第3話 【大喜利企画】5000文字以内で、異能バトルものを書いてください(条件あり)に参加

タイトル「最強のボディーガード」  ジャンル アクションバトル



大きな赤い満月が、ギラギラと輝いている。


皆既月食で高まっていく異能の力があたりに吹き荒れ、鬱蒼と茂っていた森だった場所は、今となっては更地だ。


「ははは!お前もなかなかやるな!」


背後に巨大な炎の巨人を従え、悠々と空に浮かび遥か下を見下ろす、まだあどけない少年が不敵に笑った。その笑みは年端もいかない少年とは思えないほど、愉悦に歪み切っている。嫌な笑いだ。目はどこか遠くを見ているようで、どこにも焦点があっていない。明らかに、少年は正気を失っていた。


「……だが、その生意気さは気に食わん!」


少年が手をすっと振り下ろしたのが合図だ。炎の巨人は突如暴れだし、業火をあたりにまき散らす。森だった場所が更地になったのは、この巨人の攻撃が悉く炎を纏っており、あたりを全て燃やし尽くしたからだ。


「くっ……頼みますから、正気に戻ってください!私があなたを攻撃する前に!」


その少年を地面から見上げ、巨人の攻撃をかわし続ける美女が一人。二メートルはあろうかという、女性にしては随分と高い背丈を持つその人は、切羽詰まった声で少年に呼びかけ続ける。彼女の体力は無限ではない。疲れ果て、力尽きた末にしか彼女の異能は目覚めない。その異能を、彼女はあまり使いたくないらしかった。


「ふははは、戯言を!お前もとっとと力を使え!そのために、この小生意気な坊主の体を乗っ取ったのだから!」


「このっ……!!!!」


「ふん、体力も尽きたか。さて……お前の異能、見せてもらうぞ!」


とうとう気力も体力も使い果たし、美女がぱたりと地面に倒れる。美女はそのあとすぐに、ふらりと立ち上がった。しかし、その瞳は眠るように閉じられていて、まるで夢遊病の患者のようなありさまだった。


「ほう……意識がなくとも起き上がるか。さて、どんな力なのかっ!!!????」


遥か上空に浮かぶ少年の体を乗っ取ったを、不可視の刃が貫いた。借り物の肉体に収まっている何者かの精神そのものが、刃によって攻撃されたのだ。感じるはずのない痛みにうろたえながらも、は空中で体制を立て直し、すぐさま炎の巨人をけしかけた。


美女は相変わらず、幽鬼のように力なく佇むばかり。先ほどまで俊敏に動き回り、巨人の攻撃をかわし続けていた人物とはまるで違う。その動きの鈍さに勝利を確信したは、あどけない少年の顔に下卑た笑みを浮かべた。


「ふん、裏世界でも最強と名高いがゆえに、その力を奪いに来たというのに。拍子抜けだな、痛みを与えるだけの、拷問とも呼べぬ馬鹿らしい能力とは。」


期待外れだと肩をすくめ、もはや見る価値もないと背を向けた、巨人の手の平の真下。そこに確かにいたはずの彼女は、忽然と姿を消していた。


「私が、負けるとでも?」


その静かな声がを気にしなかったことが、にとっての最悪のミスだった。上空に浮かんでいた少年の体は、とんでもない力で抱き寄せられ、軽い衝撃と共に地面に着地した。その声と共に、ずるりと引っ張られる感触と、耐えがたい激痛がを襲う。


少年の背後、背中に張り付くように、美女が真顔でそこにいた。


ずるり、と少年の体から引きずり出されたは、半透明に透ける自身の体を見て驚愕した。それもそのはず、は今、自身の能力により精神体となり、幽体離脱のような形でこの場所に存在していたのだ。つまり、いかなる人間であろうと素手で精神体に触れることはできないはず。


それができるということは、そして、今の自分に痛みを与えられるということは。


「まさか……」


「そう、私の能力は、精神に直接触れられる、だ。私が意識を失った時、私の敵だと認識している人間が近くにいれば、私はそいつの精神を体から引きずり出し、直接いたぶることができる。」


「ひっ……まさか、その能力は、だけのはずだ!」


「はは、そんなルール、いったい誰に聞いたんだ。私は確かに一族の血縁ではないが、少々特殊な伝手があってね。冥途の土産に教えてやろう。発動条件は、私が意識を失い、素手で対象に触れること。……これを聞かせる意味が、貴様にはよくわかるだろう……?」


怯え切ったの予想を裏付けるが如く、美女は妖艶に微笑んで優しく言う。能力の詳細が漏れること、それすなわち死に繋がるこの世界で、詳細な異能の発動条件や、異能の効力を教えられるということは。


それを、聞いたということは。


信頼の証か、死刑宣告。


今回の場合は、誰がどう見ても後者だ。


「た、頼む!口外しない、もうお前の前に二度と現れない、この力も使わないで、裏社会から足を洗う!だから、どうか、」


「ふん、それこそ戯言だな、たわけ。」


必死の命乞いも虚しく、精神体となっていたは美女の手によって頭部を握りつぶされ、声もなく絶命した。今頃、本当の体の方は二度と目覚めない廃人になっているだろう。


「ん……私は……はっ、また能力を!?」


地面で少年の体を抱いたまま、唐突に意識を取り戻した美女はあわてて腕の中の少年の顔をのぞき込む。その顔には、先ほどまでの歳に似合わない悪役じみた笑みはない。ただ、穏やかで健やかな寝顔をさらしているだけだ。


赤く照らされる、少年の白い頬を、美女はそっと手で包んだ。


「起きてくださいませ。」


「んん、あれ、おはよう、僕の最愛バトラー。何があったの?なんだかものすごく、僕の従者イフリートが怒っているんだけど……」


「話せば長いのです。貴方様が受け継いだ力を悪用し、あまつさえ私の能力まで奪いに来た輩の襲撃に対処しておりました。貴方様の意識を乗っ取られ、あまつさえ従者を明け渡してしまうなど、言語道断。従者が怒るのも、当然であろうかと。」


「ん、わかったよ。従者イフリートには僕の方から言っておくさ。それより、けがはない?綺麗な顔にも体にも、傷が残るような無茶はしてないだろうね?」


「ええ、私の体には傷一つございません。あの日、貴方様に拾っていただき、この身を捧げると決めたその日から、私の全ては御身の仰せのままに。」


「うん、イイ子だね。さすが最強と名高い僕の最愛バトラーだ。僕があげた力も、うまく使いこなしたみたいだし。」


「お褒めに預かり光栄です。貴方様と血の契約を交わしたその日から、私の一部となったこの力。制御にはまだ慣れませんが、引き出した後の操作にはだいぶ慣れました。これからも精進してまいります。」


「うん、頑張ってね、応援してるよ。ふあ……意識のないまま力を使うの、すごく疲れた。今日は久々に、あなたが作ったパンケーキがいいな。いつもより、メープルシロップを多くかけて食べたいよ。」


「承知いたしました。帰ってすぐに、手配いたします。」


和やかに会話を交わし、赤い月を背に、美女は少年を横抱きにしたままゆっくりと森を後にした。焦土となった森の跡地と対照的に、彼女の体には傷一つない。


そしてあまりに白く滑らかな肌は美しいが、ところどころに鱗のような文様が見え隠れしている。少年を心底愛おしそうに見つめる目には、今夜の月のように紅く、縦に伸びた瞳孔が輝いていた。


その人外じみた美しい容貌こそ、少年マスターの為ならばどこまでも強くなれる最強ドラゴニュートであることの証明だった。


ーーー


本編はこれで完結だけど、書けなかった細かい諸事情をどうぞ!


設定(名前はいいのが思いつかなかったのでつけてない、すみません)


少年 代々精神操作と精神の拷問に特化した異能を受け継ぐ財閥の一人息子。本人は優しく、人を傷つける行為が苦手なので、美女と異能を交換した。美女のことは、寂しがり屋で甘えんぼだと思っている(なお、少年はまだ小学生、美女は四ケタオーバーの年齢の模様)。お菓子も料理も上手、めちゃんこ強いし可愛いし、自分にだけデレる彼女がかわいくて仕方がない。絶対将来結婚するって決めてるし、少年の方も意外と愛が重いのでお似合いな二人。従者イフリートは美女の異能で、フルオートで動くように(美女が)作ってる。少年は命令出すだけで攻撃できるぞ!まだちっちゃい子に、難しい力の操作とか大変だからね!


美女 近年数を減らしてきた人外(人間じゃない上位種の総称)の一人。長い年月を一人で生きていて、ドラゴニュートなので炎系の能力は大体使える。ある時寂しすぎて自棄を起こして暴れていたときに、自分を(精神的に)鎮めに来た少年にガチの一目ぼれ。めっちゃ初恋。今は乙女をエンジョイ中。自分を長い孤独から救ってくれた少年のことが大好きだし、将来結婚してくれなかったら大暴れする気しかない。本当の姿はドラゴンで、体長20メートルオーバーだけど、今は人間の姿なので十分の一スケールになってるよ、可愛いね!おしゃれもお料理もお裁縫もできちゃう万能。


血の契約 自分と相手の異能を交換する唯一の方法。呼び方はいろいろあるけど、二人の血を混ぜてお互いに飲んで、そのあと相手の血を飲みあうことが多いので「血の契約」というのが一般的。成功すると二人の力が完全に入れ替わるけど、ちょっとでもどちらかの異能が強いとうまくいかないこともある、超ハイリスクハイリターンな方法。少年の親は財閥の現当主で息子大好きだけど、ドラゴニュートのお願いの圧には耐え切れず、しぶしぶこれをやる許可を出すしかなかった。美女の方は少年に酷いことをする気がこれっぽっちもないし、長い人生経験で成功するのがわかりきっていたので渋られたことを少し根に持っている。ちなみに少年は、炎の巨人とか作れるっていうのがかっこよくて気に入ってる。みんなハッピー!


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