最強魔王の推し活裏覇業
団 田 図
第1話 推しに捧ぐ、最期のオタ芸
最高に輝く彼女たちへ、今の俺ができること。それは、魂を削り、生命を燃やして全力の『オタ芸』を打つことのみ。
これは、今まで何をやってもダメで、うだつの上がらない灰色の人生を送っていた俺が、初めて自分を肯定し、生きていることの素晴らしさを教えてくれた彼女たちへの、魂の恩返しなのだ。
この身が朽ちるまで、いや、朽ち果てようとも、我が人生の全てを――推しに捧げる!!
「ウーーッ! オイ! オイ! オイ! オイ!
あー、よっしゃいくぞー!
ヨーイヨイ! ヨーイヨイ!
チントンシャン! チントンシャン! ヨーイヨイ!!」
腹の底から絞り出した咆哮が、熱狂の渦に溶けていく。
新人アイドルの登竜門とも称される、『
重厚なヘヴィメタルのリフに、情熱的なルンバのリズムが絡み合う唯一無二の世界観。
フリルとスタッズが混在した衣装を身にまとい、激しくも優雅に舞う5人組のアイドルグループは、今まさに東海地方から全国へと羽ばたこうとしていた。
2年前、観客など誰もいない寒空の下の路上ライブで彼女たちを見かけたときから、俺の時計は動き出したのだ。雨の日も風の日も、彼女たちを支え続けてきたあの日々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
俺は今、彼女たちのウイニングランならぬウイニングソングに合わせ、両手に持った高輝度サイリウムを振り回していた。
視界が滲む。
泣くな、俺! まだ泣くんじゃない!!
ここはゴールじゃない。そうだ、ここはスタート地点なんだ!
今日この場所から、『メータルンバ』の伝説が始まるんだぁー!!!!!!!
全身全霊を込めたロマンス技へ移行しようとした、その時だった。
ブチッ!!
楽曲が最高潮のサビに達し、会場のボルテージが頂点を極めた瞬間、不吉な破断音がすべてを切り裂いた。
歓声すらかき消すほどの異質な音が、会場全体に響き渡る。
反射的に音がした天井を見上げた俺の目に飛び込んできたのは、スローモーションのような絶望だった。
照明を吊るしていた巨大な鉄骨のワイヤーが切れ、重力に引かれるまま、凶器となって落下してくる。
その落下地点は――俺たちの真上。
「あぶない!!」
喉が裂けんばかりに叫び、周囲へ警告を発する。
蜘蛛の子を散らすようにファンたちが逃げ惑う中、俺のすぐ横にいた小さな男の子だけが、恐怖に足をすくませ、縫い留められたように立ち尽くしていた。
見開かれた瞳には、迫りくる鉄の塊が映っている。
間に合わないか――?
いや、間に合わせるんだ!
俺の体は思考よりも速く動いていた。
両手に握りしめた極太のサイリウム。俺は今、オタ芸の動作における遠心力が最大になる瞬間にいた。
日々鍛え上げたこのキレと反動は、ただ踊るためだけのものじゃない。今、この命を救うためにあるんだ!
「ぬおぉぉぉぉっ!!」
俺は回転の勢いをそのまま殺さず、全身をバネにして男の子へ体当たりをした。
突き飛ばされた子供の体が、落下地点のサークルから外へと弾き出されるのが見えた。
直後。
俺の視界は、暗く、重い衝撃に閉ざされた。
激痛は一瞬。やがて感覚が遠のいていく。
薄れゆく意識の中で、俺は不思議と安堵していた。
あの子は助かっただろうか。
彼女たちの晴れ舞台に、水を差してしまったことだけが心残りだが……まあいい。
俺の人生の最期が、推しのライブ中だなんて、オタク冥利に尽きるじゃないか。
そして俺は、深い闇へと落ちていった。
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