第27話 双神オリベルとアミュ
「ご苦労でした」少年は微笑んでリミアに声をかける。
‥あれ?人間の言葉だ。
てっきり神語で喋ってくると思ってたのに。もしかして、魔法使いを警戒してるのか?それとも、ただたんに、もてなす為に神語をじゃべらないのか?
「ようこそ、冥界第六層へ。貴方がツバキ・ヨウですね。貴方が来る事は冥界神様から伺っています」少年の笑顔がヨウに向けられた。
「え?お二人が冥界神‥様ではないのですか?」
「ええ。我々はこの第六層を管理する神であって冥界神ではありません。冥界神様は第一層から六層まで全てを管理されている高位なお立場な為、大変お忙しいのです。故に代理で我等が対応している次第です。‥不満ですか?」
「い、いえいえ。そんな事ないです。はい(ヤバっ、顔に出てたか?)」
「もう、また意地悪して。彼、困ってるじゃありませんか。お可哀想に‥。本当に御免なさい。お兄様って、少し、意地悪な所があるの。あとで叱っておきますね」そういいながら少女もフフフと上品に笑った。
「ハハハ、申し訳ない。つい反応が見たくて。さて、自己紹介が遅れましたが、私は冥界第六層を預かる双神の兄オリベルと申します」
「同じく、妹のアミュです」
あっさり神の名を教えるんだな。
魔法使いに神の名を教えたら、その神力利用されるぞ。いいのか?利用しちゃうぞ?これで、双神神話を勉強すれば新たな魔法が開発出来るかも!そしたら、魔法界で一躍有名人だ!
おお!凄い!
凄いぞ!早く帰りたい!
「冥界はどうでした?」とアミュはにこやかに聞いてくる。
「あ、いや。正直、二度と来たくありません」
「そう言ってくれると助かりますが、魔法使いであるヨウも冥界に落ちない様に気を付けて下さいね」
「え、何故、魔法使い?」ヨウの疑問にアミュの顔が険しくなった。
「魔法使いは冥界に落ちやすいんです」今さっき邪な事を考えたばかりのヨウは内心ドキッとした。アミュは一呼吸おいてから続けて言う「魔法使いは神の力を利用するだけで、神の心の本質を理解しようとしないのです。それ故、魔物に心の隙を突かれ、名声、富、権威、支配欲の為に人間を平気で陥れたり殺害したりと、悪しき事に魔法を使うようになるのです。本来、魔法とは人間の生活を豊かにする為に神が人間に授けたものなのです。だから、ヨウも誰かの人生を豊かにする為に魔法を使ってくださいね。そうすれば、死後は天界で豊かに暮らせますから」
「あ、はい‥」ヨウは動揺して目線が左右に揺れる。背中は冷汗が流れた。
俺‥今、野心に吞まれてた。
これが、魔物に心の隙を突かれるってやつなのか?え、こわっ!気を付けよう。絶対に
「さて、話が逸れてしまいましたが、ヨウ‥貴方の話を詳しく聞かせて下さい。その為にわざわざ冥界まで来たのでしょう?」とオリベルは優しい笑みを浮かべて言う。
「はい」ヨウはこれまでの事情を説明した。
「――成程。その呪術士がどのように契約譲渡の法を編み出したかは知りませんが、罪を肩代わりさせる契約など、決して許される事ではありません。それは悪魔の契約、外道の法です。早速、契約を解除しましょう」
「ありがとうございます!(良かった。思った以上に上手くいった)」
「リミア、ここへ」
リミアは双神の前へ進み出て、頭を垂れて片膝を折った。
「話は聞いていましたね」
「はい」
「では、リミアには一時的に神権を与えますので、他の番人達を使って無実の女性を探し出し契約を解除して下さい」
「は!承りました」
リミアは真剣な眼差しで立ち上がりると、周囲の事など見向きもせず、颯爽と部屋を退室してしまった。
「これで問題はありません。他に要件はありますか?」
「他に?‥あ!そうだ。ここに死神が幽閉されていませんか?出来たら会ってみたいのですが?」
「死神‥ですか?」
「‥お兄様」動揺するアミュはオリベルの顔を覗き込む。
「どこでその話を?」オリベルの顔が険しくなった。
あれ?この話ってヤバいのか?第五層の番人から聞いたと言えず、言い淀むヨウ。
「全く、人の口に戸は立てられないのは冥界も同じですね。恐らくどこぞの番人がもらしたのですね?」オリベルからため息が漏れる「‥で、会ってどうするのです?」
「‥いや、ただの興味本位です」
ヨウは骨の左手については秘密した。言えば会わせてくれない様な気がしたからだ。
「‥まあ、いいでしょう。貴方には契約譲渡の法を伝えに来た功績があります。その報酬として、面会を許可します。但し、監視を付けた上、直接会う事は禁止。門の外からの会話のみとします。それでも良いなら面会を許可しましょう」
「ありがとうございます!」
「では、案内を付けます。鬼神カグチここへ」
「は!」
部屋に入って来たのは頭に二本、額に一本の角を生やした
「ヨウを死神の元へ案内してあげて下さい」
「あそこへ‥ですか?」カグチの眉がつり上がり、口には出さないが明らかに反対しているのが解った。しかし、オリベルは「そうです」と言い切った為、カグチは何も言わず、「了解しました」と言ってヨウを連れて部屋を退出した。
「お兄様、本当によかったのですか?」
「解らない。ただ、彼には何かを感じるのです。だから‥」
「だから?」
「結果によっては、僕らの本当の神名を明かすつもりです」
「‥そうですか。お兄様がそうお決めになったのなら、アミュは従います」
オリベルはアミュに微笑むとアミュもニッコリと微笑み返した。
カグチに案内された場所は冥界第六層より更に下に広がる。光が一切届かない天然洞窟を利用した冥界第六層最深部暗黒地下牢だった。
カグチが持つ松明の明かりを頼りに下へ下へと歩き続ける。所々、陥没した穴があり、鉄格子がされている。ヨウは興味本位に中を覗くと、牢の中は真っ暗だった。
けど、奥から女とも男ともつかない枯れた声で「だずげでぇ‥」と懇願する声が聞こえてくる。
「見たいか?」とカグチが聞いてきたので、思わず「はい」とヨウは答えてしまった。カグチは松明で牢の暗闇を照らすと、くしゃくしゃの白髪とシワだらけの老人がいた。
ヨウは思わず目を背けてしまった。見るべきじゃなかったと酷く後悔した。なぜなら、その老人の目や口、穴と言う穴から、ありとあらゆる虫が溢れ出て、内側から食い荒らされていたからだ。
「ごめんなさい。もういいです!」
「この老人は生前名門貴族だった。だが、私欲と保身の為、王を利用して、他国に戦を仕掛けさせたのだ。そして、民衆から必要以上に税を巻き上げ、領民を苦しませ飢死にさせた。よって、ここに幽閉されている」
カグチは顔は怖いが、聞けば答えてくれた。地獄の鬼は、もっと怖い存在かと思ったが、以外と優しいかった。
それで、ヨウは調子に乗って色々と聞いてみた。この地下牢は最下層まで十層あって、現在、七層まで来ているらしい。他にも冥界の質問してヨウの好奇心を満たした。――それから暫くして「ここだ。着いたぞ」とカグチは言う。
質問に夢中で気付かなかった。どうやら、いつの間のか冥界第六層の最深部に到着いていたようだ。
カグチが松明を向けると、ヨウの眼前には封印石が八つはめ込まれた禍々しい扉が暗闇の中から明かりに照らされ現れた。
魔王なる病 森田 亮介 @moritaminoru
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