第53話 両思い
「先輩」
「何?」
「そういえばちゃんと言ってなかったですね」
「何を?」
真は歩いていた足を止めて立ち止まった。 そして真凜の顔をしっかりと見つめる。
「柏木くん?」
「僕……先輩が好きです。ずっと、出逢ったあの時から好きでした」
「柏木くん……」
真凜の顔から思わず笑顔がこぼれる。
「……あの、先輩の気持ちも聞いて良いですか?」
「うん! 私も、柏木くんが好き」
真凜は照れながら真に告げた。
「良かった……」
真は安心したように微笑む。
「僕と付き合ってもらえますか?」
「うん。よろしくお願いします」
「真凜さんって呼んで良いですか?」
「うん、良いよ。私は真くんって呼んでも良いかな?」
「はい、もちろんです」
「これから改めてよろしくね、真くん」
「はい、こちらこそ。真凜さん」
真凜が微笑みながら言うと真ははにかむように微笑んだ。
* * *
秋の文化祭当日。演劇部は舞台に立っていた。
場面は最後のシーン。マリアとエドワーズが式典であったあの場面だ。
「……父上の用意した娘と結婚することになった。君以外の人と結婚するなら心なんて捧げる気はない。心は永遠にマリアのものだ。……だが、次期国王として国をおろそかには出来ない。だから、君に恥じない立派な国王になるよ」
「エドワーズ様……私もです。貴方以外の男性など興味ありません!他の男性などお断りです!エドワーズ様。愛しています」
「私もだ。マリア、君を……君だけを……愛してる」
2人はもう一度最後に抱きしめ合い、約束の言葉を交わす。
「約束しよう。もし、生まれ変わりがあるのなら……いつか生まれ変わったら……その時は必ず……必ず! 逢いに行くから!」
舞台はそこで幕を下ろした。
会場は静寂に包まれ誰かのすすり泣く声が微かに聞こえる。次の瞬間、耳が痛くなる程の割れんばかりの拍手に包まれた。
真凜の家族や真の家族も見に来てくれて、笑顔と共に拍手を送ってくれている。
役者は皆表に出て部長の合図で「ありがとうございました」と全員でお辞儀をした。
主演の真凜と真は2人で手を繋いでお辞儀をしていた。舞台は大成功を収めた。
部室に戻った皆は喜びを分かち合う。真と真凜は隣同士で会話をしていた。そこへ、さやかが近づいて来た。
「真凜先輩、柏木くん」
「さやかちゃん」
さやかの目は舞台に感動したのか少し赤くなっている。
「舞台、凄く良かったです! 急に台本変えるなんて言い出した時はどうなるかと思いましたけど……でも、あの結末で正解ですよ!
だって、もともとの結末は悲惨じゃないですか? この結末も悲しいは悲しいですけど、生まれ変わった後の未来に希望がありますよ!」
さやかは興奮しながら2人に話す。
「ありがとう、さやかちゃん」
「いいえ。それから……」
そう言うとさやかは声を少しだけ潜める。
「何?」
真凜が近づくと内緒話をするように話した。
「先輩の演技凄く良かったですし、柏木くんと先輩見てたら本当にエドワーズとマリアを見てるみたいで……悔しいですけど凄くお似合いでやっぱり私じゃ叶わいないなぁ……って思いました。だから、絶対幸せになって下さいね。柏木くんを不幸にしたら許しませんから!」
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