Interlude 幕間
4
真っ暗闇の中、顔にジトっと湿った空気が撫でる。そのお陰か、妙に熱った身体が気持ち良く感じる。しかし、背中だけはやけに熱かった。何故なのかと思いながらふと目を見開いてみると、自身が仰向けに倒れているのが分かった。
「うーん…」と唸りながらも、ゆっくりと立ち上がる。すると突如、左肩に激痛が走った。思わず顔を歪めながら、左肩を押さえずにはいられなかった。
暫くの間、痛みが和らぐのを待っていると、目の前に例の能面の子供が居る事に気付く。
子供は飲食店の中おり、口元だけが見えるように能面を被りながら、一人でハンバーガーを頬張っていた。普通のサイズのはずなのに、やけに大きく見えるのは、きっと小さな子供が持っているという錯覚なのだろう。
結局、左肩の痛みが引くことは無かった。激痛に耐えながらも、一人飲食店に入って子供の近くまで寄った。すると、
「もうこっちに来たんだ。今回は随分と早かったね」
まだ認識出来るはずがないのに、子供は自身が近寄って来た事を認識した。少し驚きつつも、今までのこの子供の行動を考えれば、不思議でもなんでもなかった。
仕方なく、子供とは対面の席に座る。すると、子供が直ぐに異変に気付いた。
「あなた、左肩どうしたの?」
(分からない。さっき起きたら急に激痛が)
子供はハンバーガーを一口齧る。口にソースを付けながらもぐもぐと咀嚼するその姿は、少し愛らしく思えてしまった。
よく見ると、子供の前には他にもハンバーガーが数種類置かれていた。どれも知っている店のハンバーガーのはずなのに、今はその店名すら思い出せない。
「もしかして、おなか減ってるの?……食べる?」
店名を思い出そうとハンバーガーを見ていたのだが、それを腹が減ったと勘違いする子供。前回の最後と比べて、かなり子供っぽいというか優しくなったと感じた。
(いや、今はあまり減ってないんだ。ありがとう)
「そう……」
子供が少し寂しそうにする。しかし、今の自身は全くと言っていい程、腹が減ってないのだ。少し、変な感覚であった……。
暫く互いは何も話さず、ただただ子供がハンバーガーを食す時間を過ごした。
フッと時間の感覚が無くなり、気が付くと子供の前にあったハンバーガーが全て無くなっていた。一体何が起こったのかと考えていると、目の前にいる子供がしっかりと能面を被っている事に気付く。
(も、もう食べたのかい?)
「とっくの疾うに食べ終わっている。もう彼此、三十分はこうしているぞ」
(三十分!?)
驚きを隠せず、無意識に叫んでいた。勿論、声は音として伝わっていない為、他の人には気付かれていない。
「さ、グズグズしている暇は無いよ」
(あ、ちょっと待ってくれ!)
子供に無理やり腕を引っ張られ、思わず転びそうになる。その時、再び違和感を感じた。
左肩の激痛が治っているのだ。
飲食店を後にし、二人は前回と同じ方向に再び歩き始めた。歩いている途中、少し違和感を感じた。ふと上空を見上げた時、その違和感の正体が判明した。
夜が深くなっているのだ。前回よりも、より黒く染まっている事に気付いたのだ。それはこの世界に時間という概念がしっかりと働いている事を示していた。
暫く歩いていると、右側に再び橋が現れた。しかしその橋は前回とは違い、より横幅が広い橋であった。もしかして、この橋を渡るのだろうかと思った矢先、急に子供がその場に立ち止まった。
(ど、どうしたの……?)
恐る恐る子供に聞いてみると、いきなり子供が自身の方を向いた。そして、ズンズンと顔を寄せて来た。
「あなた、この橋に見覚えある?」
子供の口調には何処か威圧感があった。見覚えがある、か……。もう一度、その橋を観察してみると、特に前回の橋と大きく違う部分は無かった。しかし、細かい事を言うのであれば、橋の出入り口に左右違う金色の小さめなオブジェが飾られていた。
(うーん、分からない。見覚えは、無いと思う)
「そう、それなら良いわ」
子供の言葉は少し嬉しそうだと思った。一体、何故?疑問は増えるばかりであった。
「それじゃ、これから渡るわよ。付いて来なさい」
そう言って、再び子供が自身の手を強く握って、橋へと歩き始めた。やはり小さいながらも、その力はとても強かった。
橋の中腹に来た頃、突如身体に異変が起きた。幻聴が聴こえるのだ。二人の子供達がこの橋でワイワイと騒いでいるのだ。男の子と、女の子。この二人は?
思わず立ち止まってしまった。すると、前を先導する子供が後ろに引っ張られてしまい、尻餅をついてしまった。
「いってて……突然、どうしたのよ!」
突然止まって尻餅をついてしまった子供が怒っている。しかし、そんな事よりも重要な事である。一体、この声は、幻聴は?
「……!あなた、もしかして!?」
誰かが驚いている声が聞こえる。しかし、もう届かない。色んな子供の声が乱雑に聞こえてくるのだ。頭の中でグルグルと渦を巻き、次第にその中に巻き込まれて行く。もう頭が破裂しそうだ……!
(うわあああぁぁぁ!!!)
渦巻く声に耐えきれず、自身の持つ全力で声を張った。すると、急に糸が切れたかのようにフッと身体に力が抜けた。そして、地面の中へと吸い込まれる感覚に陥る。
最後に見たのは、子供が能面を取った姿であった。しかし、やはり思い出せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます