第12話 - 『真実』を語る

「死んだら、代償はあるの?」彼女が尋ねた。


須川は振り向きもせず、だが彼の言葉は、あまりに直接的になりすぎないよう避けているようだった。


高い窓から差し込む陽光が廊下を温かな金色の輝きで包んでいた。


エリサンドラは計算された歩幅で前方を歩き、そのシルエットは床に長い影を落としていた。


須川は黙って彼女について行き、視線を彼女の背中に固定しながら、彼女が発した言葉が頭の中で反響していた。


彼は一瞬、質問を咀嚼するため考えにふけり、陽の光が目に当たって顔を手で覆いながら、思考を巡らせた。


そして最後に、低くしかし明確な声で答えた。


「俺が死ぬたび…」少し間を置き、適切な言葉を探りながら、「苦しめられる気がする」


エリサンドラはゆっくりとうなずき、体をわずかによろめかせた。しかしそれは弱さからではなく、まるで埋もれた記憶を探っているかのようだった。短い沈黙の後、彼女は今度はより正確に質問を投げかけた。


「あなたのスキルは、意識に結びついているの? それとも魂に?」


須川は自分のスキルを確認する必要もなかった。彼はそれを暗記しており、祈りの言葉のように心に刻み込まれていた。静かに答えた。


「魂に結びついている。システムと同じだ」


彼女は理解したように、軽く頷いた。


「強力なスキルには、代償を要求するものがある」エリサンドラは思索深げな声で話し始めた。「自然の摂理のようなものね。まるでシステムが、私たちがスキルを乱用するのを防ごうとしているかのように」


彼女は一瞬立ち止まり、廊下の一点を見つめた。


「でもあなたの場合…」再び須川翔へと視線を戻しながら、続けた。「…代償らしきものを払っているようには見えないわ」


その言葉に、須川は一瞬凍りついた。まるで彼女が正気を失ったかのように見つめ返す。


『代償…払ってない?だと…?』


一粒の汗が頬を伝った。彼は沸き上がる怒りを必死に抑え込もうとする。


「いいですか…」エリサンドラの声は、より分析的な調子を帯びていた。「この世界には、魂に直接干渉するスキルが存在します。瀕死の状態から魂を抜き取られ、健康な体へ転移したという記録も残っています。しかし、そうした事例には全て共通点があるの…」


彼女は言葉を切った。続けるのを躊躇っているようだった。


「全員が、魂が肉体を離れる瞬間を『言葉にできない痛み』と表現しています。暗い虚無…地獄としか表現できない感覚だと」


須川翔は唾を飲み込み、エリサンドラの言葉が頭に染み込むにつれ体が硬直した。あの「黒い地獄」という表現は、彼が死んで復活するたびに経験していたものと符合していた。しかし、それだけではなかった。


「つまり技術的には、あなたはスキルの使用や乱用に対する代償を払っていないわね。それ自体が副作用なのだから...でも他に気になる点がある。教えてちょうだい、スキルを使い始めてからステータスやスキルに何か変化はあった?」


ついにエリサンドラが振り向き、彼を見つめた。その目は須川に固定され、表情は読み取れなかった。彼女の眼差しには何か奇妙なものがあった――弱く歪んだ、作り笑いのような、しかし須川には理解できないニュアンスを含んだ表情。


軽蔑...?


『まさか...?』一瞬そう考えた。


「俺は...死に方に応じて複数のスキルを獲得した。あと新しいステータスもな」確信を持って言おうとした。


エリサンドラは興味深そうに片眉を上げた。


「『SPI』ってやつだ。俺の3つ目のBランクステータスだ」


女性は満足そうに頷いたが、その統計値の意味については説明しなかった。二人が廊下を進むにつれ、窓から差し込む陽光が作り出す影が彼女の顔に不気味な模様を描き、冷たくよそよそしい表情を与えていた。


『当然だ...彼の魂が時間を遡るたび、その時点で既に体に宿っていた魂と融合しているに違いない』

女性はそう考えた。


歩きながら、エリサンドラは周囲の装飾品――磨き上げられた鎧や窓ガラス――に映る須川翔の姿を観察していた。青年の落ち着いたが鋭い視線が、反射の中で彼女の目と交わった。


彼女は視線を逸らし、唾を飲み込んだ。


一方の須川もまた、自分自身の思考に沈んでいた。


彼女の後をついて歩きながら、青年はこっそりと彼女を観察せずにはいられなかった。彼女の仕草、口調...どこか彼女の様子がおかしいのだ。


『妙な行動をとっている...だが責められない。もし自分がすぐ死ぬと告げられたら、その相手には警戒するだろう...』


『いや、実際のところ、警戒だけでは済まない。自然な反応として...恐怖を感じるはずだ』

須川は無意識に両手を組み、軽く握りしめた。



彼は一瞬、天井を見上げた。そこにはない何かを探すように。


『残念だ...屋内には、考えを巡らせる手助けをしてくれる空がない』

諦めたように息を吐いた。


エリサンドラが沈黙を破った。


「翔、ここに来る前はどんな職業に就きたいと思っていたの?」


予想外の質問だったが、彼は躊躇わずに答えた。

「騎士団の探偵になりたい」


エリサンドラはゆっくりと頷いたが、先程までの反応よりは冷めていた。

「そう...」


その返事は短く、ほとんど感情がこもっていなかった。


翔は傷ついたわけではなかったが、少し困惑を覚えた。


・・・


そしてついに、夜が訪れた。


須川は一日の大半をスキルの詳細について議論し、他の者たちが「将来にとって重要」と言う概念を理解するのに費やしていた。疲れてはいたが、この瞬間を心待ちにしていなかったと言えば嘘になる。


『この場所から逃げ出せたらようやく眠れると思ってたのに...達成できずに寝る羽目になるなんてな』

部屋へと続く廊下を歩きながら、彼はそう考えた。


『頭の中がこんな状態なんだから、もっと落ち着かないはずなのに...妙なことに、平静でいられる』


部屋のドアの前まで来ると、彼は足を止めた。中から聞こえる声を認識し、硬直した。


「朝飯の時どうしたんだよ?あのパンチ本気で痛かったぞ」―男の声。


「どっちのパンチの話してんの?」―茶化したような女の声が返した。


「翔くんに、あの時お前が何してたか話そうとした時のことだよ」


ドアの外で、須川はわずかに眉をひそめた。


『小野寺って、俺がいない時は敬語使うくせに、面と向かうとタメ口なのか?』


中から鼻で笑う音が聞こえた。


「そんな恥ずかしいこと彼に話せるわけないでしょ、バカ!」


「普通なら俺が話しても止めなかったくせに、今回は本当に気にしてたんだろ?」伊達は詰問するような口調で食い下がった。「正直に話した方がいいぜ。そうすれば、余計なこと言わずに済むんだから」


低い唸り声がして、圭子の声が少し小さくなった。


「だって…あの子、翔くんって…なんかすごく…神秘的だったのよ」


重い沈黙が流れ、ドアの外に立つ少年は興味深そうに少し首を傾げた。すると、伊達が驚いたような声で言うのが聞こえた。


「ま、まさか…須川翔くんに気があるのか!?」


「あのタイプの男子に弱いの、知ってるでしょ!」圭子は柔らかく笑ったが、本音を漏らしすぎているようだった。「屋上で会った時、背中に太陽の光を浴びてて…あの冷たいようで、でも優しくて謎めいた態度。まるで世界の全ての謎を知ってるみたいだったわ…」


少し緊張した笑い声がした。


「でも、何もするつもりはないから。それより、私に関する恥ずかしい話を彼にしないでくれるとありがたいんだけど」


「え?じゃあ、今まで何人の彼氏がいたか話しちゃダメ?」伊達は偽りの悲しみを込めて言った。本当に残念がっているふりをしながら。


「絶対にダメに決まってるでしょ!」圭子は挫折感と恥ずかしさが混ざった声で叫んだ。


会話はより真剣な雰囲気に変わった。伊達が質問した。


「本当に翔くんに何もしないって確信してるのか?あいつは人に囲まれるのが好きそうなタイプじゃないし、お前は正反対だぞ」


圭子はため息をついたが、はっきりとした口調で答えた。


「今言ったばかりじゃない。別に深い意味はないわ。ただ…興味深いと思っただけ。それだけよ」


その発言の後、話題は変わった。ちょうどその時、須川はドアを開けることに決めた。


「職業紹介の時にいられなくてすみません」

穏やかな笑顔で挨拶しながら入ってきた。しかし、その目には積もった疲れが表れていた。


「気にしないで、翔くん。あなたには重要な用事があったんでしょ」

圭子はほとんど伝染しそうな元気さで答えた。


須川は学校の上着を椅子に放り投げた。


「継原さんの夢はとても立派だ。そして小野寺は…ピザを作れるのか?」

須川は冗談めかして言った。


「ぜんぜん!」

伊達は厚かましい笑顔で答えた。


「そうか。残念だ。ピザは僕の大好物なんだ。君に助けてもらえるかと思ったのに」


「心配するな、翔。アカデミーを出たら習うさ。俺の料理の腕前にびっくりして、台所の神様として崇めてくれるぞ!」


須川はかすかに微笑み、頷いた。


「それならそうしよう。今は寝るよ。くたくただ。二人ともおやすみ」


それ以上言わず、彼は二段ベッドの上段に登った。しかし、目を閉じる前に、圭子が割り込んだ。


「翔くん、私の名字で呼ばなくていいのよ。敬語も使わなくていいわ」


「あ、俺も同じだ!」

伊達が取り残されまいとするようにすぐに付け加えた。


翔は軽くため息をつき、首の後ろを掻いた。


「すまない、継...いや、圭子か。人とこんなにカジュアルに接するのに慣れてなくて...これからは君たちともっとくだけた話し方をしよう」


ベッドに身を沈めながら、何かを思い出して続けた。


「君たちも俺に敬語を使わなくていい。特に圭子のことだ。伊達は最初から敬語使ってなかったし」


伊達は軽く笑い、二人は声を揃えて言った。

「お休み、翔!」


目を閉じながら、翔は最後にいくつか考えを巡らせた。


『女性に興味を持たれるなんて、多分初めてだ。こ、これはなかなか...いい気分かも...』


しかし、完全に眠りに落ちる前に、別の考えが頭をよぎった。


『でも同時に、タイムラインを弄んでいるような気もする...正しいこととは思えない...』


ついに疲れが勝り、彼は深い眠りに落ちていった。



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全人類異世界転移:俺のスキルは15日ごとに変わる! @Vrilith

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