VSドール

 ――かわいそうだった。


 ドールにはダークエッジであっさり倒され、次の戦いにはマーシャに倒され、かなり落ち込んだ様子で戻ってきた4人目の代表が。


 ドールはそもそも悪魔が混じってグリーンラインを突破しているから魔力強度が桁違いであるし、マーシャは戦士として別格と考えていいだろう。


 今年の代表のレベルがおかしいのだ。


 見てて哀れに思ってしまうほどだった。


「まぁその……なんだ、あまり気を落とすな」


 控室で代表の男子生徒に話しかけてしまうくらいには。


「そうは言ってもこんなに負けて……みんなに顔向けできない」

「……その責任感があるのなら立派な代表だ。ほら、他がおかしいのだ。生徒としてきちんと代表をしているという点ではお前が1番だ」


 睨まれる。


「君も、マーシャさんに勝ったよね」

「……あー、ほらメイザース家だぞ? 正直学園に関係ないところで代表に選ばれた人間と、生徒としてきちんと代表になった人間では正当性がまた違うと思わないか?」


 無言で睨まれ続ける。言葉が続かなくて目をそらした。

 やがて相手の方がため息を吐く。


「……リオ・メイザースだっけ。気に食わないやつだと思ったけど意外と良いやつだな」


 それは勘違いだと思うが。

 少しは落ちついたらしい。男子生徒は追い払うように手を振った。


「ほら残りの最終戦があるだろ。行った行った」




 ◇




 闘技場でドールと向かい合う。


「リオくん」

「なんだ」

「その、さっきが意外とあっさりだったから慣れてないというか。お手柔らかにしてほしいというか……」


 ドールは観客席を見渡す。どうやら緊張しているようだった。


「ドールさんの魔力強度なら全員あっさり勝ててもおかしくはない」


 交流戦において生徒のハイレベルさなど求められてはいない。


「今年は教師側の誤算が多そうだな。マーシャに、ドールさんに」

「リオくんもね……というかマーシャさんは呼び捨てなんだ」

「何か気になるか?」

「仲良いのかなって」


 マーシャ本人に聞かせたら怒りそうだな。


「アイツが呼び捨てにしてきたから同じように返しているだけだ。良好とは言い難い」


 ムカつく存在らしいしな。


「……私も呼び捨てがいいな、なんて」


 乾いた笑みを浮かべながら、ぼそりと言われる。


「うん? ドールと呼んだほうがいいのか?」

「はひっ!?」


 呼び捨てにしてみると、顔を赤くして驚かれた。


「……呼び方変えないほうが良さそうだな」

「そのうち。そのうちお願いします……」


 ドールは縮こまる。何とも緊張感のない空気だ。


「それではエクテスクラスのドール・リューエルと、ノルンクラスのリオ・メイザースの交流戦を開始します」


 審判が手を挙げる。

 ドールは身を固くした。


「はじめ!」


 ドールはすっとオレに細い指を向ける。


「ダークエッジ」


 黒い帯が襲いかかる。オレは構えもせず、魔法名を口にした。


「ダークエッジ」


 同じ魔法だ。


 黒い帯がぶつかり合い、金属の擦れるような音が響く。そして闇に呑まれるように互いに削れ、魔法が消滅した。


「リオくんも使えるの?」

「まぁ使いやすいほうだしな。それでアドバイスだが、屈んだほうがいいぞ」


 右手を振るう。大気魔力を集めて発動したウィンドカッターをドールに飛ばした。


「え」


 ドールはそれに対処するわけでもなく、唖然とする。


 早すぎたか?


「え、えい!」


 ドールはギリギリになって慌てて両手を前に出す。


 魔法壁が展開され、ウィンドカッターを防ぐ。


 防御魔法──ではない結界だ。


「ま、間に合った……」

「防御魔法ではないのだな」

「結界の方が攻撃しやすいって、エクテス先生が」


 り、理解が浅い……。

 ドールとマーシャと当たっていたら、マーシャが勝っていたのではないか?


 まぁでもそうだな。魔力強度が高いだけで中身は戦闘経験の浅い女子生徒だからな。


 魂を消費した悪魔も当たり前のように魔法を使っていただけで理論までは把握してない類だったのだろう。


 様子を見ていると、ドールは手のひらの先に黒い球体を作り出した。


 となるとアレか。


「──グレイ、アームズ」


 形成された黒い球体からアームズが飛び出してくる。


 9本。以前の3本とは比べ物にならない。それがムチのようにしなり、オレに向かってくる。


「リクワイタル」


 風でアームズを誘導し、絡ませる。9本全てまとめると、一気に押し出した。


 射出されたアームズは黒い球体にぶつかり、弾ける。


 その衝撃が強かったのかドールの結界まで砕け散った。


「え……」

「グレイアームズ」


 隙だらけのドールにグレイアームズを放つ。


 オレのは1本だ。


 数は脅威だが、強度と精度を保てないのであれば数を増やしても意味がない。


 今はスピードも重要だったためにこうした。加えてグレイアームズというドール特有とも言える魔法名を口にすれば動揺を誘える。


 狙い通り、ドールは何もできない。


 ドールの身を守るのがドールの魔力強度に応じたものであればトドメにはならないが、勝敗の判定を下すのは所詮身代わりとなるアイテムだ。効果さえ発動させてしまえばこちらのものだ。


「そこまで!」


 ドールの首飾りが砕ける。


「勝者リオ・メイザース!」


 勝者が告げられると同時に歓声が上がった。


「……負けた」


 実感がわかない様子で、ドールが呟く。


「不思議か」


 ドールは頷いた。


「リオくん、グリーンライン突破してたり」

「いいや。今の魔法は全てイエローラインだ」


 魔力強度のライン毎の差は数倍はある。


「ドールさんの敗因は多くあるがどれも理解不足だ」


 指を一本立てる。


「咄嗟の防御に結界は向いていない。結界としての強度をしっかり保つようにするには構築が重要になる。そうなれば時間をかけて魔力を練って発動させたほうがいい。あれは明らかに短すぎる」


 あの場でやるなら防御魔法だ。実際強度不足であっさり壊れたしな。


「グレイアームズの本数が増えたこと。これは単純に脅威が増えたように思えるが、1本1本に割く魔力量が減っている可能性がある。本数が増えたのだからコントロールが当然難しくなる。解決方法としては魔力量にものを言わせてコントロールさせない動きをするか、問題ないくらいに慣らすかだ」


 どちらもしないからリクワイタルにあっさり丸めこまれた。


「リクワイタルで御しやすい形になったおかげで一箇所にグレイアームズをまとめて砲弾として利用できた。オレの魔力強度ではなく、ドールさんの魔力強度の魔法で攻撃できた、ということは結界も破壊できる」


 さっき結界を破壊したのは偶然ではなく意図的だ。


「オレは1日中イエローラインをキープできる。ドールさんはグリーンラインをいつまでキープできる?」

「え? えと……わからない。さすがに1日中は無理なんじゃないかな」

「魔力の容量を把握せず、最高値だけ知っている。要は不安定だ。オレはいつまでも同じ出力で魔法を行使できる。そして上げられるが、ドールさんはいつまでも同じ出力で魔法を撃てない。撃つ魔法でもばらつきが出る」


 差が数倍といっても、それが絶望的になるのはそれ活かしきった相手に限る。上級悪魔のように冷静さを欠いたり、魔法構成力が低ければ穴をつけるし、ドールのようにそもそも経験が浅ければ利用する手もある。


 戦闘において当たり前の話だ。


「魔力強度は戦闘力ではない。勉強になったか?」


 オレの言葉に、ドールはんだ。


「やっぱりリオくんは凄いね」


 こうして、クラス交流戦は終わったのだった。

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