第5話 緊急依頼
お化けが苦手なアレイスを除いて、疲れた身体を癒したヨウ達は宿屋で一泊したのち、女将から大会本部の場所を聞いて剣術大会出場にエントリーする為に訪れた。
大会本部とは言っても魔感染に怯える住民に気を遣って大鳥居の端っこでひっそりと開かれていた。
聞けば剣術大会開催日は明後日との事だった。
危なかった。アリアは肝を冷やしたが、何とかギリギリ間に合ったので、マルとヘイから貰った推薦状を見せたら、受け付け係はホ〜と声を上げて目を丸くした。
何でも、推薦状とはその者が銀の位の実力者か若しくは、それ以上の実力があると認められた者に手渡される。それが推薦状なのだと熱く力説された。
「私が銀の位‥嘘?」
アリアは『香の位』で頭打ちになっていて、内心焦っていた。
それが、いきなり『銀の位』と言われて驚いた。けど、これは私の力じゃない。魔感染に感染してシフォールのネックレスに助けられただけ。だから高揚感は少しも湧いてこなかった。
「んん?いや、ちょっと待てくれよ‥ヘイの署名の横に、鎧女に金の位を授与するって書いてあるぞ。おお、すごいじゃないか!」
「鎧女?誰の事?」
アリアは周囲を見渡し誰も鎧を着てない事に疑問に思うと、思い出した様にあっと声を上げて手を上げた。
「私だ!」
「すごい!よかったね。アリア」
ヴァンはアリアの手を握って喜んでくれた。これは素直に喜ぶべきかアリアは戸惑ったが、これもシフォールからの贈り物だと考えを改めて、握手を握り返したら、思った以上に力が入ってヴァンが悲鳴を上げた。
「いてててててて!アリア離して!痛い!痛い!」
「あ、ゴメンね!力の加減が難しくって!」
周囲は笑いに包まれた。
「ねえ、大会日が明後日ならまだ時間がある。ならギルドに行って依頼を受けない?」とアリアは言う。
「大丈夫なのか?体調管理とか?大会に出るのはお前なんだぞ?」
「じっとしてる方が体崩すわよ!」
「アリアが問題無いなら私は構わないぞ?」
「僕も」
「別に俺だって反対してる訳じゃない。只、アリアを心配してるんだよ」
「ヨウは心配性ね。少しくらい大丈夫。問題ないから!」
「少し‥ね‥」
ヨウは憮然とした顔になるが、アレイスとヴァンは賛成しているので冒険者ギルドへ赴く事にした。
中に入いればいつもの様に大人達が品のない笑い声を上げてエールを飲み交わしていると思っていたのだか、どうも様子がおかしい。皆、殺気立っている。
何事かと受付けのお姉さんに聞いたらその理由が解った。
「実は倭国からランク制限無しの緊急依頼が来てるの!フフ、貴方達も受けてみる?内容はね〜ドゥルルル‥ジジャ〜ン!巫女暗殺未遂の重罪人を生け捕りにする事。名前はオロチ。中年風の男だそうよ?強さは王の位と同等だって!凄〜い‥けど、顔解らないと探しようがないじゃない。ねえ?」
「‥オロチ?」
「あらら、知ってるの?」
「い、いえ、全く‥で報酬は?」
「それ聞いちゃう?ななななんと!聞いてビックリ!一億ルピで~す!」
「一億!」
「でも、貴方達みたいにランクの低い冒険者にはあまりお勧めしないな~相手は王の位と同等の強さよ。すぐ死んじゃう」
受付嬢はそう言うが、早いもの勝ちの依頼にギルド内は賑わっていた。
アリアは速攻で緊急依頼を受けてしまった。
「お、おい!大丈夫なのか?」
「大丈夫。だって勝てばいいんでしょう?」
「答えになってないし。お前はなんでそんなに前向きなんだ?」
「あら。負ける事を前提に戦うつもり?そんなんじゃあ、何時まで経っても勝てないじゃない!勝負は前向きであるべきよ!」
「お前凄いよ‥勉強になる」
「そんなの当たり前の事でしょう?」
それから作戦会議が始まった。
他のチームはどうかは知らないが、少なくとも、ヨウ達はオロチの顔を知っている。それだけでも事は有利に運べる。
ただ、問題は他のチームと協力するか、狼刀の風のみで依頼をこなすかで話が別れた。
他チーム合同派はヨウとヴァン。
合同反対派はアリア。
どちらでも可はアレイスとなった。
「なんで?私達でやろうよ!」
「いやいや慎重に行こう!相手はあのオロチだぞ?」
「あのってどのよ!」
「そうだよ。僕等は直に会ったんだ。あれは危険だ!絶対危ないから!」
部屋の隅でヴァンの会話にピクリと反応したチームがいた。
「でも、狼刀の風だけで勝てば一気にチームランクが上がるでしょう!」
「そうだけど、それは危険過ぎる!」
「おい。どっちでもいいが早く決めないと他チームに依頼が取られるぞ?」
アレイスが顎で周囲を指す。ヨウ達がもめている間に冒険者達は緊急依頼を受けてギルドから次々といなくなっていく。
「もう早く行こ!先越されちゃう!」
焦ってアリアが立ち上がると、チラチラこちらを見ていた他チームの女が慌てて近づいて来た。その女はビキニアーマーで黒髪だった。
「ねえ、ちょっと待って。アンタ達さあ、私達と一緒に組まない?悪いけど、話こっちまで聞こえちゃってね。アンタ等オロチの顔知ってるんだって!なら協力した方が絶対いいって!命は大事にしなくちゃ!」
ヨウは口を滑らしたヴァンを睨らむと、ヴァンは机の下で手を合わせ、片目を
アリアに至っては、早く出発したいらしく若干イライラし始めている。
それを見たアレイスはアリアの肩に手を置いて落ち着かせた。
「私達のチームラフレシアを紹介するわ!皆こっち来て!」
示し合わせてチーム『ラフレシア』は立ち上がると会釈してきた。
彼らは、四人の女性で構成されていた。
初めに話しかけて来たのはリーダーのキサラギ・メノウ。
ビキニアーマーを着た褐色肌の黒髪剣士だ。
メノウの妹で男嫌いのミュウは中級魔法使い。
無口の銀髪ダークエルフ。ヘレン・ギアレスは弓使いで精霊使いでもある。
最後におっとり系の呪術士。アオバ・ハズキで紹介が終わる。
そこで話終わると、ちょっと待ってくれと手が上がった。カウンターに座っている地味な格好の男とカウボーイ風の2人の男のうち、カーボウイ風で無精髭を生やした男がヘラヘラ笑いながらこっちにやって来る。
それを見て、メノウは誰にも聞こえない音で舌打ちする。
「なあ、お友達は多い方がいいだろ。俺達とダチになろうぜ。俺等はビギンズ兄弟ってんだ。俺の名はデフで向こうにすわってる地味な野郎が弟のロブってんだ。アイツは格好は地味だが、一流のスナイパーだ。1キロ先の標的の頭だって撃ち抜くぜ。俺の自慢の弟さ。それで、俺様が精霊ガンの使い手よ!」
「精霊ガン?」ヴァンが身を乗り出した。
「へへ。気になるか?いいぜ、見せてやるよ!こいつはドワーフに作らせたものでな。まだ、市場に出回って無い一品物だ!」
デフはリボルバーの形をした精霊ガンを見せた。
木製のグリップはデフが握りやすい様に設計されている。
ハンマーとトリガーは金色。それ以外は顔が映る込む程キラキラした銀だった。装飾には天使の羽がリアサイトに付いている。
「わあ〜カッコいい!」
ヴァンは瞳を輝かせてマジマジと精霊ガンを覗き込む。
「だろ!そうだよな!コイツには男のロマンが詰まってんだぜ!」
ヴェトと同じ事を言うデフにヨウは無意識に口元が少し緩んだ。
デフは、ヴァンの素直な反応に気を良くして、自慢の精霊ガンを指でクルクル回転させて見せびらかした。
「へへ、この精霊ガンはな文字通り精霊が宿ってるんだぜ!シリンダーに四つの穴があるだろ?一つ一つに、風、火、水、電の精霊が宿ってるんだ!それを飛ばすんだよ。へへ、何と言ってもコイツの1番の利点は弾を使わねえ事だ。だから、弾数を気にせず、何発でも撃てるんだぜ!どうだ狼小僧、気に入ったろ!」
「うん。凄くカッコいい!」
「アハハ、いい反応しやがる。なあ。アミーゴ!俺達はもう仲間だ!一緒にオロチを倒そうぜ!」
「だってよ。アミーゴどうする?」
ヨウは肩をすくんでみせたがアリアは納得してない。
プレートアーマーの隙間から覗く赤い瞳は怒気で濁っていた。
「‥やっぱり、イヤ!もう行こよ!時間の無駄!」
「おいおい、そりゃねえぜ!」
「そうよ。少しは考えてくれてもいいじゃない!」
「だって信用出来ない!私の家には権力やお金欲しさにパパに近づいて来る連中がいっぱい来てたから解る。お金の切れ目は縁の切れ目。彼等は自分が不利になると土壇場で裏切ったわ!だから貴方達も絶対に裏切る。もしかしたら、既に裏切る算段を付けてるんじゃない?アンタ達はそう言う目をしてる。何かアミーゴよ。馬鹿にして!目の奥に光が無いじゃない。これが答え。さあ、皆行こう!」
「チッ。おいおい‥それが冒険者だろ?それの何が悪い!俺達兄弟はそうやって生き残ってきたんだ!お前等だってそうだろ?ラフレシアの嬢さん達!」
「‥まあ、そうね。けど、この子の言ってる事も解る」
「そうかよ!俺にはさっぱりわかんねえ!ロブは解るか?」
「デフには解らないよ」
「何だよ。俺だけ悪人か!死んだら全てが終わりなんだぞ?」
「なら、俺を見捨てて兄貴だけ逃げるのか?」
「馬鹿野郎!お前は自慢の弟だ!見捨てる訳ねえだろ!」
「そう言う事だ‥」
アリアは立ち上がるとギルドから出てしまった。
アリアは誰とでも話すし仲良くなるが人は選んで付き合っている。
ヴァンとアレイスには壁を乗り越える正義の心がある。
私もそうだから共感できるし好きなところだ。
特にヨウは、子供の身でありながら危険を顧みず。私とパパを助けてくれた。
あの時、知らないフリして逃げる事だって出来た。けど、彼はそうしなかった。
恐怖に怯えながらも震えた声で詠唱するヨウの姿は今でも思い出せる。
あの時、どれ程嬉しかったか。
そして、どれ程勇気をもらったか。
ヨウには解らないだろう。
私にとってヨウは英雄シフォールと同じくらい尊敬しているヒーローだ。
まあちょっとケンカはするけど‥。
だから、ハルバ亜国でヨウと出会えて嬉しかった。実は凄くドキドキした。この出会いを手放したくないと思った。だって、ヨウは私と同じで人助けに見返りを求めないから。
それに、金銭が絡まない損得勘定のない友人が欲しかった。
ヨウと私は性格が反対なのに、心の奥がしっかりと噛み合うのは、きっとそこなのだろう。
だから、お金で繋がる仲間を入れたくない。そう言う異物は必ず、トラブルも元になるから。
やれやれと、アリアの後を追う狼刀の風に対して、ビギンズ兄弟の兄デフは唾を吐いて、アリアの背中に向かって中指を立てた。
ラフレシアもこうなってはここにいる意味がないので、ギルドを出るが、リーダーのメノウは、銀髪ダークエルフのヘレンに耳打ちすると、ギアレスは頷いて精霊の力で姿を消した。
こうして、ギルド内には誰もいなくなったのだが、受付嬢が大変な間違いに気づいた。
「あら?似顔絵付きの手配書あるじゃない!あちゃ〜やっちゃった!」
‥‥‥‥まあいいか。
受付嬢はペロっと舌を出して、こっそりと似顔絵付きの手配書を破って捨てた。
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