日陰者転生者の青春計画
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 一週間も休めば立派なボッチ
久しぶり過ぎてこんな感じで良かったのか全く記憶にございませんがひとまず新作です。なるべく毎日更新頑張りますが、出来なかったらご容赦を。
――――――――――
俺――
平凡な人生を過ごし、社畜として毎日働き、信号無視をして突っ込んできたトラックに轢かれる直前までの記憶だ。
意識が途切れたかと思えば、俺は既に赤ん坊として生を受けた後だった。
転生なんてファンタジーじみた現象に巻き込まれるのは完全な想定外。
夢かとも疑ったが、何日経っても覚めることなく続く生活に「これは現実なんだ」と納得させられてしまった。
それから生きること十五年。
妙に聞き分けのいい子どもとして育てられた俺も中学を卒業。
精神年齢の違いからか周りにはあまり馴染めない日陰者として生きてきた。
けれど、それも終わり。
この春から薔薇色の高校生活が始まる……はず、だったのだが。
■
「……まあ、一週間も休めば立派なボッチだよなぁ」
何事も起こらず、誰とも話すことなく授業を終えた放課後。
クラスメイトはそれぞれの放課後を過ごすべく教室を後にしていく。
もう部活が決まっている人もいれば、まだ決めあぐねている人、帰宅部の道を進む人など様々だろう。
だが、ボッチと呼ぶべき人間は滅多にいない。
少なくともうちのクラスには俺以外いないように見えた。
一人で教室を出ていく人はいるけど、入学後の一週間で仲を深めた友人へ挨拶くらいはしていく。
俺のように誰とも話さず一日を終える新入生は珍しいと思う。
中学からの友達はいないのかって?
一応、二人ほど保育園からの腐れ縁がいないこともないけれど、どっちも別のクラスだった。
退院祝いすらないなんて薄情なやつらである。
それはともかく、どうして俺が一週間も休んだのか。
理由は突然の盲腸である。
入学式の朝、とんでもない痛みに襲われのたうち回ることすらできなかった俺は家族が呼んだ救急車ですぐに搬送された。
そして盲腸と診断を受け、一週間の入院を余儀なくされたのだ。
不幸中の幸いは盲腸の中では比較的軽傷だったことか。
酷いと手術が必要だと聞いたけど、俺はそこまでじゃなかったからな。
そんなわけで入学直後の貴重な一週間を病室で過ごした俺には、クラスメイトとの親睦を深める時間などあるはずもなく。
「……別にいいけどさ、別に」
不貞腐れてなどいない。
本当だぞ?
第一、俺の精神年齢は前世も合わせれば50歳前後……学校でボッチだからと言って病むほど弱くはないのだよ。
……。
…………。
………………。
嘘ですごめんなさいちょっと心細いです。
精神年齢でボッチの高校生活が潤うと思ってんのか??
そもそも身体の年齢に思考とかも引っ張られている節はあるし。
それより、高校生活の方針を考え直さなければ。
出だしは大滑り。
修正をかけるにしても俺の貧弱なコミュ力では難しい。
……ボッチ確定、ってコト!?
ふざけたことを言ってるわけではなく、かなり濃厚な線だ。
社会はそんなに甘くない。
チャンスは自分で掴まなければ生き残れない。
そのチャンスを掴むためには自分から行動することが求められる。
しかし――前世の記憶があるせいか「まあ俺は大人だしな」と斜に構えた精神性で生きてきた俺は、まともに友達作りを出来た試しがない。
変な遠慮というか、距離感を掴めずに踏み込めないのである。
高校ではなんとか友達を作り、薔薇色といかないまでも楽しい高校生活を送ろうと画策していたのに現実はこれ。
理想とのギャップで風邪を引きそうだ。
盲腸にはなったけどな!!
……面白くはないか、これ。
「とりあえず部活見学でも行ってみるか。知り合いくらいは出来るかもしれないし」
俺が入学した清永館大学付属高校は、名前の通り大学付属の私立高校。
元々は滑り止めのつもりだったのだが入試で存外に高得点を出して補助金が出る特待生枠に入ったようで、公立高校に通うより学費が安くなったため進学を決めた。
前世の分の積み重ねがあるから勉強だけはそれなりに出来る。
学費を払ってもらう両親にも楽をさせられるとあれば是非はない。
そうして選んだ清永館だが、学業だけでなく部活動も盛んに行われている。
運動部では野球やサッカーのようにメジャーなものは当然として、弓道やホッケー、柔道剣道相撲……この辺までは結構あると思うが、ラクロスみたいな決してメジャーとは言えないスポーツにもそれなりに部員がいる。
文化部は吹奏楽部や合唱部、文芸部などが人気らしい。
他にもEスポーツ同好会やら漫研やらが群雄割拠しているとか。
ちなみに部活動への所属は任意。
また、申請を出す必要もなくアルバイトも許可されている。
自由な校風なのは私立高校だからか……なんにせよ生徒的には嬉しい限りだ。
そんなわけでかなり広い校舎内を回り、部活の様子を眺めて回ったのだが――
「運動部はやめておこう。俺には屋内が合ってる」
生まれつきの引きこもり体質くんが「外出たくない!」って叫んでたんだよ。
こればっかりは仕方ないよな。
適度な運動は受け入れるけど、自分からはやるほどの気力はないし。
早めに気づけて良かった。
てことで現在、文化部と同好会や研究会がひしめく部活棟の中を散策中。
掲げられた数々の部活のネームプレートを眺めつつ、様子を見てみようかとドアに手をかけるまではいくのだが、どうにも開ける勇気が出てこない。
そんなことを繰り返しているうちに結構深くまで来てしまった。
時刻は五時過ぎ。
想像よりも時間が経っていたらしい。
「そろそろ帰るか。電車も混むし」
高校になって電車通学に変わったので、なるべく混んでいる時間は避けたい。
今ならまだ座って帰れるだろう。
まともに部活見学を出来ていない現実から目を逸らしつつ、今日は区切りをつけて帰路に着こうと回れ右をして――
――ガラガラガラガッシャーンッ!!
――ひゃっ!?
今しがた背を向けた側の部屋から何かが崩れたような音と、女性の声と思しき悲鳴が聞こえた。
音に釣られて振り返り、その部屋に掲げられていたプレートが目に入る。
『オカルト研究会』――多種多様な部活動ないし研究会が立ち並ぶここでも、ややアングラな内容を扱う名だ。
そこから聞こえた明らかに何かが起きたと思われる音と、悲鳴。
「……流石に様子を確認した方がいい、よな」
何が起こったのかわからないが、事故……棚が倒れて下敷きになったとかだったら助けないと一大事だろう。
何事もなければそれでいい。
事故はいつどこで起こるかわからず、被害に遭った前世の記憶が放っておけないと思わせたのかもしれない。
意を決して扉を開けて、部屋の中へ。
「大丈夫です、か…………え」
俺が目にしたのは、横倒しになった長テーブルとパイプ椅子、そして――足を開きながら仰向けで倒れていた女子生徒。
顔は見えないが、ミルクティのような甘い色味の長髪が床を覆うように広がっていた。
状況を見るに近くの棚に届かないからと椅子を足場にしていたけど、体勢を崩して転んだってところだろう。
ところで……そんな場合じゃないとわかってるんだけども、黒のレースとは随分と大人びた物を穿いていらっしゃいますね?
……ああいや、そうじゃなくて。
手を貸すべきか迷っていた俺より先に、彼女が「うぅ」と僅かに呻きながら身を起こし、初めて彼女の顔……可愛らしくも気だるげな印象を帯びた造形のそれを目にした。
思わず目を奪われていた俺と、彼女の瞳が交わる。
「……きみ、誰?」
「えと、その、梶谷柊斗です。一年生。崩れるみたいな音がしたから何があったのかと思って」
これほど可愛らしい少女と関わった経験が薄いせいか、答えないという選択肢がいつの間にか頭から抜けていた。
俺の言葉を聞いた彼女は一瞬視線を上げて考える素振りを見せた後に、思い当たる節がなかったのか不思議そうに小首を傾げる。
「私は大丈夫」
片手を上げてひらひらと振り、やっとのことで立ち上がる。
立ち姿は気まぐれな猫のよう。
身長は俺よりも頭一つ分くらいは低く、小柄だ。
そんな彼女がスカートの端を軽く払い、一息ついて向き直る。
「
……なるほどわからん。
わからんが、変人と関わってしまったことだけは確からしい。
―――
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なお、タイトルの青春計画に《アオハルプロジェクト》とルビを振ろうとしてやめたのは内緒。
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