基礎

 テストもパーティーも無事終え、学園での1日が始まることになった。


 用意された教室に入り、割り当てられた席に座る。教室内を確認するが、マーシャもドールもいない。


 全員が席につき、しばらくすると鐘が鳴る。時間を知らせるものだ。扉を開けて、教壇に女性が立つ。カバンを足元に置き、生徒を見渡す。


 本を片手に持った、上品な女性だった。


「みなさーん。入学おめでとうございます。このクラスを担当するノルンといいます。受け持つ授業は魔法学。専門は大気魔法になります。よろしくお願いしますね」


 大気魔法。

 ほう。


 大気魔法というのは空気中の魔力を操って発動する魔法のことだ。扱いは難しいが、人間側の英雄でこの大気魔法に秀でた者がいた。


 極めれば魔力が尽きることはない。何せこの場に溢れているものを消費するのだからな。取り入れて己の魔力に変換されるまで待たなくとも良い。


 悪魔は己の魔力を扱うという感覚が強い。大気魔法の使い手はいなかったはずだ。そして、弱体化したオレが力の不足を補える手段でもある。


 学びたかったもののひとつだ。担当教員が専門家とは、実に運がいい。


「はい、皆さんまずは自己紹介しましょう。あとは好きなものとか〜、興味のあることとか。そちらの方から順番にお願いしまーす」


 にこやかに自己紹介を促す先生。生徒もそれに従って自己紹介をしていく。

 オレも適当に自己紹介を済ませた。


「はい、皆さん。ありがとうございます。では今後のこのクラスの方針についてお話します」


 後ろの黒板にさらさらと文字を書いていく。


「選択科目はだいたい二学期から始まります。一学期は基礎講義と、選択できる科目に関する知識を学ぶ補助的な講義を受けてもらいます。夏休みまでに選択科目の希望を出し、先生と相談をしながら受ける科目を決定、二学期はから午前中は基礎講義、午後は選択科目を中心に受けていくわけです」


 図も含めて説明がなされていく。


「1年のうち大きなイベントがいくつかあります。まずは一学期、クラス交流戦ですね。クラス代表を決めて、その人に試合をしてもらいます。まぁほとんどは観戦を楽しむことになるのですが、代表が勝ったらクラス全員評価点が入るので、応援してあげてくださいね」


 ふむ。

 そういうことならクラスで強い人間が被らないようになっているのか。テストで評価して戦闘向きの上位者はなるべくバラけさせる。


 道理で、マーシャもドールもいないわけだ。となれば交流戦で戦うことになるかもしれないのか。


「さて、まずは代表のやる気がある人を確認しましょうか。代表は交流戦だけではなく先生の手伝いを頼むこともあるかもしれません。責任感がある人に務めてほしいですね」


 つまり、ついでに大気魔法について話を聞ける可能性もあると。メリットしかないな。


「では代表に興味ある人」


 何人かが手を挙げる。貴族の学園だ。責任感のあるやつはいる。


 オレも手を挙げた。


「はいはい、名前をメモしていきますね。代表を決めるのは2ヶ月後なので、気が変わったら言ってくださいね。希望でも辞退でも」


 ひとまずの目標は代表になること、だな。

 単純な戦闘力だけ求められるのなら、問題なくなれるだろう。




 ◇




 あれからひと月経った。オレはまとまって訪れた休みを利用して、ダンジョン攻略に来ていた。


「――それで、学園は楽しい?」


 目の前で魔物討伐を終えたディアナが聞いてくる。現在、ディアナのダンジョン攻略のサポーターをしているところだ。


「基礎だけだから退屈なこともあるが、悪くないぞ」

「なら良かった。ところで、さ」

「なんだ」

「これ、必要なのかな」


 ディアナはずっとウルフスピリットを発動していた。ダンジョン攻略中、常に、だ。強くなってもらうためにオレが提案した。


「必要だ。常時バフをかけていられるというのは大きなアドバンテージだからな。無論オレもできるぞ」

「リオ、そういうの常識はずれっていうんだよ」


 呆れた顔で見られる。


「Aランクが常識の範疇に収まる存在だと?」

「……ガンバリマス」


 項垂れながらも魔物から素材を採取し、とぼとぼ先へ進んでいく。


 魔法を使い続ければ魔力が枯渇するという至極当然の問題があるが、そうなればオレの方で補充する。魔力の質を似せた恩恵だ。


 鍛えさせているのは1日中魔力を扱う感覚と容量を把握した上での強度調整だ。


 オレも戦いたいが、Aランクなので下手に手は出せない。休みの期間的にも上のランクでも問題なく攻略できるようになることはないだろう。


「そういえばディアナ」

「なに」

「防御魔法と結界魔法の違いはわかるか」


 聞いてみると、ディアナは首を振った。


「わかんないよ」

「一時的に強固な防御を展開するのが防御魔法。役割を終えるまで展開が続くのが結界魔法だ。防御魔法は維持し続けるには術者が魔力を消費し続けなければならない。だが、結界は1回発動してしまえばしばらくは放っておいても機能する」

「それって全部結界じゃだめなの」

「結界は構築するのに時間がかかる。今ディアナがオレに攻撃しようとした場合、結界魔法で防ごうとすると間に合わない」


 結界の効果は絶大だが、構築に気を使わければならない。構造が雑であれば、以前オレがやったように解析して破るという方法が取れる。


「だが防御魔法なら間に合う。戦闘において速度は重要だろう」

「うん。それって授業で習ったの?」


 ディアナの疑問に、オレは首を振った。


「いいや? 元から知ってるが」

「リオって学園通う必要あるの? もう下手な魔法使いよりも詳しいじゃん」

「あるぞ。大気魔法は知らないからな」

「へぇ、リオでも知らない魔法があるんだ」


 悪魔のときに使っていたり、メイザース家で知識を得られたものは使えるが、それ以外は難しかったり知らないことも多い。

 学園は学びの宝庫だ。


「それで話を戻すが、防御魔法は一定の方向に対して強い効果を発揮することが多い。多いのは前方だな。だから側面や後ろから攻撃すれば防御を穿つこともできる」


 オレがテストでやったことも、複数の攻撃を側面から浴びせる、だ。真正面からヒビを入れてみせたマーシャのように一撃が見た目ほど強力だったわけではない。


「結界は全方位ある程度硬い。完成してしまえば厄介なことこの上ないな」

「結界はどう破るの」

「ゴリ押しか、結界を維持している条件を崩して機能停止させる、などだな。ディアナは防御魔法を使う敵に遭遇することもあるだろうから言っておく。防御魔法を使われたら回り込んで攻撃しろ」

「わかった」

「ちなみにオレは今荷物を守るのに防御魔法を常時発動している」


 オレの言葉に、ディアナは乾いた笑いで返した。


「リオ〜、さっきまでの話をいきなり覆すような使い方してるのよくないと思うよ」

「魔法の扱いは繊細さが大事だからな。こういうところで鍛えておかないともったいない」

「リオがどんどん遠くの存在になりそう……」

「ならないように鍛えてやる。期待してるぞ」

「うぅ、スパルタ……がんばります」


 うんざりしたような顔のディアナを眺めつつ、久々のダンジョン探索を楽しむことができた。

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