紫が織りなす孤独と愛の物語
- ★★★ Excellent!!!
その昔、紫は貴重な色であり、高貴な御仁しか身に着けることを許されなかった。紫草の根から取れる染料は希少で染色に手間がかかったし、貝紫に至っては最も高貴な色とされていたのだ。紫式部が書いた『源氏物語』には、葵の上、若紫・紫の上など高貴で美しい女性に紫の字が使われている。
『【試読版】玉紫』には、全編にわたり紫があしらわれている。宇宙や気象、衣装、花、煙などにさまざまな濃淡の紫が存在し、精選された言葉によって、耽美で妖艶な世界に読者を誘う。
そして、その幻想的な世界観の中核にあるのは文学に己れを捧げた、二人の才ある男性だ。互いが互いを必要とし、それ故に滅びざるを得なかった真摯で不器用な愛。その切実さに、思わず涙が溢れた。
生と死とは。再生とは。読後にいつまでも余韻が残る素晴らしい読書体験であった。