勧誘/ディアナの耳

「俺らのパーティーに入ってほしくてね」

「勧誘ってわけ!」


 2階にげたボクは胸のあたりが急激に冷えていく感覚に襲われた。


 そりゃ、ギルドに来て日も浅いのにダンジョンだとかCランクになれたとか会話してたから声かかるよね……。


 ボクがリオを見つけたときにはもうふたりがいたから邪魔かなと思ってこっちに来ちゃったけど。


 ボクの場合、獣の耳の部分は主耳しゅじと呼ばれるちゃんとした耳だ。集中すれば遠くの会話だって聞こえる。人の耳もあるけど副耳ふくじで人間よりもほんの少しだけ小さい。たぶん副耳だけだと人より聞こえないんだと思う。


 盗み聞きはあんまり良くないけど聞いてないと怖くてどうにかなりそう。


「亜人は誘わないのか」


 淡々とした口調でリオが言う。ボクの名前を使わずに亜人と言ったことがなんだか悲しかった。


「人じゃないし」


 勧誘しているパーティーの人がバッサリと言う。

 そうだ。ボクは獣の耳と尻尾があって、普通の人間じゃない。だからそれが怖いと感じる人もいるし、見下してくる人もいる。


 今の人はどちらかというと前者っぽいけど、言われて気持ちが良いものじゃない。


 リオはなんて返事をするのかな。


 ランクも上がったし、ビギナーの手助けっていう名目だったから一緒にダンジョンも行ったし、流れで行けてたけど……正式なパーティー登録はしてないもんね。


 リオはボクとパーティー組みたくないのかな。そりゃボクの方が弱いし、リオはひとりでもやっていけるだろうけど。


 それにあっちのパーティーに加わったほうがリオのサポートできそうだし。単純に人数が多いし、助け合えるだろう。


 そう思いながら階下に目を凝らす。


「……え」


 思わず声が漏れた。


 リオが見たことないほど冷たい目をしてる。いつも喜怒哀楽が明確なわけじゃないけど、時折ボクを気にして声をかけてくれたりしてくれるリオが。


 いつも以上に興味無さげに、ふたりを見ている。


「組む意味がない。他を頼ってくれ」


 そして驚くほどハッキリ否定した。


 相手側が明らかに不快感をあらわにする。


「え……」


 リオって他人にあんなに冷たいときがあるんだ。

 というか断ったのならボクが行ったほうが助けになるかな。


 戸惑いながらも階段を降りてリオのところに向かう。約束はしていたんだから行ってもおかしくない。


 近くまで行くとリオが目を合わせてくる。

 ボクはなんとなく気まずくなって目をそらすしかできなかった。

 相手側は恨めしそうにリオを見て「後悔しても知らないからね!」と吐き捨てて離れていく。


 リオは何事もなかったようにボクに向けて手を上げた。


「リオ、良かったの」

「何が」

「勧誘受けなくて」


 意味がない、そうは言っていたけど、理由がわからなくて……不安で聞いてしまう。


 リオは不思議そうにボクを見る。


「どこから聞いていた?」

「ほとんど、かな? 話しかけづらくて……ごめん」

「聞いていたならわかるだろ。意味がない」


 リオはボクが話を黙って聞いていたことなんて欠片も気にしてないようだった。


「ボクに気を使ってくれたのなら、気にしなくていいよ」

「使っていないぞ、全く」


 本当に何でもないことのように、リオは話す。


 ボクが亜人であることを忘れてるんじゃないだろうかなんて思うほどに。


「リオはさ。亜人のことどう思ってるの」


 以前、リオはボクを慰めるような話をしてくれた。だから偏見がないのは、ある程度はわかる。だけど、なんでここまで偏見がないのか、それがわからない。


「どうとも思っていない。人と同じだ」

「同じ……?」

「そういう種族だ、というだけだ。どの生物だって得意不得意、役割というものがある」


 迷い無くただ事実を並べ立てるだけと言わんばかりにリオは話してきた。


「肉食動物は草食動物を食らうが、草食動物よりも肉食動物のほうが存在価値があるわけではない。人間は家畜を飼う。その点で考えれば肉食動物より草食動物のほうが価値があるのかもしれないな」


 その理屈はわかるようで、わからなかった。リオの視点が独特すぎて、今までの人と違いすぎて、ついていけない。


「オレにとって、やつらよりディアナのほうが価値がある。そういう話なだけだ」


 だけど、その言葉がボクに深く刺さった。

 リオはボク個人を認めてくれている、その言葉が、嬉しかった。


 嬉しかった、けど。


「……パーティー登録してないのに」


 思わずそんなことを思ってしまった。冒険者の歴はボクの方が長いんだから、ボクから提案すれば良かったのに。

 断られるのが怖くて、こんな言葉を吐いてしまった自分に嫌気がさす。


 そんな色んな感情が混ざってか、泣きたくないのに涙が滲んできた。見られたくなくて、気がつけば、顔を下に向けていた。


 しかし、リオの返答はあまりにもすんなり来た。


「オレの事情があってな。活動できる時間が限られている。登録しても迷惑がかかるだけだろう。単純に頭になかっただけだ」


 あぁ、訳ありなんだ。そうだよね、こんな強いのに何の事情もないわけないよね。


「……そうなんだ。登録するのが嫌とかじゃないんだ」

「全くない。そもそも意味あるのか?」


 リオ……それ知らなかったんだ。


 あれ? じゃあボクがパーティーの話を持ちかけなければ知るつもりもなかったってこと?


「あるよ?」


 なんだか、リオがあまりにも気にしなさすぎてボクが悩んでいるのがバカらしくなってきちゃった。涙も止まったし。

 ボクは涙を拭って顔を上げる。


「パーティー名決められるし、それで実績積めば、指名依頼とか来るし。パーティー組んでないと同じメンバー集まるのに手間かかるんだから」

「……ほう、そういうものか。やはり活動に制限があるオレが登録するものでもないな」

「その事情っていうのは、話してくれないの?」


 単純に気になるのもあるけど、話してほしい気持ちが強くて聞いてしまう。


「……そのうち言えると思うが、今はできないな。今、他人ひとに言えない状態というだけだ。事情自体は大したものではない」


 普通、他人に事情を聞かれたら嫌な顔をしそうなものだけど、リオは話せる範囲で説明してくれた。


 ──そっか。ボクにも話せる事情なんだ。


「じゃあ、待つよ。だからちゃんと教えてね」


 ボクが明るくそう言ってみるとリオは軽く頷いた。


「あぁ」


 これってさ。

 リオの事情を聞いて、問題がないのならパーティー組んでも良いってことかな。


 大したことないって言ってるし、きっと大丈夫だよね。


 ボク、リオともっと一緒にいたいな。


 良いよね、リオ?

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