第2話
「お疲れ様でーす。お先に失礼します」
狭苦しいキッチンで鍋を振るっている店長にそう声を掛け、俺は裏口から外へ出た。
はぁっと吐いた息が白い。
もうすぐクリスマスか……。
今年は本格的な七面鳥が食べたいな。
そんなことを考えながらダウンジャケットのポケットに突っ込んでいた手袋をはめ、ネックウォーマーを身に着けた。
ようやく今日のバイトが終わった。時刻は夜の八時過ぎ。いつもは閉店時間である九時までの勤務だが今日は客入りが少なかったので早く上がることになった。
早く帰れて嬉しい反面、その分給料が減るのは当然ながら痛い。
まぁ、賄いとして炒飯と豚の角煮を貰えたしそれで良しとするか。
裏に停めておいた原付バイクにまたがる。この時期のバイクは辛いものがある。
ヘルメットを被ろうとした時。マナーモードにしていたケータイがダウンジャケットのポケットの中で静かに震えた。サブディスプレイには「母」の文字が浮かんでいる。
ケータイを開くと同時に着信音が切れてしまった。着信履歴を確認するとどうやら何度か電話が掛かってきていたようだった。
普段電話なんて滅多に掛かってこないのに。
なんだか悪い予感がした俺は急いで折り返す。
母親はすぐに応答した。
「もしもし? 何かあった?」
「宏司! あんたなんで電話に出ないの? さっきから何十回も掛けてるのに! どうせ遊び惚けてたんでしょ。あんたは昔から……」
いつもの小言が始まった。まともに聞いてられない。
「で、何? 大した用事が無いなら切るよ」
「まったく……。あのね、さっき本家のおじいちゃんが亡くなったんだって。お通夜とお葬式があるから一度こっちに戻って来なさい。お父さんと待ってるから、三人で本家に行こう」
へぇ。
という感想しか浮かばなかった。
おじいちゃんと言われてもすぐには顔が浮かんでこないくらいには思い出なんかない。だからこれっぽっちも悲しくもなかった。
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