第2話:拠り所

「今日より、第二王子の側仕えを務めさせていただきます、ネムイです」


我ながら見事なカーテンシーを披露し、先輩方に深々と頭を下げる。反応は……………顔を上げなくてもわかる。戸惑い、妬み、怒りの針が刺さってくる。


「申し訳ないのですが、普段のお仕事を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え、えぇ、一つ一つ教えるわ」


ふう、この調子では第二王子を守ることすらままならないな。


「私たちの仕事は簡単。着替え、湯浴み、身の回りの管理、清掃、食事出しに一つ加えて、お尋ねになってこられたお客様全員を、第二殿下に報告すること」

「かしこまりました、それが留守の時の対応、ですね?」

「いえ、殿下が部屋にいる時も、よ」

「???」


思わずクエスチョンマークを浮かべ、顔を傾げると、苦笑いしたような表情で、


「私もよくわからないのよ、殿下の考えることは」

「はえぇ」






◇◇◇◇◇






「ふぅ」


やること自体は変わらないな。掃除以外のことは全て他の侍女たちがやってくれる。


突き刺さる怨恨の針から、恐らく『私の狙っている男に近づかないで!!』ということだろう。王宮の侍女のほとんどが貴族令嬢、ワンチャンの玉の輿を狙っているのか、それともアイドルのような立ち位置なのか、女の考えることは前世男の俺にはわからない。


「こんなとこか」


あとは今日中に報告書を書いて提出するだけ—————?


ふわっと香る、甘くもスンと通る匂いに顔を上げてしまう。そこにいるのは紫を体に纏ったやんごとなき血筋の人。


顔立ちはいい、前世のアイドルに比べても引けを取らないほど。キュッと結ばれた形のいい唇から、拒絶の心を感じる。俺の心が女であったら嬌声をあげているだろうな、と冷め切った目で見つめ返す。


———でもなんだろう。


「失礼しました、本日付で殿下の側仕えをさせていただいています、ネムイと申します」


———針が刺さらない、むしろくすぐったい。


「……………」

「………? どうかされました?」


……………おかしい、先ほどから互いに顔を見ているのに、一向に


不意に、視線が移る。


(……………髪を見ているのか?)


たしかにこっちの地方では珍しいカラス色たが、そんなに気になるものだろうか。


「………失礼します、職務が仕えておりますので」




「—————ネムイ」


低くハスキーでいて、よく通る声が俺の名前を呼ぶ。


「はい? なんでしょうか?」


やべ、今のちゃんと敬語だったか?


「覚えた、ネムイ」

「……………はあ」


そこで、肌を撫でる感情の形が少し変わった。


拠り所を見つけたような、安心したような。その意味を、俺はこれから知ることになる。

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