25 §20§の小箱
§
「魔女、わたしだ!」
昼までの仕事が一区切りついたのか、王子は魔女にあてがわれた王城の別館の部屋へやって来た。
どんどんと、微妙に
扉に鍵はついていない。どうにも魔女に開けさせたいらしい。
「ハイ
魔女は、昨日のアドベントカレンダーの小箱から出てきた、銀色ふさふさ
「うわ!」
王子が腰を抜かさんばかりに、うしろへすっ飛んだ。
「うひひひっひひ」
してやったりと、魔女は品のない笑い方をしてしまった。
「……」
数秒で事態を飲み込んだ王子は、乱れた金髪をかき上げると、青い瞳に
だが、
「魔女」
王子は、魔女に聞こえるぐらいの小声を出した。
「それ、何だ」
「§19§の小箱に入っていました。えっと、さっき開けたんですけどね」
「だから、何だ」
「雪山に住むという
自立した毛むくじゃらのぬいぐるみは、パントマイムのような仕草で、腰をかがめて、そばにいる者に何かを聞くような動作をした。
「あ。王子の仕草を真似てますよ」
「え?」
王子が、ぎくっと肩をいからせると、毛むくじゃらのぬいぐるみも、ぎくっという仕草をした。
「不敬なっ」
王子は思い切り右腕をふりあげて、毛むくじゃらのぬいぐるみに殴りかかろうとした。同じく、ぬいぐるみも右腕を振り上げ、王子に襲いかかった。
しばらく、王子とぬいぐるみは、ぼこと殴れば、すこと殴り返す動作を繰り返した。
「はいはい。魔女さま、もうわたしたちで§20§の小箱を開けましょうか」
いつの間にか部屋に来た女官が、これ見よがしに王子に聞こえるように話しかけて来た。
効果てきめん、ぴたりと王子は不毛な争いをやめ、「私とだ」と、魔女ににじり寄った。
「だけど、もう、ぺったんこだからねー」
魔女はエコバックから§20§の小箱を出してきた。
王子が、ひしゃげた
「やっぱり、おいしい空気が入ってたんだと思う」
「何か説明書きを入れておかないと、不発だと思われるぞ」
「そうだね。来年は説明書きを入れよう」
王子の助言に、魔女は素直にうなずいた。
「あらあら、仲良しさんですね。ふふっ。それでは、お邪魔虫は退散いたしますわ」
女官は
「おい。こいつを連れて行けよ」
王子が、ぬいぐるみを指さすと王子は、その毛むくじゃらのぬいぐるみに指さされた。
「魔女! やめさせろっ」
王子は本気で切れかけた。
「私の術ではないんですよ、これ」
魔女も正直、困ってしまった。
「さっき、扉を開けたとき、王子の波動と、この、ぬいさん(ぬいぐるみさん)の波動が合っちゃったのかなぁ。どうにもわからないところです。理屈ではないので。
「ヌイサン、そんな目で見つめるな」
王子は魔女が、ぬいぐるみさんという意味で、『ぬいさん』と言ったのを、名前とカンちがいした。
「王子が見るから、見てるんですよ」
魔女の言葉に、「そうか」と、王子は、そっぽを向いた。ヌイサンも、同じ動作をした。
「ぶっ」
思わず、魔女は吹き出した。
「王子、お散歩に行きましょう。ヌイサンを連れて」
「いやだ。こいつは、私の真似をするだろう?」
「いやがっても、ヌイサンは王子についていくと思いますよ。これ、
魔女の言う通りに、王子は部屋の外へ出てみた。ヌイサンは、王子について行った。
「ほらねっ」
魔女のしたり顔に、王子は、げっそりとした。
「どうするんだ、これ……」
「王子はっ。品行方正な王子はっ、真似されても恥じるところ、あるはずはござい……ません……でひょ」
魔女は、こらえきれず笑い出した。
「爆笑してるし、
王子は、むかっ腹がたって魔女の右腕をつかんだ。
「行くぞ」
王子は魔女とヌイサンを連れて、別館の回廊を歩いた。本館の回廊につながる場所で、宰相が向こうから来るのが見えた。
宰相は回廊の脇へ
魔女は宰相の前を通り過ぎるとき、ぺこりとお辞儀した。
宰相は、ふくらんだ長袖の中から小さな薄布の袋を取り出して、ゆすって見せた。きらきらと輝いた気がしたから、あれはたぶん、アドベントカレンダーから出現した水晶、地上の星だ。
(このたびは、よき年の暮れの贈りものをありがとう)
(いえいえ、これからもご
宰相と魔女は互いの
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