第43話 メガネ刑事と、仇討ち女子と、恨めしそうにするエルフ
異世界人の絡んだ事件では、「人間の行方不明者」が発生しがちだ。だから、そういう事件は、基本的には行方不明者がきっかけで明るみに出る。
今日、課長は、第二係のあたしたちを集め、次の事案の説明をした。
その場に同席したのは、あのメガネ刑事・青木さんだ。今回の事案も、刑事課の刑事がすでに捜査を始めているらしい。
説明が始まってすぐ、話し手は、課長からメガネさんにバトンタッチされた。
メガネさんが話した事案の概要を一言で説明すると、「大勢の人間が行方不明になっている」だ。
この前のヴァンパイア事案と同じ。今回も、行方不明現象が発端となっている模様。
話を聞いた感じ、メガネさんは、どうやらひたすら防犯カメラ映像と睨めっこをしていたらしい。自分が確認した映像の一部をあたしたちへ見せながら、口頭説明と映像を織り交ぜて、あたしたちへ説明した。
つまり、行方不明になった被害者たちの姿は、きちんと防犯カメラ映像で追うことができたということだ。
その結果、メガネさんは、「行方不明者たちは、失踪する直前に、必ず都心にあるどこかの商業施設を訪れている」ということに気がついた。
さらにメガネさんは、映像を確認していくうち、一つ不思議な現象を発見した。
防犯カメラで追うことができた行方不明者のうちの何人かは、商業施設に入ったばかりにもかかわらず、何も買わないどころかウインドウショッピングすらせずに、一目散に建物を出ていくのだ。
それからどうしたかというと、一切の寄り道をせずに駅へと舞い戻るか、タクシーに乗ってどこかへ向かったという。
例えば、二人組の若い女の子なども、ゆっくり歩いて楽しそうにお喋りしながらお店に入ったりしていたのに、ある店を出た時には、突然シャキシャキと機敏に歩いて行動し始めたりする。
「おかしい」と感じたメガネさんは執念の権化と化し、ひたすら防犯カメラと格闘する。
恐ろしいことに、とうとう被害者全員がいったい何処へ向かったのかを突き止めてしまった。
行方不明者が向かったのは、電車・タクシーのいずれの場合でも、中央・総武線「小鬼駅」か、その前後の駅である「半小鬼駅」・「東小鬼駅」。例外は一つとしてなかった。
だが、なぜかそれ以降の足取りが、
ここまで話したところで、メガネさんは急にあたしへ向き直る。
「月島伊織。どう思うか、お前の意見を聞きたい」
「……はい? どうしてあたしなんですか。警部補殿も、他の先輩ゼロ課隊員もいますよ」
「俺は、自分がこの目で見て信用できると思った人間しか信用しない。お前のことは認める」
本日出勤である魔特隊員──鈴木のおっさんと氷さんは、肩をすくめた。
そしてどうやら二人は、謎にメガネさんの主張を受け入れるつもりらしい。
鈴木は無言のまま手で合図し、あたしに意見を言うよう促した。
「いや──……。これだけじゃ分かりませんよ。あたし、戦闘術は磨いてきましたが、こういう捜査関係のことは、全く長けてなくて」
「そうか。なら、上司の警部補殿にお伺いしようか」
「ああ、ようやく意見を言わせてもらえるんですな。光栄至極でございますわ」
拗ねんなって、みっともねえぞジジィ。
ほんと、名前の通りなんの特徴も無いわたくしみたいな凡人は何も有意義な意見は言えませんからどうたらこうたら……と、ひとしきり皮肉った様子を続けた鈴木は、ようやく真剣な顔をして真面目な話に戻る。
「催眠魔術かもしれねぇな」
「ええ。そうですね」
水と油のはずの鈴木と氷さんは、意見がピッタリ一致しているようだった。
「しかし……もしそうであれば、被疑者と被害者は、どこかで必ず接触していないといけないですよね、警部補殿」
「ああ。催眠魔術ってのは、術者の視線と、被術者の視線を、明確に合わせる必要があるからな。しかも、術者が展開した結界領域の中でだ。だが、今見た防犯カメラ映像の感じじゃ、被害者は、被疑者と接触している様子がない。そこんとこ、どうなんだメガネ」
「ったく、どいつもこいつも……古来から親しまれたあだ名ってのは、容易には振り払えないな」
「コンタクトレンズにしてみたらどうですか。案外男前かもしれませんよ」
後から考えれば、このセリフは今現在のメガネさんをディスっているに過ぎないが、あたしは一応、未来のメガネさんを褒めたつもりでいた。
メガネさんは、これを一蹴する。
「眼球に異物を入れるなんて正気の沙汰じゃない」
「へーへー、そうですか」
ふと隣を見ると、ミノルが何やら恨めしそうな顔をして、あたしをジトっと睨んでいた。なんだよ、その目は。
話が逸れたので、メガネさんは本筋に戻す。
「正直、これ以上は無理だというほどに防犯カメラ映像を見た自負はある。だが、行方不明者の様子が変化する瞬間は、どれ一つとして映ってはいないんだ」
催眠魔術が使われたという鈴木のおっさんと氷さんの意見は推測であり、現段階では、異世界人の仕業である証拠はまだ何も無い。
それに、魔特は凶悪犯との戦闘が仕事であり、捜査は仕事ではない。
だが、捜査一課の刑事が現地へ赴いた時に、仮に被疑者とバッタリ接触することになったら、相当危険な目に遭うことになる。まさに、この前のヴァンパイア事案が良い例だ。
もし推測が正しければ、敵は催眠魔術を使うのだ。
行方不明者と同様に、あたしたちも術にかけられる恐れがある。必ずと言って良い確率で、生死を懸けた熾烈な戦闘になるだろう。
ヴァンパイア事案が終わった後、玉櫛課長は、捜査一課長へ手厳しく申し入れをしてくれた。「手がかりを掴んでいたなら、今後は必ず魔特隊員を同行させてくれ」と。
捜査一課長は「なんのことだ」としらばっくれたそうだが、この事案の初動を見る限り、きちんとこちらの課長の刺した釘が効いていたのだろう。
そういうわけで捜査一課は、自分たちの課長へ報告した上で、警備第ゼロ課長へ正式に依頼してきた。刑事部と警備部のやり取りは「部」を
結果、捜査は主としてメガネ刑事が行うが、有事の際に備えて、あたしたちも同行する形になった。
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