【敗北】

ラボラエルを倒し、シエル達に安堵が訪れていた。

日が昇り、ロンブルクと村に勝利の夜明けを告げる。

村に燃え広がっていた炎もレインの瞬羅で消え、地下に隠れていた住人達も顔を出していた。


シエル:「フゥ……どうなるかと思ったよ……アハハ……」


デイン:「シエル、いい判断だった。ほとんど賭けだったみたいだがな」


シエル:「レイン次第だったんだ、あの巨体はレインの瞬羅でしか殺れなかっただろうね……俺もあんなのを相手するのは初めてだったから、本気で焦ったよ」


レイン:「……」


レインは瞬羅の二度目の使用で立っているのもやっとの状態だった。

それに気づいたシエルはすぐにロンディネルに呼びかける。


シエル:「ロンロン!すまない、言いたいことや感謝もたっくさんあるんだけど、レインをすぐ休ませたい。わがままを言ってばかりで申し訳ない……」


ロンディネル:「いえ!すぐに手当てします。お二人は……?」


心配するロンディネルに二人は笑って胸を手で叩く。

ーこの通り!ぴんぴんしてるよ!ーと言うと、ロンディネルは優しく微笑みを向けた。


疲れ果て、地面に座り込むとレイグや村の住人達が集まってきた。


レイグ:「シエル……そしてデイン殿にレイン殿、この村を……救ってくれた事、村を代表して感謝を伝える。本当にありがとう。そして国の魔法兵達にも感謝を……本当にありがとう」


魔法兵:「レイグさん……私達は貴方に感謝される覚えは無い……むしろこちらが謝りたい。貴方達にこんな仕打ちを……どれだけ謝っても償(つぐな)いきれない事をした。

本当に申し訳ない」


シエル:「仕方のない事だよ、どういう種かはわからないけど奴がこの国に来た時に、亜人族(ペティーシャ)達を除いて洗脳をされていたんだから。こうして残ったもの達でまた手を取り合う事が一番の償いになると思うよ」


魔法兵:「お恥ずかしい話だ……しかし、貴方の言う通り、こうして元の状態に戻った今、また共に国を守ろうレイグさん」


魔法兵とレイグは強く手を握り会い、称えあった。


シエル:「俺達が殺してしまった兵達に……どうか安らかな眠りを……すまない」


ロンディネル:「シエルさん……今回の件、私にも責任があります。国の王たる私がその呪文にかかってしまった……王として恥ずべき事です。もしシエルさん達が来ていなければ、今頃この国は皆のロンブルクではなかったでしょう。本当に感謝しています」


シエル:「もう〜、堅苦しいよロンロン!でもちゃんと守ったじゃないか!ロンロン達が来てくれてなかったらこんな事言うのもあれだけど……負けてたかも?……アハハ……、ちゃんとロンロンは国の為に戦った。これは紛れもない事実だ!だろ?デイン!」


デイン:「その通りだ。私の父も貴方の活躍を聞けば必ず喜んでくれる。そこにいるルスタに伝えさせよう」


ロンディネル:「身に余るお言葉……誠に光栄です」


デイン:「ルスタ、ロンディネルの勇姿を父へ伝えて貰えるか?」


ルスタ:「お任せ下さい!しっかりとベルト様にお伝え致します!……デイン様、私は一度戻りますが、何かお伝えしておく事は他にありますか?」


デイン:「そうだな……、俺達は怪我も病もなく元気だと伝えておいてくれると助かる。父上は少々過保護なのでな」


ルスタ:「デイン様達を心配してのことです。まぁわからなくもないですが……、お伝えしておきますね!では!」


ルスタはシエルとロンディネルに頭を下げた後、馬に跨(またが)り早々と行ってしまった。


シエル:「それに〜、俺とロンロンは友人なんだろ?シエルってまた呼んでよ!さん付けなんてしないで!ね!」


ロンディネル:「全く……貴方には……シエルには敵いませんね」


レイン:「ロンディネル……」


運ばれていくレインが薄い声でロンディネルに問いかける。


ロンディネル:「どうされましたか、レインさん」


レイン:「仲間達は……無事…なのか……?」


ロンディネル:「はい、皆さん療治室で休まれてますよ、皆さん傷は多いですが幸い命に問題はありません。安心してください」


レイン:「そうか……よか…た……」


意識を失うように眠ってしまったレイン。

二人はそんなレインに微笑みかけていた。


デイン:「全く……とんでもない技を身につけたなレインは」


シエル:「負けてられないよ、俺も」


レインの後を追うように城へ戻ろうとするとレイグが慌てて声を掛けてきた。


レイグ:「シエル!、呼び止めてすまない。少しわがままを聞いてくれんだろうか?」


シエル:「ん?どうしたんだい?」


レイグはシエルや仲間達、ロンブルク城の者たちを招き、村で宴をしたいとの事だった。

後々は城へ戻る事になるとロンディネルから伝えられ、長く過ごした村に別れの宴をという亜人族(ペティーシャ)達の願いに、断る理由は無くシエルは迷わず了承した。


シエル:「絶対ロンロンも喜んで来てくれるよ!俺達も今夜を楽しみにしてるね!」


レイグ:「ありがとう。何からなにまですまないな」


シエル:「ううん!その時に星となった皆も送ってあげよう」


レイグ:「そうだな……しかし、残ったものも多い……これ程嬉しいことはない。王やシエル達が来なければ、皆今ここに立っていなかった、今日という日を忘れることはないと誓おう」


シエル:「うん。俺も忘れない」


━━━━━━━━・・・・しばらくして、


アルフォス:「いででででで!!!おいおい!もっと優しく……やさしっ……うぁああ゛゛!!」


ナース:「もう!あばれないで!!」


アルフォスはナースに傷口を縫われ痛がっていた。


アルフォス:「んな針を向けんな!ひぃぃ!怖ぇんだってば!!」


マキシス:「ハッハッハ!!まるでガキじゃねぇかアルフォス!!」


アルフォス:「っるせ!!昔っから針は嫌いなんだよ!!」


ノルン:「もう……子供みたい……」


シオン:「元気いっぱいだね……えへへ」


ミリス:「うるっさいのよアルフォス!!少し黙ってられないの!!?」


ナース:「はーい糸通しますよー、こればっかりは魔法で出来ないんだから、我慢してね〜」


アルフォス:「いいい糸が……ひぃぃ……俺の皮膚を……ぉぉぉ……うぁ……」


チーーーン……


シエル:「アハハ!アルフォスの弱点みーっけ!」


扉から突然現れたシエルに皆が喜び、顔を向ける。


シオン達:ーシエル!!!ー


ミリス:「デイン兄様!!」


デイン:「無事で良かったミリス、それに皆も」


マキシス:「レインはどうした!?」


シエル:「レインは大活躍して爆睡中だよ!安心してくれたまえ」


ミリス:「良かった……みんな、無事で……んぐっ……ほんとによかったわ……」


犠牲者がおらず、安心したのか涙を零すミリス。


ノルンとシオンはシエルに抱きつきたい気持ちでいっぱいだった。


シエル:「皆……本当に無事でよかった」


トタタタタタッッ!


シエル:「ん?」


廊下から走る音が聞こえ視線を向けるとエルトが満面の笑みで向かってきた。


エルト:「シエルさん!!!みなざん゛っ!!」


シエル:「エ、エルト!?どうしたんだいそのぐるぐる巻きの姿は……!!?」


エルト:「あ、あははは……色々ありまして」


シオン:「あ、そっか、シエル達はエルトが私達と一緒に閉じ込められてたの知らないんだ」


シエル:「え!?エルトも攫(さら)われてたの!?」


エルト:「まぁ、はい…」


デイン:「エルトも今回の件になにか首を突っ込んだという事か?、ラボラスとなにかあったのか?」


エルト:「ラ、ラボラス??……」


シエル:「あ、ベリアットの事だよ!偽名だったんだ、本当の名はグラーシャ・ラボラスっていってね、錬金術師なんだよ」


エルト:「え!?そ、そうだったんですね、ここに入隊した時にはもう居たので……もうなにがなんだか……」


シエルはエルトの言葉に疑問を抱く。


シエル:「エルト、もしかして君は洗脳を受けてないんじゃ……?」


エルト:「せ、洗脳!?いったいなんの事ですか、知らない間にこの城でなにが起こってたんですか!?」


シエル:「お、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、話を纏めると、ラボラスはリオル王から依頼を受け、王会が終わるまでにロンロンを殺してこの国を内部から潰そうとしてたんだ、亜人族(ペティーシャ)の村を襲ったのは国民に彼が殺させたと思わせるためだろうね」


エルト:「それで、全員を洗脳して自分の事が上手く進むようにしたと……亜人族が殺されればロンディネル様に対する国民の認識はかなり変わっていたと思います。

……うぅ、考えただけで恐ろしいですね、シエルさん達がいなかったら今頃俺の命は……それにみんな死んでたかも」


エルト:ー大臣も洗脳を受けててあんな発言してたってことなのか……でもなにか計画があるような言い方だったけど……気のせいかな??ー


大臣の事が気になり、シエル達に話そうとしたがデインが話しかけて来たことでその機会を失ってしまう。


デイン:「あぁ、そうだエルト。今ミリスから聞いたんだが、エルトがミリス達を救ってくれたんだな、深く感謝している」


エルト:「えへへ、大したことしてませんよ……魔法を二発撃っただけで気失っちゃったんですから!」


シエル:「それでも、救ってくれたのには変わりないさ!ありがとうエルト!立派な騎士だよ!」


エルト:「き!騎士だなんて……えへへ、なれないかな〜」


ロンディネル:「騎士になりたいのですか?エルト」


突然背後に現れ、腰で手を組み立っているロンディネルに驚くエルト、それを見てロンディネルはエルトに優しく微笑んだ。


エルト:「ロ……!ロンディネル様!」


ロンディネル:「敬礼しなくても大丈夫ですよ。貴方の活躍は私も耳にしました、もしエルトが騎士団に入りたいなら今はその席が空いているので私が推薦してあげても良(よ)いと思っています……後は貴方の覚悟次第です」


エルト:「ほ、本当……ですか、で、でも……」


シエル:「何を迷ってるんだい?」


エルト:「俺はまだ兵になって浅いですし、それに……」


ロンディネル:「他の兵達はどう思うか……とお考えですか?」


エルト:「はい、俺は今回たまたまシオンさん達を救えて、あの少女や皆の協力があったからこうして生きられてるわけで……」


ロンディネル:「騎士とはなんたるか……エルトは分かっていますか?」


エルト:「え……」


ロンディネル:「必要なのは守り通す覚悟、そして相手を前にした時強い意志で立ち向かう覚悟なのです。

実績があるから…ただなりたいからとなれるものではありません。ですが貴方は恐怖に立ち向かう精神を見せた、それは紛れもない事実、違いますか?」


エルト:「い、いえ!間違っていません!」


ロンディネル:「私は推薦するだけ、先程も言いましたが必要なのは貴方の覚悟次第です」


デイン:「エルト、君は恐ろしい殺人鬼を前に立ち向かったんだ。それだけでも騎士を目指していい理由にはならないか?

恐怖を乗り越える、これは簡単な事ではないと父から教わった。

民からも慕われ、憧れの眼差しを向けられる、最初は父もそれが怖かったらしいが……いつしか民の声が勇気に変わったそうだ、今では信じられないが、あの父も昔はかなりの臆病だったと聞く。

エルトがもしこの国を守りたいと強く願うなら兵ではなく騎士を目指すと言うのも悪くはないと思うが?」


デインの言葉にエルトは胸動かされ、決意する。


エルト:ーあのナルビスタの皇帝も怖かったんだ……俺も怖い、でも母さんと約束したんだ、立派な騎士になるって!魔法も覚えて自慢の息子だって言わせてみせるって…!もう泣き虫のエルトじゃない、母さんを安心させる為にこの国の兵に入隊したんだ……!ー


エルト:「ロンディネル様!」


ロンディネル:「?」


目を閉じたままエルトに笑みを向ける。


エルト:「俺を……わ、私を騎士団に推薦してください!!後悔はさせません、必ず騎士になってこの国を守り、背負う立派な騎士になります……!誰に反対されようと構いません!私は自分の意志を貫き通す覚悟です!!」


シエル:ーよく言ったエルト……前より顔つきがいいじゃないかー


ロンディネル:「わかりました。貴方のその覚悟、期待しています。

良い顔つきになりましたねエルト、貴方のこの先がとても楽しみになりました……フフ」


エルト:「ー!!、はい!!」


目を輝かせ満面の笑顔で返事をするエルト。

そんなエルトにナースが言葉を挟む。


ナース:「フフフ、エルト〜大っ嫌いな訓練たくさんこなさなきゃいけないわね!大丈夫なの〜??」


エルト:「うっ……あ、当たり前だろ!?どんな訓練でも耐え抜いてやる!」


ナース:「フフッ……楽しみだね、その時は〜"あの事"考えてあげる」


エルトはナースの言葉に顔を赤くする。


エルト:ーえ……それって、結婚してくれるってこと!?

び、びびび、美人な妻……王国の騎士……えへへー


突然ニヤつくエルトに皆が笑っていた。


ナース:「ばーか」


ノルン:「すごい顔してるよエルトさん……」


ミリス:「純粋な人なのね!フフッ」


シエル:「アハハ!騎士になった時はまた皆で見に来るよ!」


ロンディネル:「フフフ……私も負けてられませんね」


その場を立ち去ろうとするロンディネルにシエルが問いかける。


シエル:「あ!ロンロン!今夜の宴、来てくれるかい?」


ロンディネル:「先程言っていた宴ですね?えぇ、もちろん……!恐縮ですが……ぜひご一緒させて頂きたいです。とても楽しみにしています」


シエル:「よかった!……あ、大臣は来るかな?もうあんな性格じゃないといいけど……アハハ」


シエルの言葉に困惑するロンディネル……


ロンディネル:ーはて……?大臣……ー


考えこんだ表情を浮かべるロンディネルにシエルは気まずい事を聞いてしまったと思った。


シエル:ーロンロン……もしかして大臣は元から嫌いだったのかな……ー


シエル:「アハハ、忘れてロンロン!ロンロンが来てくれれば俺も嬉しいから!」


ロンディネル:「え、えぇ……必ず顔を出しますよ、それでは」


ロンディネル:ー大臣……ですか、誰かと勘違いしていたんでしょうか……ー


シオン:「今夜の為に皆身体休めとかないと!」


ノルン:「そうそう、シエルもデインも部屋で休んできて!私達はもう大丈夫だから!」


シエル:「わかった!そうするよ、皆本当に無事で良かった」


マキシス:「二人とも、ちょっといいか?」


シエルとデインに声をかけ、ベッドから体を起こすマキシス、部屋を後にしシエルの部屋で話すことになった。

シエルはベッドに腰かけ、マキシスは扉の前にもたれかけデインは椅子に座り話を始めた。


シエル:「ってなると、ヨルム達は別の目的があってここに来てたのか……」


マキシス:「恐らくな、あの女の事はわからんが闇の野郎と人狼野郎はロンディネルを狙ってた訳じゃなさそうだった」


シエル:「女??少女じゃなかったかい??」


シエルの言葉に驚くマキシス。


マキシス:「ああ!?あれが少女に見えるか?シオン達と変わんねぇくらい大きく見えたけどな??」


シエル:「あれ……ヨルム成長したのかな??」


デイン:「まぁいい、しかし……そうなると奴らの目的は何だったのかって事だな」


シエル:「ラボラスと繋がりがないとしたら、彼らが個人的に動いているのか、他に依頼者がいるのかのどちらかだね……あの三姉妹もシオンが言うにはロンディネルじゃなく、俺を探してたらしいし……」


デイン:「シエルを……ん〜余計にややこしくなってきたな、前は俺達兄弟を襲い、今回はシエル……しかし実際相手をしたのはマキシスやアルフォス達……なにが狙いなんだ」


マキシス:「まぁ、今となっちゃそこまで問題ないだろうが、奴らの狙いが分かってればまた会った時警戒できるしな……リオルへ戻ったらマスターも交えて話し合おう」


シエル:「そうだね!ロキシルならなにか分かるかもしれない」


デイン:「とりあえずは今夜の宴を楽しむとしよう、マキシス、一人で戻れるか?」


マキシス:「心配すんな、もう元気だぜ!お前らもしっかり休めよ?んじゃな」


バタンッ……


シエル:「じゃあ俺も一度眠るとするかな!何かあったらすぐ起こしてデイン」


デイン:「あぁ、何も無い事を祈っておくさ、また夜に……おやすみシエル」


シエル:「あぁ」


なにか心配そうな表情で部屋を出ていくデイン。

シエルがあまり重く受け止めていないか心配していた。


デイン:ーシエル……あまり考えすぎないでくれ、決してお前のせいで仲間達が危機に扮したわけじゃないんだ……誰も悪くないんだ……ー


シエル:ー俺を狙ってたかもしれないのか……先生……か、結局手がかりなかったな……ー


シエル:「考えてもしょうがない!一先ず寝るか!」


ベッドにそのまま寝転がり、眠りについた……。


━━━━━━━・・・・・ー


ーエル……起きて……シエル……ー


ーん……ー

ぼやけた視界に見覚えのある白髪が映る。


ーシスナ……?ー


ーもしもーし……起きてってば……ー


シエル:「シスナ……?」


ノルン:「え……、えっと……私、だけど……」


視界がはっきりとし、ノルンだった事に驚きそのまま飛び起きる。


シエル:「うわっ!ごご……ごめんノルン!どうしたんだい?!」


ノルン:「え、えっと……皆もう行くよ?」


気がつくと外は日が沈み暗くなっていた事に気づく。


シエル:「もう夜か……こんなに寝たのは久々かもしれないな……起こしてくれてありがとうノルン、すぐ行くよ!」


ノルン:「う、うん!待ってるね!……」


いつものように笑顔で部屋を出ていくノルン。

シエルのある言葉に、胸が締め付けられていた……。


ノルン:ーお父さん……今、シスナって言ったよね……聞き間違いじゃないよね……いったいどこに……どこで会ったんだろう、今どこにいるの……"お母さん"ー


シエルの部屋の扉の前で佇(たたず)むノルン。

そんなノルンを見て、シオンはどうしたんだろうと心配していた。


シオン:ーノルン……なにかあったのかな……どうしてあんな悲しそうな表情、シエルとなにかあったのかな……ー


シオン:「ノルン!大丈夫??」


ノルン:「……!?え!?……う、うん!大丈夫!シエルもすぐ来るって!」


シオン:「シエルになにかされた??」


ノルン:「違うよ!シエルは酷いことするような人じゃないもん!シエル無理してないか心配で、えへへ……」


シオン:「無理……してないといいね、シエル」


少し曇った表情をしているとシエルが扉から鼻歌を歌いながら出てくる。


シエル:「ん?どうしたんだい二人とも、そんな顔をして……」


ノルン:「?!、な、なんでもないよ!ほんと全部突然の出来事ばかりで」


シオン:「まだ気持ちの整理ができないねって話してたの……えへへ」


シエル:「ロンロンが狙われたこと、ロイの死、ラグナーズやラボラスの亜人(ペティーシャ)村襲撃、この国で起きたことは世界の目で見るときっと小さな出来事なんだろうね……でも俺たちからしたら大きすぎるんだ、だから整理できなくて当然だよ、俺だって出来てない。

でも今は宴を楽しも!二人とも、レイグたちがせっかく開いてくれたんだ、俺たちがこんな顔じゃ星になった人達を送ってあげられないだろ?」


突然二人は顔を見合わせ互いに頬を引っ張り合う。


シエル:ー!?ー


二人:ーんんん~!!いたいいたいぃぃい!!ー


二人は手を離し互いに笑いあった。


ノルン:「は~、引っ張る力強すぎだよ」


シオン:「ノルンも……イテテ……」


シエル:「アハハ!……もう大丈夫かい?シオン、ノルン」


ーうん!!ー


空気が少しだけ軽くなった気がした……。

本当はみんな辛いことをわかっていたが、今は、今だけでも笑っていようと、また偽りの仮面を付ける。


そしてデイン達と合流し村へと向かった。


村へ向かう途中……


レイン:「んあ~!動く動く!魔法ってのはすげえな、痛みも疲れも吹っ飛んじまった!!」


ミリス:「フフ、元気になって良かったわレイン」


レイン:「お、おう……その、なんだ……ミリスも無事でよかった」


恥ずかしそうに口をごもらせるレインにミリスは嬉しそうに微笑んでいた。


マキシス:「んん~……」


ノルン:「どうしたの?マキシス」


マキシス:「いや、なんというか……妹のああいうとこを見ているとどういう気持ちで見ればいいかわからなくてな……」


ノルンーえっと……え、もしかしてー


ノルン:「ミリスとレインって……」


デイン:「!?!……」


シエル:「ノルン、お兄ちゃんたちが心に痛みを感じてるから言わないでおこうか……アハハ」


シオン:「二人とも気づいてるのかな……?あれどう見ても両おも……」


デインとマキシスが突然下を向く。


ー!!!ー


シエル:「こらこら……」


シオン:「えへへ……」


シエル:「お!賑わってるね~!!」


アイルー!?ー


アイル:「シエル兄ちゃん!!」


レイグ:「お!来たか!!!」


村はどこもボロボロで、戦いの跡が残っているが、魔法で鮮やかに照らされ皆が笑い騒ぐその光景は、シエル達の心を大きく癒してくれていた。


ミーシア:「わーい!!見て見てシオンお姉ちゃん!」


母に編んでもらった服を自慢するミーシア。


シオン:「ミーシアちゃんとっても素敵!私も着てみたいくらい!」


ミーシア:「えへへ~いいでしょ~!」


ヘレナ:ーノルンお姉ちゃんあたたかい~、シエルお兄ちゃんとシオンお姉ちゃんと同じ優しい匂いがするー


ノルン:ーほんと!?すごくうれしい……えへへー


ヘレナとノルンは頬をくっつけ合う。


レイグ:「エルトって言ったな!騎士を目指すんだって??元団長である俺がみっちり鍛えてやるよ!!」


エルト:「は、はい!!お願いします!!」


エルトーすごい……人間に耳と尾が生えてる……てか美人多いなぁ~ー


ロンディネル:「エルト、心が浮ついて見えますよ……フフ」


シエル:「アイル、あの時すっごくかっこよかったよ!!」


アイル:「へへっ……怖かったけどね」


デイン:「怖くて当然だアイル、俺も相手を前にした時は怖いんだ」


アイル:「そうなの!?あんなに強いお兄ちゃんでも怖いの!?」


デイン:「ハハッ!あぁ、怖いさ……まあこいつは違うだろうがな」


アイル:ーお兄ちゃんが笑った……ー

シエル:ーデインが笑ったー


シエル:「アハハ、俺だって怖いさ……あれ、信じてない顔だね、ほんとだよ?俺だって怖いんだよ!?」


マキシス:「ハッハッハ!!お前が怖えってか!!」


シエル:ーあ、あれえ……ー


皆が声を荒らげて笑っている……こんな毎日が続けばいい……この場にいた皆がそう思っていた。


レイグ:「酒が美味い!!おお!いい飲みっぷりだな!」


マキシス:「こんな美味い酒がこの村で作られてるなんてな!!無くならなくてよかった!!な!」


後からやってきたアルフォスの背中を強く叩くマキシス。


アルフォス:「いたいっつの……まぁ……美味いけど」


ロンディネル:「私もこの果実酒が大好きなんです、とても優しい味でしてね、父に昔少し飲ませて貰った時は絶対飲まないと思っていましたが……フフ、分からないものですね」


シエル:「ギルドのみんなにも飲ませてあげたいくらいだよ!!ロンロンにもここのみんなにもうちの酒場のゴッキュを飲んで欲しいな~!」


マキシス:「ゴッキュ美味えよなあぁ!!」


レイグ:「そんなに美味いのか!?一度飲んでみたいもんだ!」


アイル:「なにそれ!!おれも飲んでみたいい!!」


シエル:「だーめ!もっと大きくなったらな!」


アイル:「大きなったら……おれ大きくなったらシエル兄ちゃんみたいに強くなってアサシンになる!!」


アイルの言葉に大人たちは言葉に詰まる。


シエル:「いい夢だねアイル、でもアイルが大きくなって強くなった時には、アサシンがもういなくなってるかも!」


シエルの言葉に皆(みな)が微笑む。


アイル:「??……なんで??」


シエル:「大きくなったらわかるよ」


アイルーむ~ー


シエル:「さあ乾杯乾杯!!」


レイグ:「平和な夜に……」


シエル:「今ある生命に……」


━━━乾杯……。━━━━━


暫くして……。


テントで眠るアイル達の傍でシオンとノルン、そしてシエルが起こさないよう静かにしていた。


シエル:「眠っちゃったね……」


シオン:「いっぱい騒いでたもんね、可愛い」


眠ったアイル達の髪を撫でる三人……。


ノルン:「二人とも親みたい」


シエル:「親……か、いつか俺も親になる日が来るのかな……」


シオン:「シエルは絶対いい親になると思うな~、えへへ」


ノルン:「いい親だよ!!」


二人:ー???ー


ノルン:「あ…、いい親になるよ!絶対!」


シエル:「そんなに興奮して言われると恥ずかしいな……アハハ」


シオン:「アイル達起きちゃうよ~」


赤面するノルン……。


ーシエル、居ますか?ー

外からロンディネルの声がし、返事をしてテントから出る。


シエル:「どうしたんだい?」


ロンディネル:「いえ、先程デインから明日国へ戻ってしまうとお聞きしたので……」


シエル:「うん!一応王子から受けた依頼は終わってしまったからね、王会も終わってきっとどこもピリついてる、依頼も増えて仲間も大変だろうから戻らないと……大丈夫。この国の人達は強いんだから」


ロンディネル:「また、いつか依頼ではなく観光でもいいのでこの国へ来てください。その時は今よりもっと立派な国になっているとお約束しますよ」


シエル:「楽しみにしてる!明日朝一で国を出るよ、色々ありがとうロンロン」


ロンディネル:「感謝をしてもしきれません、貴方達にどれ程救われた事か、明日必ずお見送りさせてください。エルトは村へ泊まって行くそうなのでそのまま朝まで護衛をしていただこうと思います」


シエル:「すっごく仲良くなってたね!アイルも慕ってる様だったし、今夜の宴は本当に楽しかった!」


ロンディネル:「えぇ、本当に……とっても素敵な夜でした」


その後レイグ達と会話し暫(しばら)くして城へと戻った。


━━━━━━━━・・・敵を……間違えるな……


ハッッ……!!


シエル:「また……あの夢……ぅ、もう朝か……リオルに戻ったらこんなに寝れない生活に戻るのか〜やだなぁァァ〜はぁぁ〜」


大きくあくびし、背を伸ばす。


コンコンッ……


レイン:「シエル、起きてるか?そろそろ出ないと間に合わねぇぞ?」


シエル:「もうそんな時間なのかい……?ほぁ……村も寄っておかないと!」


身支度をし、長い髪を紐で縛る。


シエル:「あれ……卵どこやったっけ……?確かこの辺に……」


ベッド横を探すがなかなか見つからず、焦っていると

突然足元になにか当たる感覚があった。


シエル:「あ、あった……。!?う、動いてない!?これ!!?」


コロコロコロ……


シエル:「なにが産まれるんだろう……食えるのかな……」


シオン:「シエル〜準備できた〜??」


扉の外からシオンの声が聞こえる。


シエル:「あ、うん!今行くよ!忘れ物なしっと!」


少ない荷物を持ち部屋を後にする……。


下の階へと降りるとロンディネルただ一人が出迎えてくれた。


シエル:「おはようロンロン!……あれ、一人なんだね?」


ロンディネル:「少し事情がありまして、私一人でのお見送りをどうかお許しください」


レイン:「あんなことがあったんだ、みんな忙しいんだよ!見送って貰えるだけでありがたいことだろ」


デイン:「ロンディネル王、また貴方にお会いする日を心待ちにしている。どうか達者で」


マキシス:「ローディ、成長したな……この国の行先を楽しみにしているぞ」


ノルン:「もう狙われないで下さいね……!」


シオン:「また必ず来ますから!」


ミリス:「私も魔法を学びに来ようかしら!」


アルフォス:「……料理、美味しかったです」


シエル:「えぇ〜!アハハ!アルフォスらしいか、ロンロン、この国の危機にはまた俺達を呼んでくれ、必ず駆けつけるから。まぁそんな事無いのが一番なんだけど!本当にありがとう。またね!」


ロンディネル:「はい……皆さん、本当にありがとうございました。どうかご無事で……"後はお任せ下さい"」


ロンディネルの笑みはどこか固く、シエル達は寂しさを抑えているのだろうと何も言わず城の門から出ていった。


門から出たシエルは、振り返り城を見上げる。


シエル:ー後はお任せ下さい……か、王会の影響が何も無ければいいんだけど……ー


レイン:「ほら行くぞシエル!村寄るんだろ?」


━━━━━━━・・・・


城内……


ロンディネル:「これで……宜しいのですね?"ご客人"……」


━━━━━━━━━━━━━━━・・・


シオン:「今日も天気いいね!すっごく空が綺麗」


ノルン:「なんでこんなに青いんだろう」


デイン:「オリタルは四大陸の中で一番空が綺麗と言われているからな……何度見ても美しい」


村に向かっているとアルフォスが後ろから呼びかけてきた。


アルフォス:「シエル……なにか妙だ」


シエル:「……?、なんだ……この匂い、肉でも焼いたような匂いがする」


ミリス:「もう村に近いわよね?……どうしてこんなに静かなの……?」


不穏な空気が流れ、急ぎ村へと向かう…… 。


先程まで晴れた空だったはずが急に曇り黒い雲が辺りを包む。

目の前の光景に、幻影を見せられている……そうなんだと思いたく成程に、胸が強く引き裂かれたような痛みに襲われる。


シオンやノルン、ミリスは止まることのない涙と吐き気に、地に膝を着いてしまう。


シオン:「っ……!?!!そん……な……」


手で口元を抑えるシオン


ノルン:「…………酷い」


シエル:・・・・・


マキシス:「こんなことが……あっていい訳ねぇだろ」


デイン:「ッグ……何故だ……なぜなんだ……」


村の大人たちが縄で縛られ槍や矢が刺さったまま死んでおり、目を刺されている者、焼き殺された者、四肢を切断された者が地面に倒れていた。


そして、奥には十字に立てられた木に、肌を露出した状態で縛られ、焼き焦げている何者かの姿があった……。


その場へと歩くシエル……。


シエル:ーっ……!?!ー


シエル:「……エルト……」


レイン:「嘘だろ……エルトなのか……」


皮膚はただれ、髪もほとんど残っておらず、見分けがつかない程血で赤くなり、皮膚が黒くなっている者の正体に、唯一耳や尾が付いておらず人間である事に、エルトだと気づくシエル。

拳を握り、エルトをじっと見つめる。


エルト:「……ェル……さ……ん」


シエル:「……」


エルト:「す……ぃ……せ……ん……まも……れ……」


焼き焦げた状態にも関わらず意識が残っているエルト。

掠れた声で、光を失った目からは涙を零していた。


エルト:「ごめ……な……ぃ……まも……ぇ……なか……だ……」


空から雨が優しく降り始める。


シオン達は目の前の余りの無慈悲な光景に言葉が出ず、じっと涙を流しながらエルトを見つめる。


アルフォス:「なんで……なんでこうなった……誰が……誰がこんな真似……」


エルト:「だぃ……じ……ん……」


シエル:「……!?……大臣」


エルト:「……は……ぃ……やつ……が……」


シエル:「もういい……もうゆっくり眠ってくれ……エルト」


エルト:「あり……が……と…ざ…ぃ……す……」


雨に濡れるシエル、濡れた髪で顔は見えず、雨の雫が涙のように頬をつたう。


シエル:「すまない……」


ダガーでエルトの首を斬り、歯を食いしばる。


シエル: ーアイル達は……アイル達はどこに……!?ー


村を探し回りアイル達を探すシエル達、しかし更に絶望がシエル達の前に現れる。


地下へと繋がる扉の前で殺される寸前まで守っていたのであろうレイグが倒れていた。

そして地下で隠れていたのか、それでも見つかってしまったアイル達。

剣が三人に刺されそのまま放置されていた……。


シエル:「……っっ……ぐ……」


シオン:「……」


マキシス:「クソっ……たれ……クソったれえええ!!!!」


デイン:「……」


レイン:「何のために……戦ったんだよ……何のために……守ったんだよ……俺達が……なにしたってんだよ……」


ノルン:「アイル君……ミーシ……ァちゃん……ヘレナちゃん……ぅ……ゥ……」


シエル:「ゆる……さ……ない……」


シオン:ー!?ー


シオン:「シエル……、シエル……!?」


ッッッッッッ…………


一瞬にして姿を消すシエル。

それと同時に信じられない程強力な殺気がシオン達を襲い、皆が意識を失いかける。


デイン:「……はぁ……はぁ……あの殺気……」


マキシス:「息が……出来ねぇ……シエ……ル……あいつ……」


アルフォス:「誰も……止められねぇぞ……あんなシエル……見たことねぇ」


シオン:「いか……なきゃ……」


ノルン:「シオン!!!」


シオン:「な゛にしてるの゛゛!!シエルを……追わなきゃ゛!!」


涙を流し、苦しい感情に倒れそうになるシオン、それでもシエルを追うと、仲間たちに強く訴える。


デイン:「急ぐぞ!!」


━━━━━━━━━ロンブルク城内……。


門が開かれたまま、外には誰も立っておらず静まり返った城内……。


濡れたブーツがぐちゃぐちゃと音を響かせる。


玉座へと続く床が血で汚れ、中へと続いていた。


ぎィィィィ……ッン……


奥にある玉座に座り込んでいるロンディネル。

ゆっくり、ゆっくりと近づく……。


玉座に腹部を剣で刺され、身動き出来ず口元から血を吹き出した様子のロンディネル。


ロンディネル:「シエル……どうして……戻ってきたのです……っ……後は……お任せくだ……さい…と……言ったじゃないですか……んぐっ……」


シエル:「誰だ……ロンディネル……誰がやった……」


ロンディネル:「……」


突然背後に気配を感じ、腰のダガーに手を伸ばす。


ベリアルト:「ンククク……なぜ……戻ってきたのです。愚かな……わざわざ殺されに来てくれたのですか?」


シエル:「お前がやったのか……」


ベリアルト:「えぇ、その通りです。全て私と"リオル教皇"が計画した事。あの錬金術師はただの陽動の為の道具に過ぎません……。

貴方達はそれにまんまと引っかかってくれた。ンククク!イヤァあ〜イヤァあぁ!素晴らしい!!本当に貴方達は馬鹿でどうしようも無い存在だ……。


いかがでしたか…?生命を懸けて救ったものが無様に死に行く光景は…!

貴方たちの負け……完全な!完璧な敗北なのです!んハハハハハ!!!!

ロンディネル王、貴方も実にマヌケだ、魔法国の王である者がこんなちんけな呪文にかかってしまうのだから、貴方には私を忘れる呪文も使ったのです、城内で私を見たものは皆地下で殺させたのでね。貴方は私の手で殺めてやりたかったのですよンククク」


ベリアルトの背後からぞろぞろと現れる白いローブを着た集団に囲まれるシエル。


ベリアルト:「さぁそろそろお終いにしませんと」


シエル:「……」


ベリアルト:「貴方にはもう死んで貰わないといけません……ここに貴方の手配書があります。貴方の存在は私達"教団"にとって邪魔なのですよ、ここから逃げて生き残ったとしても、貴方は全世界から追われ指名手配の重罪人として処刑されるのです。

どういう意味かわかりますかな?すでに各国各大陸中に手配書が配られているのです。

逃げても無駄……無駄無駄無駄……わかりますかな?ンククク」


シエル:「……お前がやったんだな」


ベリアルト:「おっと、どうやら言葉が通じていないようです。殺ってしまいなさい」


シエルに襲いかかる白いローブの者たち。

しかしたった一瞬……彼らには意識が時に置いていかれた……そう思えるほどの速さで赤い閃光が視界に映り、次の瞬間にはこの世に魂は残されていなかった。


ベリアルトにはそれがまるで時が止まっているように見え、ハッと気づいた瞬間、王の間の窓が全部割れ、

ローブの者達の首や四肢が目の前に散らばっている状況に理解が追いつかない。


ベリアルト:「な、なんだ……なにが起き……」


シエル:「……冥界で待ってろ……もう一度、何度も殺してやる」


ベリアルト:「ヒィィ!!!んぐっ!!」


背後のシエルに気づき、腕を噛みちぎるベリアルト、

魔獣化の呪文を唱え、足元に黒い陣が現れる。

しかしシエルは一歩も動かず魔獣化するベリアルトを見つめていた。


ベリアルト:「んクククク!!!おまエハ……コゴデシヌノダァァ!!!」


シエル:「……」


魔獣化し、シエルに攻撃しようとするベリアルト……、しかし体がビクともせず、ある違和感に気づく。


ベリアルト:「……?!……ナゼ……ワタシノカラダガ……ソンナ……トコ……ニィ」


グバチャァァッッッッッッ!!


既に首は斬られ、体が形を残さない程に斬られていた。


シエル:「……」


王の間に外から雨が降り注ぐ。


ロンディネル:「シエル……こちらへ……ッ……」


シエル:「ロンディネル……」


ロンディネル:「これを……お渡し……します」


シエル:ー……?ー


ロンディネルが渡してきたペンダント、そこには謎の少女と思わしき名が書かれた紙が入っていた。


シエル:「これは……」


ロンディネル:「私の……妹……です……サミシュ……ティアにいるはずなのです……どうかそれを……渡して下さい……」


シエル:「わかった。わかったよロンディネル……」


ロンディネル:「貴方に交わした約束……守れず……申し訳……ありません……」


涙を流すロンディネル、少しずつ意識が遠のいていた……。


ロンディネル:「わたしは……この国を……まもれなかった……んぐっ……ぐず……どうか……死なないで……下さい……シエル……この世界の……みらいを……すくってくだ……ぃ……シエルたち……と……ともだちに……なれて……うれしかっ……た……」


ロンディネルの瞳から光が無くなったのを感じ、瞳を閉じさせ、手を握るシエル。


シエル:「約束だ……必ず……おやすみ……ロンロン……」


シエル:ーどうして……どうして……こんなにも辛いのに……俺の瞳からは……涙が一滴も流れないんだ…………!!!ー


シエル:「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ゛゛゛!!!!!」


シオン:「……シエル……」


アルフォス:「遅かったか……ロンディネルまで……!!」


レイン:「クソォォォォォ゛゛!!!!」


デイン:「クッ…………!!」


ノルン:「……」


ロンブルク魔法王国はこの日……多くの兵と王を失い、民達は白いローブの集団にアサシンの仕業だと知らされ、アサシンを強く恨むようになってしまう……。


そしてその日、雨がロンブルク周辺に降り続け、災いの雨と呼ばれたのだった……。



【絶望への旅立ち】へ続く……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る