撤退

 ボスフィールドに入る。ボス戦をやっていた冒険者が誰か確認してみると、庇われている冒険者には見覚えがあった。


「誰かと思ったらこの間の勧誘組か。どうだ? オレを後悔させられそうか?」


 軽く皮肉を言って横を通り過ぎる。そしてギノスと共に悪魔の正面に立った。

 相手の悪魔の方は結界が破れたことが意外だったのか、魔法を解除していた。


 馬鹿め。完成させている魔法があるのならイレギュラーな相手に先手を取るべきだ。


「貴様か、我の結界を破ったのは」

「あぁ。実に脆く、構成の雑な結界だった」


 魔力強度は明らかに今のオレよりも上だが、魔法の構成そのものが雑だ。維持している術であれば構成を見て、脆い部分から破壊できる。直接攻撃なら破れる手段はないかもしれないが、解析をかけて分解すれば別だ。


 どれだけ固くとも、木材という性質であれば燃えやすいように、露骨に弱点がわかる構成にしているあの悪魔が悪い。


「リオくん、君はいったいどこまで」

「疑問はあとだ。結界は破壊したし、撤退が最善手だと思うが」


 ギノスに目を向ける。ギノスは頷いた。


「行くぞ!」


 ギノスが走り出す。それにつられて勧誘してきたふたりも逃げていった。


「逃がすと思うか」


 悪魔が魔力の塊を投げてくる。足止めでもいい、最速で撃てると、スローマを選択したらしかった。


「スローマ」


 悪魔のスローマに己のものをぶつけて相殺する。


「……何?」

「魔力強度にものを言わせたスローマだな。オレの妹のほうがマシなスローマを撃てるぞ」


 魔力強度と魔法構成精度は別だ。人間のほうが魔法構成に優れていることはこっちに現界して理解した。


 圧倒的な魔力強度を持ってしても、なぜ悪魔が人間に倒されるのか。それは単純な数の問題ではない。


 武器、魔法構成力、戦略。人間が作り上げてきた知恵だ。


「リオ! リオも!」


 ディアナが扉の外で叫ぶ。が、オレはボスフィールドを動かなかった。


「どちらにせよ時間稼ぎは必要だ。任せてもらおう」

「それじゃ、リオが死んじゃうよ」

「構わない。この程度の悪魔に負けるなら死んでもいい」


 悪魔を指差しながら断言する。


「なっ、我を。上級の悪魔を、この程度だと!? 人間風情がァ……」

「下級だろうが上級だろうが下っ端レッサーだ。この雑な魔法構成では上にも行けまい」

「なんだと」


 悪魔が怒りに身を震わせる。


「リオくん、敵を挑発してどうするんだ!?」

「リオ! 逃げようよ!」


 オレは笑う。


「──確かに、それぞれの役割がこなせないほど困難な敵、状況であれば撤退だとは言った。が、オレの話だ。安全策を取るなら時間稼ぎはいたほうがいい。ボスが外に出ないというわけではないからな」


 手を振る。


「わかったら逃げろ」

「でも、ボク、リオを置いてなんて」

「ディアナ。のだろう?」


 ディアナはその言葉を聞いてはっとしたような顔になった。


「現実にしてやろう。負けそうに見えるか?」

「見えない、けど」

「なら信じて逃げてくれ。ディアナにはこれからも頼る予定だ。こんな敵相手に危険に晒したくもない」


 指を鳴らす。


 扉が閉じて、逃げた者たちとオレが遮断された。まぁ、扉を開ければ入ってこれるが。


 ため息を吐いて、悪魔と向き合う。


「……貴様、何者だ」

「会話をするために待ったのか? 都合のいいやつだ。冒険者だ、今のところな」

「そういうことではない。どこで貴様のような人間が我と同等の魔力強度を手に入れた」

「……いいや? キサマより下の出力だぞ?」


 オーラを出してやる。


 魔力強度は黄色だ。魔力強度の色は魔法に変換される前の魔力か、一部の魔法でしか視覚化はされない。


「大口叩いておいてその程度の力しかないのか」

「現状はな」


 数秒沈黙してから、悪魔は笑い出した。


「魔力強度の差は絶対だ、覆ることはない。恐怖に頭がいかれたのか?」


 強さとはその場を支配する。魔力強度が高ければ差は歴然となる。扱える身体強化も、魔法も桁違いになってくる。


 だが、それだけで戦いが決まるのであれば苦労しない。


「キサマこそその凝り固まった頭をどうにかしたほうがいい。温めると柔らかくなるのだったか?」


 オレが頭を指差しながら笑う。


 悪魔は突如、手に火球を生成するとオレに叩きつけてきた。


 オレは身体強化でそれを避ける。


「──避けたか。今ので死んでおけば苦しまずに済んだというのに」

「寝言は得意なようだな」

「貴様ァ!」


 両手に火球を生成し、投げつけてくる。オレはそれを難なくかわす。


「スローマ」


 人差し指からスローマを放ち、悪魔の目に当たって弾ける。


「ぐおっ」


 悪魔は少し怯むがダメージはない。スローマの威力が低すぎる。視界を青白い光が弾けた鬱陶しさがある程度だろう。


「……なんだ、今のは」

「攻撃だが?」


 悪魔はオレを無言で見つめた後、盛大に笑いだした。


「やはり貴様に我は倒せぬな。その程度の攻撃、痛くも痒くもないわ!」


 間合いを詰められ、鉤爪が振るわれる。まともに食らえばオレの上半身など簡単に吹っ飛ぶだろう。そう思う程度には大きく凶悪な腕だ。


 ま、当たればの話だが。


「ちょこまかと。黙って殺されれば楽に済むというのに」

「楽? それは困るな」


 こっちは今まで全力で戦える相手がいなかったのだ。


 冒険者のランクは冒険者としてどれだけ働けるのか、というランクだ。強さは必要だが、他にも要素が求められる。


 単純に強いだけでは成り立たないのが仕事というものだろう。だから強さを主張する意味がない。


 だから雑魚狩りとは別に試したいことが多く残っている。


「簡単に終わらせる気はないぞ? せいぜい、その足りない頭で悩み苦しむがいい」


 手招きで挑発すると、悪魔は簡単に乗ってきた。

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