第8話 勇者
『ようこそ勇者カリス。
早速ですが、勇者のあなたには近い将来魔王軍討伐の旅に出てもらいます。
パーティーメンバーはこちらで調整させて頂きます。パーティーメンバーが決まり次第、指定された場所に来てください。よろしいですね?』
『あ、あの…僕は本当に勇者なんですか?運動神経だって良くないし、頭だって良くない。それなのに勇者だなんて…いまだに信じられなくて』
『もちろん勇者ですよ。神託の石が間違うことはありません。それと、今後はステータスを見たいと思えばいつでも確認できます』
『そ、そうですか…』
『他に何か質問はありますか?なければパーティーメンバーが決定次第連絡致しますので、自宅で過ごし、しばしの間お待ちください』
『あ、えっと…』
不安だらけで、聞きたい気持ちはあるが、考えがまとまらない。
『何かありますか?』
『いや、大丈夫です』
そう答えるしかなかった。
『ではまた。そちらの扉から外に出られますよ』
そう言われ、僕は扉から外に出た。
そこにはジュラとビニアが立っていた。
『ほらね。絶対に同じ所から出てくると思ったのよ!!』
『カリスくん、どうだった?』
『待っててくれたんだね』
『同じ馬車に乗った縁だもの。気になっちゃってね。で、どうだったの?なんの戦闘職と神託を受けたの?』
『実感が沸かないし、なんか言いにくいな。
先に2人の神託の結果を教えてよ』
『ビニアは魔法使い、私は僧侶だったわ。僧侶ということで教会に入るか、冒険者としてやっていくかを聞かれて、冒険者を選んだの』
『え?わざわざ危険な道を選んだの?』
『そうね。私の中でもビニアはきっと戦闘職で、同じ道を進むだろうなっていう気がしたんだろうね。だから、迷いはなかったわ』
『そっか。ジュラは強いね。神託を受けた今でも逃げたくて仕方ない僕とは大違いだ。
本当に間違いなんじゃないかと今でも思うけど、僕は【勇者】と神託を受けたんだ』
『『え!!??』』
『勇者だなんてすごいじゃない!!』
『自分以外なら僕もそう思えたんだろうね。
でも…僕が勇者だなんて。
能力に見合ってないよ』
『私だって、僧侶とは思ってなかったし、大した信仰心もない私がどうして?って気持ちはあるよ。でもね、受け入れていくしかないじゃない?自分の運命から逃れることはできないんだから』
『まぁさ、出ちゃったもんは何を言っても仕方ないじゃん?まずは家に帰って、お母さんのあったかいスープでも飲みなよ!!』
『そうね。カリスくん、帰りも方向は同じだしもしかしたら同じ馬車かも。馬車乗り場まで一緒にどう?』
『いや、僕は少し観光してから帰るよ』
『そっかぁ…それじゃあ私たちは行くね』
『うん』
そう言って手を振りながら2人は去っていく。
観光なんて言ったけど、本当は観光なんてする気分になれない。
ただ、この後もし同じ馬車になったらと考えたら…
1人になりたかった。
せめて家に帰るまでに1人になって考える時間が欲しかった。
考えたところで望む答えはみつからないことを知りながら…
そしてどこに行くわけでもなく、日が落ちるまで町を歩いて過ごした僕は、最終の馬車に乗り家に帰ったのだった。
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