第11話 絶望にいざなった虚言者(スピーカー)

 クローバーは、通信を切った後、通信機をブラックドラゴンに掛けたカバンにしまう。

 空は雲一つなく、満月が良く見える深夜。

 そんな時間に、クローバーはドラゴンに乗り、空を飛ぶ。


「なーにが「スペードは細身の男性」よ。あいつだって、ちんちくりんのくせに。」


 クローバーはぶつぶつ文句を言いながら、自分のお腹を軽くつまむ。

 ぱっと見では、膨れていないお腹の肉は、簡単につまむことができ、彼女はため息をつく。


「あー。やめやめ。ダイヤのやつを探さなきゃ。」


 クローバーは空から下を確認する。

 下には木々が生い茂っていた。

 そこに、青色の塊がみえた。


「ん?あれは?」


 クローバーは、その青色の塊がある場所へと降りていく。


「こいつは… スライム?」


 クローバーはドラゴンから降り、青色の塊をまじまじと見る。

 塊は木に寄りかかって、そのまま液状化したようになっていた。


「スライムと言えば、あの、人に化けたスライムならダイヤの居場所知ってるかもしれないわね。」


 クローバーは、塊を蹴りながら言う。


「おい!スライム!ダイヤのヤツ知らねぇーか?おーい!聞いてんのか?」


 しかし、塊からは返事がなかった。


「はぁ。なーんかボロボロだったし、怪我でもしてんのかな。」


 クローバーはドラゴンにかけてあるカバンから、片手で持てるぐらいの小さなラッパを取り出し、それを吹く。

 すると、闇夜に溶け込むような濃い紫色の体と、悪魔のように、鋭く赤い目を持つ梟。ナイトメアバードが彼女の肩に乗る。

 クローバーが、梟に指示をすると、梟はリチュに、風の魔法を使う。

 風の魔法を受けたリチュの体は、みるみるうちに怪我が消えていった。


「んん?寝ていましたか…。」


 リチュが元の、人型の姿に戻りながら言う。

 クローバーは、目を覚ましたリチュに向かって小さく手を上げる。


「よっ!」


「あら?貴方は私を罠にハメたピエロさんじゃないですか。」


 リチュは、クローバーを見て、笑顔を作る。


「罠にハメた相手に笑顔を見せるなんて、特殊な性格ね。

 まぁ、いいや。アンタ、ダイヤがどこに行ったか知らない?ほら。あの、口元に黄色い化粧をしていて、黄色い付け鼻ををしたでぶっちょ。」


 彼女の質問に、リチュは笑顔のまま答える。


「ああ。ダイヤさんですか。あの人は死にました。私が殺しましたよ。」


 リチュの思いがけない言葉に、苦笑いをするクローバー。


「は、はぁ⁉ なにふざけたこと言ってんの?アタイら悪魔が、アンタみたいな雑魚スライムに殺されるわけないじゃない。」


「ふざけたことなんて言ってませんよ。私が、彼の頭を燃やして灰にしましたから。」


 リチュの声に、冗談を言っていないと感じ、クローバーは焦る。


「(燃やされて、灰になった?そんな状況でも数分で再生できる。そんなの何回も試した。けど、ダイヤからの連絡は来ない…。それって。もしかして…。)」


「…けるな。」


 クローバーは下を向いたまま、小さな声でつぶやく。


「はい!? 何ですか?」


 リチュの問いに、叫ぶクローバー。


「ダイヤを殺しただと!ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」


「急に叫ばないでくださいよ。」


 耳を塞ぐ仕草をするリチュに、クローバーはさらに腹を立てる。


「ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!あいつをかみ砕け!!」


 クローバーの命令を聞いて、ブラックドラゴンは咆哮を上げ、リチュを噛み付こうとする。


「そんな見え見えの攻撃。当たるわけないでしょう。」


 リチュは、ドラゴンの噛み付きを避ける。


「思い通り!」


 しかし、リチュは、クローバーがいつのまにか持っていた鞭によって捕まってしまった。

 クローバーは、リチュを引き寄せる。


「クローバーがぁ!捕まえてぇ!アタイがぁ!蹴り飛ばしぃ!鞭で捕らえて!まだ入るぅ!」


 クローバーは、自身の攻撃を実況する。

 そして、彼女は、引き寄せたリチュに膝蹴りと肘打ちをする。

 さらに、彼女は、リチュを蹴り上げながらバク宙をする。


「アタイがぁ!蹴り上げてぇ!クローバーがぁぁぁぁ!決めたぁぁぁぁぁぁ!!」


 最後に、彼女は、自身の真上に蹴り上げたリチュを、鞭で弾く。

 リチュは、木々を2本半貫通するほど飛ばされてしまった。

 クローバーは、両拳を軽く上げ、叫ぶ。


「よっしゃぁ!アタイ、さいっっっっっっっきょ!」


 しかし…


「騒がしい人ですね。」


 リチュは、何事もなかったかのように立ち上がる。

 その光景に、クローバーは驚く。


「馬鹿な!? アタイの攻撃が効かない!?」


 驚いたクローバーに、リチュが笑顔で答える。


「私に打撃は効きません。貴方の武器では、私を攻撃できないのでは?」


 リチュが、左手をクローバーに向ける。


「『氷の槍アイススピア』!」


 氷柱が3つ。クローバーに向かって飛ぶ。

 クローバーが叫ぶ。


「ノワール・トルネード・グレーティストオメガ!! あれを溶かせ!!」


 命令を受けたドラゴンは、口から炎を吐き、『氷の槍アイススピア』を溶かす。


「やりますね。その…、えーと…。ノワトルさん。」


 クローバーが、リチュの言葉に地団駄を踏む。


「略すな、雑魚スライム!ノワール・トルネード・グレーティストオメガだって言ってるでしょ!」


 クローバーが、腰に引っかけてたラッパを取りだし、それを吹く。


「『猛獣使いのクローバー』の力。見せてやるからな!」

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