第10話 巨人族への貢ぎ物

 オロチを取り逃がしたアリアは、このままでは終われず、この失敗を糧に、違う依頼を受けようと提案したがヨウにやんわり断られた。


 魔人化したアリアの体力に付き合っていたら、狼刀の風が潰れてしまうと言われ、明後日の剣術大会まで自由時間となった。


 夕刻を過ぎていたが、ジッとしてるのが苦手なアリアは、相部屋のアレイスを散歩に誘ったみたが断られたので、1人部屋を飛び出し、町の散策に出かけた。

 


 プレートアーマーを着て歩き回るアリアは改めて倭国を見回すが、魔感染が侵食していてどこも、酷い有様だった。

 死体の回収が追い付かず、そのまま放置されていたり、商店街は人通りが無く、閑古鳥が鳴いていた。

 

 仕方が無いので、倭国を横断をする川を下ってみる事にした。

 川の音色や魚が泳ぐ姿に心が癒えていくのを感じたが、そろそろ暗くなってきたので引き返そうとしたら、船に荷物を積んでいる集団を見つけた。

 

 その集団は人が入るほどの大きい木箱を積んでいたので、好奇心が出て来たアリアは話しかけてみた。

 なんなら、体力が余っているので手伝ってあげようとさえ思った。


「アンタ達、何積んでるの?良かったら手伝うわよ!私、力には自信あるから!」 


 集団は顔を見合わせる。

 その中からリーダーらしき男が前に出て来た。


「ハハハ‥。大丈夫だよ!人は足りてるから」


「でも、早く終わらせるに越した事はないでしょ?」


そう言って、アリアは木箱を片手で持ち上げると、中から聞き覚えのある子供の声が漏れてきた。


「助けてくれ!」


「――ジュウロウ?ジュウロウなの?」


「その声は鎧を着たお姉ちゃん!コイツ等、人さらいだ!助けてくれ!」


 その瞬間、さっきまで穏やかだった男の目付きが狂気に変わる。アリアに緊張が走る。


「殺れ!」


 男は舌打ちして、部下に命令した。

 部下は腰にぶら下げた刃物をチラつかせ、襲い掛かって来た。

 後方では地覚級魔導士が催眠魔法、闇の神『ワルズ』の神語を詠唱し始めた。

 

 前回、不覚にも催眠魔法にやられたアリアは苦い経験を反省して、先ず、魔法使いから倒すことにしていた。


 魔法使いの弱点は詠唱時間がある事。その間に倒せば怖くない。


 これはヨウを観察して解った事だ。

 勝ち誇ったアリアがそれを指摘したら、ヨウは負けじと詠唱を省略して時短する事も出来ると言ってきた。けどその分、威力も段違いに落ちる。神に対して横着をすれば、その分だけしか返って来ない。それが魔法だと言われた。

 

 成程と頷くアリアは何時もヨウの知識に関心した。


 アリアは助走無しで、飛び上がり一番後ろの魔導士のところまで飛んた。

 一気に距離を詰められた地覚級魔導士はアリアの脚力に驚いて詠唱を途切らせてしまった。

 焦って、また一から詠唱を始めるがそんな時間を与える訳もなく。

 アリアは地覚級魔導の腹を殴った。

 勿論、加減したがそれでも川の向こうまで吹っ飛んでしまった。


「あ~やり過ぎちゃった。ゴメン!加減難しくって!」


「うわ~化け物だ!」


 それを見た部下とリーダーは驚き恐怖した。それから、あっという間に蜘蛛の子を散らす様に武器を捨てて逃げてしまった。


「化け物?ちょっと私はエルフよ!訂正しなさい!」


 化け物呼ばわりされて腹が立ったが今は人命を助ける事が出来たので素直に喜ぶ事にした。

 木箱からはジュウロウ以外にも多くの子供が出て来た。皆、拉致されて木箱の中へ閉じ込められていた。


「大丈夫だった。ジュウロウ!」 


「‥ありがとう。あ、アイツ等さ、後ろからいきなり襲ってきやがって!だから、油断しただけだから!」


「はいはい。そう言う事にしとく」


「だから!その‥ア、アレイスには‥内緒にして‥ほしい‥んだ」


「何?アンタ、アレイスに気があるの?」


「は?違うって!只、カッコ悪いって言うか‥」


 ジュウロウはアレイスに姉の面影を感じていた。

 だか、その事が言えなくて、シドロモドロになって手があちこちに動きまわる。


「おや?これはあっしの出番はなさそうだ。めでたしめでたし!」


 闇の中からオロチは現れる。


「オロチ!どうしてここに?」


「オロチ?誰が?」


 ジュウロウは頭の上に『?』が浮かんだ。目を何度も瞬きしてオロチを探した。


「え?違うって。コイツじゃない。俺の村を死体の山にしたのは女だ!白い和服を着た女のオロチだ。自分でそう名乗ったから間違いない!」


「え?どう言う事?」


「カカカ。そいつもオロチ。あっしもオロチ。皆、オロチでございます」


 ジュウロウは困惑する。

 どうする?コイツ、自分をオロチって言った。なら仇だ!だけど、斬っていいのか?俺の知ってるオロチとは大分違いぞ?


 いや迷うな殺せ!姉ちゃんの仇だ!


 ジュウロウは先程、部下が落とした武器を拾い上げ、オロチに襲い掛かった。


「姉ちゃんの仇!」


「馬鹿!やめなさい!」


 オロチはジュウロウの攻撃を軽くいなす。 

 

「全く、きつく言ったんですがね。無関係な人間は殺すなと‥いやはや、アイツは血に飢えた獣でして、理性が利かんのです」


 オロチはジュウロウを捕まえてアリアに返した。


「クソ、勝負だオロチ!離せ!」


「アンタの負けよ。認めなさい。今のアンタじゃ逆立ちしたって勝てないから!」


 ジュウロウは涙を浮かべてオロチを睨むが、オロチは肩をすくめるだけだった。


「説明して欲しいんだけど?アンタ以外にもオロチがいるの?それとこの状況を教えて!何で、子供達が木箱に入れられてるの?アンタ知ってるんでしょう?だから、ここに来たんでしょう!」


「さて、どうしたものか?予定外の事が起こった」


「何?ハッキリしないわね!」


 アリアは、回りくどい言い方を嫌うので、結論を言わないオロチにイライラした。  


「‥アナタは信じますか?神に仕える巫女が人さらいをしているなんて‥。そして、我々はそれを止めたいのです」


「それで巫女の暗殺を?」


「御名答!おっしゃる通り!」


「人をさらってどうするのよ?」


「お隣の大陸に住んでいる巨人共に生贄として送ってるんですよ」


「?」


「‥軍事同盟って奴です」


「何それ?最悪!そんな事の為に!」


「でもそうしないと、魔法利権を理由にバジール法国が倭国を襲って来るからです!いやはや、巫女様も苦渋の決断なのでしょうが、そんな事が許されますか?」


「魔法利権?難しい話は解らないけど、それは‥駄目!絶対!」


「でしょう!そりゃそうなる。アンタとは気が合いそうだ!カカカ!」


「それと僕の村に何の関係がある!」


 ジュウロウは歯ぎしりして拳を握る。オロチは笑う事をやめて冷淡な口調でハッキリと言い放つ。


「関係ありませんな。それはあの女の勝手な暴走です。ホントにお気の毒としか言いようがありませんな~。その女は名をナツメと言いまして、我々、オロチの一人でございます。全く困った女で。あっ!ついでにあっしはテングと申します。以後お見知りおきを」


「随分とあっさり喋ってくれるのね?ついでにオロチは何人いるの?」


「あっしを含めて八人」


「ふざけるな!やっぱりお前を‥お前等を許さない!」


 ジュウロウは尚も、テングに挑むがあっけなく、返り討ちにされて気を失ってしまった。

 困惑するアリアにテングは優しく微笑んだ。


「子供に甘いのがあっしの悪い所です。さて、残りの子供達はあっしが責任もって送り届けましょう」


 テングは子供達の頭を撫で回し微笑んだ。

 不安で泣きじゃくていた子供達はテングの笑顔に安心したようで次第に泣き止んだ。

 

「いい子だ。さあ、今から親元に送りますんでご安心を。もしまた、悪い大人が現れたらあっしがぎったんぎったんにやっつけるんで!カカカ」


「ちょっと!アンタだけじゃ不安だわ!私も付いてく」


「そりゃ助かりますが、よろしいので?」


「ええ」


「では遠慮なく。子供達も女子おなごがいる方が安心するでしょう。では一緒に奉公所へまいりますか!鎧姫。カカカ」


「誰が鎧姫よ!アリアよ!私の名前はアリア!ハッキリ言ってアンタの事信用してないから!」


「そりゃ結構けっこうコケコッコーってね!カカカ」


 その後、テングは本当に子供を奉公所へ届けた。それから、子供達に手振って別れを惜しんでいた。

 アリアは拍子抜けして気が抜けてしまった。コイツが本当に私達と死闘を繰り広げたあのオロチなの?


「ねえ。さっきの話‥ホントなの?」


「嘘を言った覚えはありませんが?」


「そう‥」


「ではさらばです。アリア殿」


 気を失って寝ているジュウロウをアリアに任せて、テングは何処かに行ってしまった。


 空すっかり暗くなってしまった。

 アリアはオロチに会った事を報告する為、ジュウロウを担いで急いで帰った。

 

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