第15話 赤い髪のアレイス

 自宅に帰ると赤い髪の女はまだ寝ていた。

 元気なヴァンを見たアリアは嬉しさを全身で表現して手を広げた。


「ヴァン!よかった無事で!」


「え‥誰?‥んん?あっ!アリア!」


「あ、うん。まあね‥」


 アリアは今の自分の姿を忘れていたので、バツが悪くなって目を背けた。


「あ、ゴメン」


「うん‥」


「‥と、ヨウ、このひとは?」


「‥ん、父さんを追ってたら、怪我してて。取りあえず、家に連れて帰った。まあ、その事を含めてお互いの情報を交換したいんだけど?」


「うん。わかった」


「‥そうね」


 アリアは顔を曇らせた。

 メメがパパを殺した事は言うべき?

 正直に言っても、ヨウを傷付けるだけなんじゃないの?

 でも、私は絶対にメメを許せない。

 今すぐにでも、追いかけてぶっ殺したいって思ってる!

 

 どうすればいいの‥。


「アリア、大丈夫か?顔色悪いぞ?気分悪くなったなら、無理せず横になってもいいぞ」


「大丈夫。そなんじゃないから‥」

 

「そうか。ならいいけど。‥じゃ先ず俺から」


 それから、ヨウとヴァンは自分の身に起こった事を細かく説明したが、アリアだけは目線をヨウに合わそうとせず、言いよどんだ。


「私は、メメ‥さんにここまで飛ばされて‥‥‥その‥気が付いたら、眠らされてた‥」


 赤い髪の女の目元はピクリと動く。

 彼女はヨウが帰って来てたときから起きていた。

 話は一部始終話聞いていた。それ故、困惑していた。


 ‥おかしい。


 ハルバ亜国には、魔感染を振り撒いた魔王を封印した箱があり、それを利用して世界大戦を目論んでいると言う話だった。

 だからそうならないように、それを秘密裏に回収せよとのバジール法国からの厳命を承った。

 最悪、何等かの理由で魔王が復活してしまった際は、改めて封印し世界大戦を回避せよとも‥。

 

 それが本当なら、多くの国民が死んでしまう。そんな事は許される事じゃない。

 だから、我が魔導牙団と別の隊の数名で、危険をおかして海獣が跋扈ばっこする海を航海してきたのだ。


 だが、一週間経ってもそんな箱は、何処にも無かった。正直、途方に暮れていた。

 そんなとき、魔王が復活したと聞いて、急いで回収した。


 ‥何だこの違和感は?やはり、おかしい。なんで、こんなタイミングよく魔王が復活する?

  

 一番に引っかかるのは、ヨウとか言う少年が言っていた一言だ。

 

 何故、少年の両親を脅して箱を開ける必要かがる?  


 自国で箱を開ければ自分達が危険に晒される事になる。そんな事はガキでも解る事だ。

 

 ‥例えばだ。


 私だったら、魔感染を広めた魔王を復活させるなら、敵国に持ち込むだろう。

 そして、自国民に開けさせれば、責任をなすり付ける事が出来る。


 ‥そして、バジール法国とハルバ亜国は仲が悪い。


 私はバジール法国に利用された?


 私は‥私は‥魔感染を広げた国家に忠誠を捧げていたと言うのか!


 だとしたら許さんぞ!

 何の為にこのような醜い体になったのか?すべては国の為、民の為だったのに!


 もし、私の考えが正しかったら、バジール法国め!我が信仰を利用した報い。必ず受けてもらうぞ!


 その為にも、バジール法国に一度帰らなければ!

 

 ああ、聖女リミアよ。

 もし、私の考えが正しければ、彼方を汚した咎人とがびとに報いを与え給え。その為の導きを我に与え給え!

 

「つまり、重要なのは父さんと母さんは誰かに脅され今回の事件を起こしたって事だ!」


「誰って誰だい?」


「それはバジール法国だ!」


 赤い髪の女は狸寝入りを止めて起き上がった。


「ち、ちょっと、何でそう言い切れるのよ!」


「まだ、憶測たが間違いないだろう。それに、魔王を回収したのは私の隊だからだ!」


「アンタ何者なの?」


「私はバジール法国魔導牙団隊長フォヒス・アレイスだ!」


「じゃあアンタが私を眠らせたの?」


「その通りだ!」


「じゃあ…ユアをあんな姿にしたのも!」


 ――じゃあ、じゃあ…パパも!


「お前等が―――!」


 アリアは赤い髪の女を殴ろうとした。


「違う!私は騙されたんだ!」


 アリアの手がアレイスの眼前で止まる。

 遅れて、突風は突き抜けてきた。

 

「説明してよ!じゃないと私‥」


 アリアは拳を降ろし、横目でヨウを見て拳を握る。


「ああ。そのつもりだ。私はハルバ亜国が魔王を軍事利用すると聞いて回収しにきたのだ」


「ちょっと待って!ハルバ亜国にそんな箱無いわ!」


「私もそう思う。だが、私はバジール法国にそう聞いて上陸したのだ。そして、一週間後に魔感染は広がった。大人が入る程の大きさの箱と封印石で、魔王を回収出来たのだが‥これを偶然と言うのか?だとしたら随分とバジール法国にとって都合のいい偶然だな‥」


「でも、それって全部、貴方の推測でしょ?証拠はあるの?」


「証拠か‥」


 アレイスは上半身の衣服を脱いで見せた。


「ちょっと!何脱いでるの!」


「これを見ろ!」


 アレイスの体は乳房の部分を除いてトカゲの鱗に覆われていた。

 さらに驚く事に心臓の位置が赤く光っている。


「これって‥」


 ヨウもヴァンもアリアも知っている。冒険者なら誰でも知っている。

 それが心臓の代わりにはめ込まれていた。


「魔獣が産まれる元となる結晶石だ!」


「何で生きてるのよ?」


「医学的な事は知らんが、5年前バジール王は言った。これから受ける手術はどんな病もかからない神秘の実験なのだと。未来の人類を助ける為、その実験を受けてくれないかと。聖女リミア様を信奉する者としては願ってもない話だった。この身が人類の為になるなら喜んで捧げよう!だが、その実験が苛烈でな、生存者は1割を切った。仲間達は大勢死んだ。生き残ったとしてもこの体の様に半魔獣化したままだった。だが、それも尊い試練と思い、乗り越えてきたのだ。そして、魔王回収の任を受け、魔感染することなく魔王を回収出来た!なんだこれは?これが偶然と言うのか!ふざけるな!私達の信仰を弄び、魔王を回収させたのだ!見ろこの体を!これが証拠だ!」


「酷い‥」


 アレイスは上着を着て自身を落ち着かせた。


「それで、アレイス‥さんはこれからどうするの?」


「バジール法国へ帰って問い詰める。もし、私の考えが正しければ、聖女リミアの信仰にかけてバジール王を討つ!」


「だったら、私達仲間じゃん!ねえ、ヨウ、ヴァン!皆でバジール法国に行こう!」


「え!」


 ヨウとヴァンはまたしてもお互いの目を見合った。

 

「だって、皆、バジール法国に恨みを持つ者同士じゃん!」


「‥じゃんって、まあ、そうだけど‥」


「‥貴様の父と母なら、恐らくだがバジール法国に向かっているぞ」


「なんで!」


 ヨウは身を乗りだす。


「貴様の父は我々を壊滅したのち、箱に入っているもう一人の魔王‥貴様の母を救出した。だが、封印石のせいで箱が開けられなかった。それもそのはず、箱の鍵はバジール法国で保管しているからな。それを知った魔王は我々の船を奪って、バジール法国へ向かってしまった。まあ、ここからバジール法国までなら、三ヶ月ってところだな」


「‥そうなのか。ヴァンはいいのか?」


「うん。僕もバジール法国に行くよ!きっとユアもそこにいる!」


「そうか‥」


「ヨウも行でしょう!」


「‥そうだな。うん。行くよ!」


「じゃあ決まりね!アレイスもいいでいい?」


こんな子供と一緒に?

と考えはしたが、アレイスは心中で聖女リミアへ祈りを捧げた。


「わかった。宜しく頼む」


これも、聖女リミア様の導きか‥。


 

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