【異世界からの使者】【二】

孵化した鳥の名前は後(のち)に考えることにしたシエル。

一先ずペケッタを目指し移動する事にした。

バックから頭を出しーキィィピィィーと鳴く鳥に中が嫌なのかもしれないと外へ出し、シエルの肩に乗せる。


小さな羽をばたつかせ、大人しくする鳥にシエルは少し癒されていた。

シエルの後ろを歩くイナン。

くりっと間抜けな顔にーフフッーと笑い指で鳥の頭を撫でる。


イナン:「こうして見ていると少し可愛く思えて来ました」


小動物が好きなイナンは慣れた手つきで鳥と戯れる。

その光景を見ていた店主がーシエルが歩きずらいだろ?もう辞めなさいーとイナンに優しく伝えるがイナンは聞く耳を持たない。


店主の言葉にイナンは不服そうに頬を膨らまし、わがままな娘にため息をつく店主。


そんな親子にシエルは笑いーほらイナンちゃん、少し肩が疲れてきたからしばらく預かっていてくれるかい?ーと鳥を指へ乗せ、指から指へと受け渡す。


体力はアサシン随一のシエル。

そんなシエルが孵化したばかりの小鳥で肩が疲れるはずがない……そんな事はイナンも分かっていた。


しかしそんな事より鳥が自分へ渡されたことがさぞ嬉しいようで、イナンはーピーピー〜ーと鳴き真似をして上機嫌に歩いていた。


シエル:「アハハ!俺よりイナンちゃんに懐いてしまいそうだ」


シオン:「ほんとだね」


微笑ましくイナンを見つめるシオン。


店主はシエルに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


店主:「すまないなシエル……うちの娘はどうも強欲でな……俺も敵わん」


シエル:「気にすることないよ!なにもこんな小さな鳥を俺が独り占めする理由はないからね」


ーキィィ〜ピィイィィー


レイン:「あれ鳥なのか?」


デイン:「んん……鳥に見えん事もないが、鳥類の魔物なのだろうか……」


ミリス:「あんな魔物見た事ないわ?私の図書に載せておこうかしら」


ミリスは母の影響で生物学ー魔物学にはかなりの博識である。

しかし、そんなミリスでさえ見た事がないというこの鳥。

店主はドラゴンではと言っていたが……ドラゴンはそう簡単に人には懐かないと云(い)われがある。


魔物史においてドラゴンは聖域や古城……魔力の強く集まる場所を住処にするとされ、国や村に現れる事は"少ない"という。

そして各国の象徴とされる程魔物ではなく聖獣としての見方が多く、神の使いとされている国もある。


そんなドラゴンが老人から渡されたとなると、シエルになんの意味があるのか……レインやデイン達はそれが疑問でならなかった……。


レイン:「あのじぃさん……何者なんだ……??」


デイン:「俺も会ってみたいものだな、どうしてシエルやレインの元に突然現れたのか……戯言かもしれないが、"龍神族"……という可能性は低いだろうか……?」


マキシス:「ありゃおとぎ話だ……本当にいたって言ってもいつから存在してるかすら分かってねぇんだぜ?父上は今も信じてるけどな、俺はどうもこの目で見なきゃ簡単に信じられねぇぜ」


ユウト:「龍神族ってなんですか?」


アイリーン:「昔この国を守ってた神様(テーオス)に近い種族らしくて、本当に見た人は居ないらしいの」


ユウト:「なにかの宗教が想像した種族だったり?」


アイリーン:「ん〜そういう言い伝えはないけど、もしかしたらそうなのかも……私も古書でしか読んだことがないから詳しくわ……」


ユウト:「ドラゴンとは違う"龍"……俺の認識で言うと神聖獣(しんせいじゅう)みたいなもんか……」


アイリーン:「そうだね、普通に生きてて見ることはないって点ではまさに神聖獣(テオベシュト)だね!」


デイン:「アイリーン、君はサミシュティアのセーファ地方の産まれか?」


アイリーン:「え!?は、はい!そうですけど……」


デイン:「やはり、聖獣を聖獣(ベシュト)と呼ぶのはあの地方の人達だけだ。君が召喚に長けている理由が分かったよ」


ユウト:「地方で言葉がこんなにも違うんですね」


神聖獣(しんせいじゅう)・(テオベシュト)とは━━━━━━━━━━━━。


神によって産み出された聖獣であり、神聖獣が聖獣を産んだとされている。


龍神・獅子神・狼神(カムイ)・雷鳥神・蛇神等の神聖獣が存在しているが、神聖獣の研究者達の間ではそれ以上に存在していると噂されている。


しかし、その存在を見た者は少なく……神話の一種や物語の想像神であると語られることが多い。


シエル:「神聖獣ね……お前もそうなの??」


ーキィィィァピィア!!ー


シエル:「アハハ……よくわかんないや」


優しく鳥の頭を撫でるシエル。

生き物にも優しくするシエルに、イナンは優しく微笑んでいた。


イナン:ーシエルさんとこんなに一緒にいられるなんて……怖いことばっかりだけど、なんだか嬉しいなー


そんなこんなしていると、ペケッタ公国の城壁と門が見えてきた。


レイン:「もうちょいだな……はぁ〜早く休みたいぜ」


アルフォス:「もう少し体力付けろレイン」


レイン:「ぅ……んだよ、アルフォスだって疲れてるだろ?」


何も言い返さないアルフォス。


ユウト:「あ、そういえば……いくら知人の国だとは言え、だれが見てるかわかんないですよね?シエルさんの偽名とか考えといた方がいいんじゃないですか?」


ユウトの言葉にシエル達が納得する。


シエル:「本当だね、ユウト!いい考えだよ!」


ユウト:「え……もしかしてそのまま行くつもりだったんですか……??」


シオン:「エヘヘ……誰も心配してなかったみたい」


デイン:「うかつだった……疲れているな……俺も」


誰もシエルの偽装を考えて居なかったことに頭を抱える。


呑気に笑っているシエルだが、仲間達からすれば重要な事だった。


敵に出くわしたとしても、殺せばいい……そんな単純な事ではないと今になって感じていた。


シエル:「そうだよね、俺大罪人だもんね今……アハハ!」


ユウト:ーシエルさん……凄い人なんだろうけど、どこか抜けてるような……でも、あれだけの事があっても、こうやって軽く受け取るくらいが重さを感じなくてすむのかもしれない……仲間思いなんだろうな本当……ー


アルフォス:「はぁ……てかお前の紅い髪、ここいらじゃかなり珍しいんだからよ……偽名も大事だが身なりもどうにかしないとな」


シエル:「えぇ……髪染めるのは嫌だよ」


レイン:「そこら辺の魔物の血でも塗っといたらどうだ?……ほらそこに丁度いい……まも……のが……」


シエル:「お前……自分でできるから言ってるんだよな?……!?」


黙り込むレイン。


目の前の光景に言葉の出ない仲間たち。

アルフォスは瞬時に殺気に気づき、息を殺し身を潜めた。


アイリーン:「なんでこんな所にこんな大型の魔物が……!?」


ミリス:「こんな魔物知らないわ……な、なによこいつ!!」


イナン:「ぅ……ぅぅ」


店主:「たまげたな……こりゃ」


シエル達の目の前に突如現れた巨大な蛇種の魔物。

皮膚から無数の棘が出入りを繰り返し、黒い鱗に身を包んだその姿は、魔物に詳しいミリスでさえ見た事が無かった。


ユウト:「さ、騒がないように……し、静かに……」


ミオシャ:「こ、ここここわい……こわいよお兄ちゃん……」


ユウトの腕にしがみつくミオシャとシルフェ。


ユウト:ーい……痛い……ー


シエル:「さぁ……魔物狩りと行きますか」


腰に掛けたダガーに手を伸ばし、戦闘態勢になる。

殺気を悟られないよう落ち着く素振りを見せる。


シエル:ー絶対毒を持ってる……あの牙には気をつけないと、それにあの棘……刺さったら痛いだろうな〜……ー


ーシュラァァァ……ーと威嚇する魔物。


尾をゆっくりと揺らし、襲いかかるその瞬間をシエルは見逃さない。


その俊敏な動きよりも更に早く動いたシエル。

ダガーで牙を叩き割り、ふらついたその隙に腹にダガーを刺す……がしかし。


シエル:「かっ……硬すぎる……!!」


ぐにんっと刃が滑り、体制を崩してしまう。


ーやばっ!!ー


その隙に魔物が動き仲間達の元へと移動してしまう。


アイリーン:「あああ!!きたきたきたきたぁぁ!どうしよぉぉユウトォォォ!!」


ユウト:「ええ!?やばい……やばっ」


アイリーン:「もう!仕方ないんだから!ぐっ……くらえぇぇ!」


無詠唱で炎魔法を撃つアイリーン。

魔物に直撃するも……全くといって無傷だった。


アイリーン:「へ……?」


ユウト:「あが……お、終わった……」


レイン:「魔法効かねぇのかよ!!」


そして魔法を受けた事に苛立ったのか、魔物の棘が長くなり、動きが更に早くなる。


ユウト達がもう駄目だと悟ったその瞬間。

デインとマキシスが魔物の動きを止める。


大きく開かれた口に槍を突き刺し、二人がかりで閉じないよう抑え込む。


マキシス:「んぐっ…!クッソ……なんて力だ!!」


デイン:「兄様……絶対離さないでくれよ……!!」


大岩程の大きさである顔、そして更に大きく開かれた顎の力は凄まじく、力に自身のある二人でさえ抑えるのがやっとだった。


仲間の窮地に急ぎ向かおうとするシエル。

しかし、また突然目の前に別の魔物が現れてしまう。


シエル:「キマイラ……!?こんな所に生息してるはずないのに……!!」


獅子の顔に蛇の尾、鳥の羽を持ち背には山羊(やぎ)の頭が生えている魔物。


主な生息地はオリタルの魔神デュポールが眠るとされるデュポス神殿やサミシュティアの精霊の森であるとされているが、アルラーク大陸内での目撃は一度も無かった。


ミリス:「ありえない……この大陸の環境では生息できないはず……!どうして!?」


シエルの危機を察したデインだったが、槍が折れてしまいそうな予感がし、一度口から抜いてしまう。


デイン:「ダメだっ……俺の槍がもたない……!!」


マキシス:「レイン!どこでもいい!刺せれるとこにぶっ刺してくれ!」


シオン達を守るように剣を構えていたレイン。

ずっと弱点を探っていた為、すぐに狙う場所へと仕掛ける事が出来た。


レイン:「こいつの皮膚は硬ぇらしいからな……ならここしかねぇだろ!!」


小さく狙いずらい目を瞬時に狙い、剣を深く突き刺す。

それを好機とアルフォスもナイフを目へと投げていた。


魔物が大きく後ろへと反(そ)れ、なんとか陣形を崩さず誰一人犠牲が出ずにすんだ……しかし。


アルフォス:「あ?どうなってんだこいつは」


目と口内から煙を出し、折れた牙から毒を噴射させる魔物。


そして棘の色が緑に代わり、黒かった皮膚が紫へと変わった。


アイリーン:「この魔物……進化してる……」


アイリーンの放った一言に驚愕する仲間達。


ミリス:「進化……ですって……!?」


アイリーン:「恐らく……この魔物、傷が増えれば増えるほどその箇所を強化していってます、新しく……更に強力に」


デイン:「じゃあ……どう倒せばいいんだ……」


レイン:「クソ……囲まれた……」


長い胴体に逃げ場を無くされ、太刀打ち出来ないレイン達。


アイリーン:「うわぁぁん……どうしよぉ……!!」


棘がジュリジュリと動き、恐怖してしまっていた。


シエル:「お前ら魔物に手こずってる訳にはいかないの!!っおとと……もう、暑っついだろ!!」


キマイラの放つ炎に汗を流すシエル。

尾の蛇を狙うも山羊の鳴き声に動きを鈍くされてしまう。


シエル:「アサシンは対人仕事なんだよ!!バカァ!!……?」


突然魔物達の動きが止まり、シエル達の目に謎の影が映る。

草原に立つ二人の茶髪の青年と少女、そして亜人らしき少女が背後から現れる。


シエル:「誰だ……」


レイン:「次はなんだよ……」


???:「ДОУЩЪИКУЫЪРК」


青年の言葉が全く分からず、言葉に詰まるシエル。


デイン:「あれは……どこの言葉だ……」


???:「なんで何も言わないんですか……?貴方は手配書に載っていた人物かとお聞きしているんです!何か答えて!」


シエル:「МТЧПЩЗКИРЖШ(言葉がわかんないんだ!この地方の言葉……わかるかい!?)」


???:ー聞いた事ない言葉だ……やっぱり、ここは別の異世界……でも頭の中の何かがあの人を殺せと命じてくる……どうすれば……ー


猫耳:「アルト!大丈夫ニャ!?」


アルト:「ミャーニ……助けて……頭の中の声が……」


ミャーニ:「セニャ!どうしよ!アルトが!!」


セナ:「あの人がお兄ちゃんを……」


ーそうだ……奴を……殺せ……奴はこの世界を破滅へと導く者……生かしてはならぬー


苦しむアルト、そして妹のセナの目が赤く変わる。


ミャーニ:「どうしたんだニャ二人とも!!」


セナ:「お兄ちゃんを……苦しめるな!!悪魔め!!」


シエル:「な、なんなんだ……なんか怒ってない?」


セナ:「いでよ!炎王鳥ガールダ!!」


本を開き魔物の名を呼ぶセナ。

次の瞬間本が光を放ち、セナの前に炎を纏った巨大な鳥が現れる。


アイリーン:「あれは……もしかして召喚師!?でもあんなの見たことない!!」


ユウト:「なんで召喚師がシエルさんを……ん?」


ミャーニ:「何してるニャ!罪のない人を傷つけちゃダメニャ!!二人の優しさはどこへいったニャ!?」


ユウト:「なんか……揉めてる」


アルト:「ぅぅ……言葉が通じないなら……仕方ない……貴方には死んでもらいます!!出でよ【雷王ギリム】!!」


雷を纏い、金色(こんじき)に靡(なび)く鬣(たてがみ)。

青く輝くその馬は通常の馬のそれではなく、アルト達の世界での聖獣だった。


アルト:「行くよセナ」


セナ:「うん……お兄ちゃん」


アルト:ーあの人を倒して、元の世界へ帰るんだ……!!ー


シエル:「ありゃ〜参ったな……さぁて、どうしましょうかね」


シエル達を襲う突然の窮地。

仲間達にも強い緊張が走っていた。

そんな状況でイナンの肩ではあの鳥が高く鳴いていた。



【契約】へ続く……。

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