第5話 落書きは掃除しよう

 治安の悪い所に住んでいると、切っても切り離せない問題が出てくる。


それは外壁に落書きされることである。近年技術の進歩によりスプレー缶が安価で手に入るようになり、復興途中のこの国には建築物への塗料として、または諸外国からの若者文化に色づいでスプレーアートとやらはが流行っているため大量のスプレー缶が需要と供給のバランスと作っている。


 ここ最近、事務所≪ポリゴンファクトリー≫の外壁にもスプレーアートのキャンバスにされてしまったのだ。


ベールストリートに住む以上落書きなんて被


害はかわいいものでひどいものはゴミがまか


れていたり直視してはいけないものが送り付


けられるのだ。


だからといって落書きをそのままにするわけにもいかない。


一度落書き絵を許してしまえば、町の不良どもがたむろして朝までバカ騒ぎするのだ。


まあつまりはなめられるのだ。


注意するのも最悪放火などの報復がとられる


し、解決策が流血沙汰になる。


好き好んで流血沙汰にするやつはいないので


皆掃除という自衛手段をとっているのだ。


もちろん警察に相談しようにもほかの地区の


治安維持や戦後混乱期を抜けたばかりという


のもあって落書き程度じゃ相手してもらえない。


自分の身は自分で守るしかないのだ。


 とうとうウチにも落書きがされたと頭を軽


く抱えたサイキはシラゴとロドクに掃除を命


じた。2人は愚痴を吐きながらも兄の言うとお


りに壁の掃除を始めた。


「まったく、いい加減にしてほしいよ。人の


仕事を増やしやがって・・・」


「ほんとほんと。てか今日掃除しても今夜に


また描きにくるよ。こういうやつはね、掃除


した壁は新しいキャンバスが用意されたとし


か思われてないよ。」


「うわ、まじ最悪じゃん。いたちごっこじゃん。


戦闘担当だけど戦いにはなってほしくないなあ。」


「おーい。無駄話しないで早く終わらせなよ!会議あるから早く終わらせなよ!」

 

窓からシーカが身を乗り出して2人に告げた。


シラゴとロドクは急いでモップを動かす手を速めた。


 やっとのことで掃除が終わり2人は社長執務室に足を運んだ。


会議はだいたい執務室で行われている。


事務所は小さいレンガ造りのビルなので場所は節約している。


書斎ともいえる本の多い執務室にはいるとシーカとサイキが待ち構えてた。


サイキが掃除を終えてきた2人を労った。


「おつかれ。シラゴ、ロドク。早く座りなよ。」


 シラゴはもしかして今回の落書き事件についての会議だと思い、いそいそと席に着いた。


お題は予想してた通り、落書き事件のことについてだった。


犯人を捕まえるのは簡単だがもしその背後に


組織がいることもいることは慎重に運ばなければいけないのである。


そんな中シーカが手を挙げた。サイキは発言を許可した。


「今夜もう来ないとは限らない。犯人はさっさと見つけるべきだ。」


 ロドクがちょっと待ってくれと言わんばかりに反論した。


「いきなりすぎじゃない?見つけるって監視


魔法を設置するのか?あいつら須そんなのす


ぐすり抜けてくるよ。」


 シーカはやれやれといった顔である書類を


机に放り投げた。


内容は監視魔法の術式だった。


 この世界には魔法が存在しているが近代兵器の登場と技術の向上、魔法に関する厳しい規制法は施行され、衰退の一途をたどっているが、家電がまだ高価なことに加え、通信魔法や監視魔法などの生活に基づく魔法は規制法に引っかからないためまだ市井の人々に使われていた。


「この監視魔法ってちょっと高度すぎないか?」


「ちょっと知り合いに頼んで元軍用の魔法システムを流用してきたんだ。


難しいと思うがこれなら連中の使うステルス


魔法をかいくぐれるだろ?」


 ロドクはそんな情報よく手に入ったなとシーカをまじまじと見ていた。


当のシーカ本人は当たり前だといわんばかりの態度をとっていた。


サイキは資料を見ながら、


「ロドク、俺も手伝うから夕方までにこの魔法を設置しよう。

シラゴ、犯人が引っ掛かり次第捕まえてくれ。

それまでは地下の整理をしてくれ。」

 さあ会議は終わり皆さっさと仕事に戻れと


言わんばかりに手をたたいて弟たちの退散を


促した。


 その日の深夜犯人たちはあっけなく捕まった。


犯人はスライム族の娘2人だった。シーカが彼


女らの手荷物に探りを入れたが、特といった


組織に属しているわけでもなく好都合だった。


つまりフリーの犯行というわけでサイキたち


は胸のつかえが少し消えてなくなった。


彼女たちはサイキたちに許しを乞うていたがそんなの真剣に聞いている者はいない。


戯言として処理しなければ裏の便利屋なんて


やっていけないのだ。


地下室に連れ込まれた娘たちはまず服を脱がされた。


これから起きることに彼女たちは青ざめていたが、彼らはそんなことはしない。


まずサイキが粉末の入った袋を水の入ったバケツに入れていく。


混ぜていくと粉末はどんどん溶けて行って注


射器を持ったシラゴが一人の腕をつかんでバ


ケツの溶液を腕に注入した。


腕はたちまち琥珀等のように硬直していき急


激な体の変化に猿叫ともおもえるような声を


発した。


隣で友人の悲痛さを目の当たりにしたもう一


人は青めの肌をさらに青くしていった。そん


な様子を見てサイキは言った。


「これはな、スライム族の体を硬直化という


より急速に硬化する薬なんだ。まずはお前ら


の四肢を固める。叫んでも誰も助けたいから


な。」


 2本目が注射される。体は魔法が使われてい


るのか抜け出すことはできない。


必死に許しを叫んでいたが届くことはなく、


一人目の手足が硬直したときにシーカが地下


室へ入っていった。


サイキは遅いといわんばかりにシーカに言ってきた。


「遅いぞ、シーカ。はなしはつけてきたのか?」


「すまない兄貴、目のつけてた娼館どこもダ


メだったわ。手招き娼が多くて受け入れられ


ないだって。」


「お・・・お願いします・・・娼館で働きま


すから命だけは助けてください・・・」


「お前に聞いていない」


 最後の希望がついえたのが絶望の表情になる。


注射が自分の番になっても叫びこそはすれ、


さっきまでの勢いがまったくなくなっていった。


その代わりに2人から命乞いの声が


「・・・殺して」とか細い声で命乞いするだけになった。


ついに2人ともほぼ芋虫状態になったところでロドクがある機械を持ってきた。


何らかの大型の圧縮機にも見える。


シラゴとロドクが設置したところでサイキが


大詰めといわんばかりに漏斗を用意し残りの溶液を2人の口に注いだ。


体内に溶液が注がれて体に急激な変化が訪れた。


内臓からバキポキと嫌な音がし、腹部から嫌


な感覚に襲われた。吐きたくても吐けず、声を


出そうにも横隔膜とのどにあたる器官が硬直


してしまい、もはや声出すことすらできなくなってしまった。


皮膚の感覚が無くなりつつある時、急に担が


れて圧縮機に入れられた。ようやく死ねると


思ったのかと安堵したのも束の間、ゴリゴリ


ゴキゴキと嫌な音を立ててキューブ状に圧縮


された娘が出来上がった。


サイキはキューブを目の前に見せつけながら意地悪そうに言った。


「これで死んだと思ったのかよく聞いてみろ


よ。


お友達も声が聞こえるだろ?殺しはしないさ


生きたままキューブにしてインテリアで売っ


てやるよ」


 圧縮されても聴覚が健在なのを知った娘は


わずかに動く眼球を震わせていた。そしても


う1人も圧縮機にかけられた。


 数日後、執務室でサイキは2色のキューブを転がしながらいじっていた。


生きているだけでほんのりあったかい。


そこにシーカが入ってくる。


「失礼、兄貴そのキューブの販路決まったぜ。」


「やっとか!これよく見るときもいもんな。」


 サイキはこんなキューブ欲しがる酔狂なやつもいたもんだなっと思いながらもキューブ


をシーカに手渡した。


その時ほんのり温かったキューブが心なしか


冷たくなったような気がした。

 

彼女たちの行方はこれ以降知ることはない。


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