第28話 真実を知るまで、もう少し

 詩桜が偽りの星巫女だと張り紙が出され数日。


「本当に、河合さんとはなにもないんだよな。ただの、友達なんだよな?」


 屋上で一人、星翔村を一望していると、月嶋に声を掛けられた。最近月嶋は、しつこいぐらいこの前のことを確認してくる。


「他に、どんな関係だっていうの?」


「いや、そうだよな。いくらなんでも、さすがにあれはおれの誤解か。あはは」


「なんの誤解をしたの?」


「な、なんでもない。ゴホンッ、でさ、真面目な話なんだけど……河合さんに、なにも確かめないままだね」


 あれから遥は、特に詩桜と距離を置くことなく接してくれているけど、お互いにどこかぎこちなさが残っている。


「真実を知るのが怖い?」


「……怖い。わたしは、弱虫かな」


「どうだろう」


 月嶋は、困った顔をして微笑を浮かべた。


 不思議な人だ。敵なのか味方なのかも謎のまま、こうして彼と過ごす時間も日常となってきている。


(この人は、どこまで知っているんだろう。遥ちゃんが蓮美さんかもしれないことは、知らないはず……だけど)


 考えることは山積みなのだが、頭は上手く働いてくれなくて、口を押さえ大きな欠伸がでた。


「ごめんなさい、最近寝不足で」


「夜の仕事をしすぎだよ。職務を蔑ろにしろとは言いわないけどさ、春宮の霊力だって無限に湧き出るものじゃないんだから、もっと休息の日を増やさなきゃ」


「最近はますます凶鬼の事件が多いようだから、少しでも役に立ちたくて……あら? なんで、わたしが夜のお仕事をしていたことを、知っているの?」


「えっ、いや、それは……あれだよ、おれの冴え渡る勘の賜物、みたいな。とにかく……少しは、自分の身体も労わってあげてよ!」


「う、うん……心配してくれて、ありがとう」


 遥が星巫女になったら、自分は……魔の化身として始末されるだろう。


 今度は陽菜の時のようにはならない。


 その想いが真実を確かめる心を曇らせていた。


 もう少し、もう少しだけ……このままで。皆と、一緒に過ごしていたいから。






「きゃっ、ごめんなさい。怪我はありませんか?」


 休み時間。ぼんやり歩いていた詩桜は、向かいから走って来た人とぶつかってしまった。


「ごめんね~。あたしこそ、急いでたから」


 顔をあげると、ツインテールの元気がよさそうな女子が謝ってくれた。

 胸元のリボンが詩桜と同じ赤色だったので、二年生のようだ。


「あら? 春宮さんだ!」

「そ、そうですけど」


 突然名前を呼ばれ身構えてしまった。


「近くで見ると、ますます可愛いね」

「え?」


 突然褒められ詩桜は戸惑う。


「あ、ごめんごめん。いきなり馴れ馴れしかったかな、あたし」


「そんなこと、ないですけど」


(ビックリはしたかも……)


「同い年なんだから、敬語とか使わないでよ~、他人行儀」


「そ、そっか。わかった」


「うんうん。ずっと、話しかけたいなって思ってたんだ」


「わ、わたしに?」


「そうだよ。なんかさ、色々、噂が一人歩きしてるみたいだけど、伝えたかったの……応援してるよって」


「応援? わたしのことを?」


「だから、そうだってば。あたしもね、春宮さんと同じだから」


 同じと言われなんのことかと思ったが、彼女は、にこっと微笑み詩桜の耳元に唇を寄せ秘密を教えてくれた。


「あたしは人間だけど、吸血鬼の彼と付き合ってるんだ」


「そうなの?」


「うん、そうなの。彼は、春宮さんと同じクラスだよ。中岡くんって言ってね、あまり目立つタイプじゃないんだけど、優しくってあたしにとっては最高に素敵な人」


 照れながらポリポリと頬を掻く彼女の表情が、なんだか可愛らしくて幸せそうで、詩桜まで自然と表情が和らいだ。


「だから、あなたと白波瀬くんのこと応援してる。最近は、妖し風のせいで種族の違う恋なんて~みたいな空気だけどさ。好きになっちゃったら仕方ないじゃんね。星巫女とか偽者とか、あたしにはよくわかんないけど、立場なんて関係ないよ」


「あ、ありがとう」


 自分と灯真は恋人同士ではないのだけれど、彼女の言葉が嬉しくて詩桜の胸が温かくなる。


 その時、予鈴が鳴り響いた。


「じゃあ、またね。春宮ちゃん!」


 と、廊下に響く大声を残し、彼女は、ひまわりみたいな笑顔で走り去った。


 ぽつり。廊下に取り残された詩桜は、授業のことなどすっかり頭から抜け落ちてしまった。


 また、会えるだろうか。名前ぐらい聞いておけばよかった。

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