第49話 式典の日

「ん……」


 真凜は重い瞼を開けると、ミミが傍に控えていた。


「あ……」


――また来たのね。


「お目覚めですか?」


「ええ」


「今日は……エドワーズ様の婚約式典があります」


「ええ……」


「エドワーズ様に会えますが……行きたくありませんよね?」


 確かに見たくはない。自分以外の女性と形だけの結婚とはいえ、並んでいる姿なんて。


「ええ。でも、今日しかないのよね?」


「はい、今日が恐らく最後のチャンスです」


「それなら行くわ。後悔したくないもの」


「そうおっしゃると思いました」


 ミミはマリアに柔らかな笑みを向ける。


「さ、朝食に致しましょう」


 マリアは朝食を済ませると新しいドレスに身を包み、ミミと一緒に式典会場へ向かった。



* * *



 空は澄んだ青色が眩しい。マリアは馬車に乗りながら空を見あげた。


「お嬢様」


「何?」


「刺繍入りのハンカチ、きっと喜ばれますよ」


 マリアを安心させようとしているのか、ミミは優しく声をかけてきた。


「ええ。私もそう思うわ」


「気持ちの良い風ですね」


「ええ」


 だんだん城へ近づいて来る。城の近くの会場へ着くと沢山の人がすでに集まっていた。


「到着しました、お待ち下さい」


 ミミに言われ待っていると、ジャクソンがやって来た。まだ式典が始まるまでにはしばらく時間がある。


「マリア様、お久しぶりでございます」


「ジャクソンさん、お久しぶりです」


 2人は互いに深々とお辞儀をする。


「マリア様、あちらにエドワーズ様がいらっしゃいますので、ご案内致します」


 ジャクソンがそう告げ動き出そうとした時、遠くからマリアの名を呼ぶ声が聞こえた。


「マリア!」


 ずっと聞きたかった愛しいエドワーズの声。はるか遠くに見えるエドワーズはマリアに向かい、人混みをかき分け走って来る。


「エドワーズ様!」


 マリアは思わず駆け出し、2人は手の届く距離まで近づくと、しっかりと抱きしめあった。


 周りの好奇の目、声など2人には耳に入らない。近くからジャクソンが声をかける。


「エドワーズ様、沢山の人がお2人を見てますよ」


「構わない……会いたかった! マリア!」


 マリアを力一杯抱きしめたまま、エドワーズは返事をする。


「エドワーズ様……私もお会いしたかったです!」


「……エドワーズ様。申し訳ありませんが、こちらは目立ちます。移動しましょう」


 ジャクソンはエドワーズに再び声をかける。しぶしぶエドワーズはマリアを離し、2人は少し移動した。


 森林の中に小さな木造の小屋がある。


「どうぞ、こちらをお使い下さい」


「ここは?」


「私の秘密の小屋です」

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