きみと唄う春色バラード
雨野 天遊
開幕
第1話
ひらひらと舞い散るピンク色の花びらも、黄ばんだ校舎の壁も、砂埃の立った校庭も――。
初めて見るはずなのに心惹かれる景色はない。
教室内には、初めて会うクラスメイトが姿勢を正して座っていて、教卓に熱い視線を送り、真剣に話を聞く人がほとんどだ。
そんな中、担任の先生の話を聞かず、ただただパンフレットでこの学校の配置図を眺めていた。
見つけた――。
私は目的の場所を見つけ、猫が描かれているペンケースから赤ペンを取り出し、この教室からその目的地までの道筋を丁寧に描く。
準備が終わったので、あとはつまらない先生の話が終わるのを待つのみ。
気持ちはふわふわと宙に浮いていて、この教室の天井に頭をぶつけてしまわないように気をつけなければいけないと思う。
ふっと笑い声をこぼしたら、隣の子がこちらを見ていた気がしたので、窓際に顔を向けて誤魔化した。
先生の話が終わると同時に、ガーガーと椅子が床を摩擦する音が響き渡る。
クラスメイトとすでに仲良くなっている子や黙々と片付けをする子など、さまざまな人がいる。
私はそれを横目に一番乗りで教室を出ていた。
先ほど赤ペンで描いた地図の上をなぞるように、目的の場所まで走る。
同じ制服を着た生徒たちが邪魔だったけれど、急いでその横を駆け抜け、目的の場所につくまで五分もかからなかったと思う。
たくさんの空気を体内に取り込んで「ふぅー」と息を吐き出し、お手本のような深呼吸で高鳴る胸を押さえつける。
走ったせいで荒くなった呼吸と心音が落ち着いていくと、第二音楽室の中から音が聞こえた。
そっと、忍び足で扉の前まで近づく。
扉に耳をぐっと押し当てると、胸がきゅっと縮まるような思いをした。
私の体を簡単にすり抜けてしまうような、透明感のある歌声が耳に流れてくるのだ。
もっと、もっと、もっと――。
その声への渇望から、体を音楽室の扉に押し付けていた。私の重みに耐えられなくなった扉はぎーっと音を立てて開いてしまう。
そのまま吸い込まれるように夢の世界へ足を踏み入れた。
白い光の差し込む窓際には、亜麻色の髪に白いヘッドホンをつける妖艶な女性が佇んでいる。
ヘッドホンをしているからか、私には気がついていないようだ。
私はこの人を知っている――。
だって、この人が私の人生を救ってくれたのだから忘れるわけがない。
ドンドンと体の中で和太鼓が鳴っているような気分だったけれど、気にしないふりをして、体に力を込めてその人の近くに駆けつけた。
私が真横に勢いよく近づいたからか、その女性はビクリと体を動かし、歌うことをやめて私のことをやっと見てくれた。
すっと白色のヘッドホンが艶がかった髪の上をスライドし、首まで落ちるとその女性はこちらを睨んでくる。
今まで感じたことがないくらい心拍数が引き上げられ、口から心臓が飛び出そうな感覚に襲われる。
目も、鼻の穴も、口も大きく広がり、もう一度大きく深呼吸をした。
ここからが私の人生の始まり――。
「
これが、私の胸を焼き焦がすほど苦しく熱く温かな想いを教えてくれる人との出会いとなった。
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