにくくなっちゃうしね」
「普通に棒を円にしたらいいのに」
「これだけ見ると、青緑色でちょっとオレンジの入っている髪色の僕より、ちゃんとした青色の髪色をした朝麻の方が能力強いことになるね」
「可能性としてはそうですね」
「けどさ、こうなったらそれが一変する」
先輩がそういうと、深野先生が今度はもう二つのグラフを書き始めた。「能力の強弱を分ける他の要素」。今度はさっきのグラフの左側が赤色で、右側になるにつれてだんだん白色に近づいていく。先生はその色彩の濃さを、白と赤の比を変えて書くことで表していた。そしてもう一つのグラフでは、左側が何も書いてない丸_いわゆる黒板の色、黒色で、右側は白色だった。これもまた黒と白の比を変えて表していた。
「ほら、これも含めて考えると、僕のほうが朝麻よりちょっと色が薄いし、明るい色している。それでもベースは暖色系か寒色系かって話にはなっちゃうから、僕の能力は朝麻と同じか、それより強いかって感じだね。」
「確かにそうですね。あくまで傾向ではありますけどね。」
深野先生のチョークを持つ手は止まらない。次は「能力者の世界人口…約6974万人」と黒板に書かれていた。
「…能力者の世界人口は約100人に1人っぽいね」
「寒色系より暖色系の方が人口多いらしいですよ」
「そりゃそうか」
いつ、どこで仕入れたか思い出せない知識を披露している間に、先生が今度は「よくある誤情報」と、書き出した。僕はそれをどう会話に繋げたものかと、一度読み上げてみる。
「…誤情報 能力が強いほど戦闘向きの能力者が増える」
「これテストに出そうだね」
「出ませんけどね」
「なんでこんな野蛮な誤情報が出回るんだろう」
「簡単な話じゃないですか?能力が強いほど出来ることが増えるんだから、もともと戦闘向きの能力じゃなくても使い方次第で戦闘もできるようになるって話だと思いますよ。」
隣から笑い声が聞こえてくる。何事かと先輩の方を向くと、先輩はこちら側に顔を向けていたずらが成功したときの子どものように笑っていた。しまった。嵌められた。
「身に覚えがあるような言い方だね?」
「いやわざと嵌めましたよね…」
「ごめんって。でも僕もそれは間違いじゃないと思う。」
あくまで考察ですけどね?先輩にしてやられたことが少しくやしい。また嵌められることを避けるためにいつの間にか追加されていた次の項目を読み上げる。
「…犯罪件数では能力者が起こしたものの方が多い」
「これも誤情報か」
「先輩のコツコツ溜めてきた犯罪件数合わせれば誤情報じゃなくなりそうですけど」
意外に思われるかもしれないが、本気でそう思ってるぞ
「でもそれで言うなら能力者の方が犯罪の隠蔽しやすいだろうし、もともと明るみになってないだけで実際はもっと多いんじゃない?」
それ遠回しに先輩がそんな犯罪歴持ってないみたいなことを言っているんですか?
「あり得なくはないですね」
「あとは自称能力者気取りの人とかが犯罪を起こしても誤解されてそうだし」
僕の学校にいる不良とかがいい例だな
「先輩、今さっき自分でこれは誤情報じゃないかもみたいなことを言ってませんでしたか?」
「忘れた」
深野先生の動きが突如として止まる。その瞬間に、先生が考えていること、僕と先輩のどっちかに言いたいことを考えている、それが自分にも伝わってきた。原理は分からないけど、先生の思考が自分にも分かるってのはあってるはずだ。先輩が分かっているかどうかは知らない。
「…先生、止まりましたね」
「…うん」
「黒板に書く気がないものを考えたってどうしようもないと思いますけど」
この言葉を先輩は無視した。理解できてないのか、理解はできてるけど返事はしないのか、どっちなのか反応から伺えない。代わりに、先輩は関係のない質問を投げかけた。
「ねえ、朝麻から見て「あれ」はどう見えてる?」
あれ、深野先生がどう見えているかなんて聞いてどうするのか。でも言ってみれば、言葉で言い表せないものを感じてはいる。それに一番近い言葉、
「どうって…怖いですよ」
「たとえば?」
「迂闊に名前を読んだら戻れなくなってしまうところとか、あとは」
これが怖いと思っているのか、自分に問う時間を少し設けてから最期まで答えた
「……気を抜くと、ピンク色のぶよぶよに見えてしまうところとか」
「…そっか」
廊下に、モヤがかかる。モヤがモヤに押されて廊下を暗くしていく。そうして一瞬のうちに、廊下は真っ黒になった。モヤが動いたあとも、もう見えない。
「…閉じ込められたね」
「どうするんですか」
「先生が廊下に消えるまで待つ。それしかなくない?」
「確かにそれしかないですよね」
先生の考えていることがわからなくなってくる。先輩と静かにそのときを待つ。ぼやぼや視界が白くなりゆく端で、ようやく先生が廊下に出ていくのを見た。吸い込まれるように、暗闇に姿が消える。
「…短い授業だったね」
「…ですね」
教室に黒い煙が増える。匂いが分からないため、それが火事によるものなのか、はたまた自然発生したものなのかわからなかった。廊下の黒は消えない。薄れもしない。僕は正面を向いたまま、教室の後ろから出てくる黒い煙に視界を少しずつ奪われる。どこからか、ゴボゴボと音がした。実際には水なんて1mmもないのに、体では教室に水が溜まっていくのを感じる。水から泡が顔を出し、ゴボゴボと言う頻度が増える。先輩の方は、見なかったし、見てはいけなかった。ただずっと正面を向いていると、ゴボゴボという音が薄れるとともに、聴力検査で聞く、あの「ピー」という音が少しずつ大きくなっていた。視界が黒くなりゆく。息がしにくくなるわけでもない。ピーと耳元で音が大きくなりつつある。
また真っ黒になった瞬間、ピーという音がプツンと消えた。
ある日、僕は一つの教室で、青いビー玉と、青緑にオレンジ色のアクセントが入ったスーパーボールを見つけました__by.Writer
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約束通りなるはやで八話を仕上げました、どうも僕です
今回胃もたれしました。なぜか。
物語の内容が重すぎたからに決まっているじゃないですか(((
後日、いるかどうかわからない解説を投稿しようかなと思います
ということでテス勉頑張るぞ〜!!!
ってことで次話までGood night
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