誕生した日
テーブルに並べられた豪華な食事。そして座っている家族……は妹のリーンだけだ。あとは使用人がいる程度で、父であるジースは急遽舞い込んだ遠征に向かい、兄がひとりいるはずだが、この家には帰ってきていない。
今日はリオの誕生日になる。
「お兄様、誕生日おめでとうございます」
明るい笑顔で、リーンが祝ってくれる。オレは笑みを浮かべた。
「ありがとう、リーン」
「お父様もいればよかったのですけれど」
「リーンがいれば十分さ。さ、食べよう」
肉料理にスープ、切り分けられたケーキ。貴族だからといってパーティーをするわけではない。
跡継ぎは兄に決まっている。
ふたりで食事をする。
「おいしいですわね」
「そうだね。つくってくれた人のおかげだ」
他愛ない会話をしながら、食事を進める。
「お兄様、冒険者になったと聞きました」
「あぁ。そうだよ、この間正式に冒険者になったんだ」
つい先日。オレのランクはCに上がった。ビギナーを脱するどころか1つ、Dランクからランクアップである。おかげで学園関連の用事がなければ自由だ。
ディアナもCランクになっている。ダンジョンの最深部近くまで探索の許可が出ているが、ひとまず浅めの階層に留めている。
「冒険者の仕事はとても危険と聞きました」
「命がけではあるかな」
オレにとって問題でもなんでもないがな。父ジースも遠征で命がけであろうし、後継ぎの兄も言うまでもなく危険を伴う仕事を任されているだろう。メイザース家では珍しくもない。
「それで、なのですが」
リーンは緊張したように肩に力を入れて、どこからか箱を取り出した。そして、オレとリーンの間に置く。
「誕生日プレゼントなのですが……受け取ってくださるでしょうか」
「リーンからかい? 嬉しいな。ありがとう」
素朴な箱だった。リーンの後ろに控えているメイドもなぜか緊張している。
「開けてもいいかい?」
「はい」
箱を開けてみる。中に入っていたのは編まれた紐だった。
「これは」
「フィンというものらしいです。その……がんばって作りました」
そわそわしながら、リーンは小さい声で言った。恥ずかしいのか顔が若干赤い。
「願い事を込めて編む、お守りなのです。腕につけるものだと」
確かに。腕につけられそうだな。
「お兄様は、私に優しくしてくださいました。私のせいで、お母様がいなくなったのに」
母親、か。
リーンを産んですぐに死んだとは聞いた。出産は生物にとって種の生存をかけた命がけのものだ。体が限界だったのかもしれない。
「お兄様だけだったんです。私に優しく微笑みかけてくれたのは」
そうか? 確かにジースがヘラヘラ笑みを向ける性格であるとは思えないが、嫌っている様子はない。笑みを向けないのは、父の威厳というものもあるか。
兄は、リオの記憶でも印象が強く残っているわけではないから、わからないが。
「だからお兄様には無事に帰ってきてほしいのです。だから安全を願いました」
胸に手を当て、切実にそういうリーン。リーンにとっては肉親の中で唯一心を開ける相手ということだろうか。
「……やっぱりもっと別のもののほうが良かったですか」
不安げに聞かれる。
特にほしいものはない。何をプレゼントされようが、オレはリオとして喜ぶ。それしか選択肢はない。
「そんなことないよ。リーンががんばって作ってくれたんだろ? 嬉しいよ」
安心させるように笑みを浮かべる。リーンはホッと息を吐いた。後ろのメイドはなぜか涙ぐんでいる。
「良かった……。実を言うと心配だったんです」
「心配?」
「はい。お兄様が回復されてから、なんだか冷たい感じがして、てっきり変わってしまったのかと」
「…………」
「お兄様?」
「……いつも通りだと思ったんだけど」
「はい。杞憂だったようです。やっぱりお兄様はお兄様でした」
記憶の通り接して、記憶の通り笑みを浮かべて、記憶の通りの声音で話している。なのに「冷たい」か。
感情の機微に気づくのは、観察力が優れているのか。
いや、そういう人間ではないな。人間は絆というものも信仰している節がある。仲間であったり、家族であったり。
冷たさを感じられたのは絆ゆえの、直感なのだろう。オレの中にリオがいるわけではないからな。
人と人の絆というのは枷にしかならないと思っていたが……利用できる場合もあるのかもしれない。
フィンを見る。
「これ、腕にはつけられないな。危ないことも多いし、なくしたら嫌だから」
オレは真のリオではない。リーンの願いを受けるべき人物はここにいない。願いは正しく届くからこそ効果がある。
「大切に持ち歩くよ」
オレは悪魔だ。人ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます