全部は伝わらなくていい【夕凪華華1】





「うあ~……疲れたぁ~」

「お疲れ様、ウルル」

「ハナもお疲れ。長かったなぁ、あの映画」

「そうだね。お尻が痛くなっちゃった」

ウルルと話しつつ、大量の生徒に押し流されながら体育館の出入口へ向かう。出入口付近は生徒がぎゅうぎゅうになっていて身動きが取れず、ただ人の流れに乗って進む。

聖華高校の二年生は今日、体育館に集められて映画を見せられていた。それは「僕と君の夏の思い出」というタイトルで、五年前に上映されたものだ。内容は主人公である男子高校生の友情物語。ラストは涙涙の感動ものだ。

なぜ私達がこんな映画を見せられているのかというと、隣のクラスで何か問題があったとかで午後の授業いっぱい教師達が会議をしているためだ。先生がいないと授業ができないということで、時間潰しとして適当な映画を見せられていたというわけだ。ちなみに隣のクラスで起こった問題については、生徒には何も知らされていない。

もみくちゃになりながらようやく体育館の外に出て、人の流れのない安全な場所へ移動する。ウルルはすぐ近くの席だったので一緒に出てこれたが、ジェラートと蛾針ちゃんはまだ体育館の中にいるらしい。二人が出て来るのをここで待つことにする。

「パイプ椅子かたいもんなぁ。まぁ贅沢は言わないけど」

「そうだね。友達の高校ではこういうとき床に座らされるらしいよ」

「マジで?スカートなのにどうなのそれ?」

体育館の出入口から排出される生徒達の中から、友人二人の姿を探しながら雑談する。聖華高校はクラスの数が多く生徒も多い。二人が出て来るのはいつになることやら。

「でもこの映画当時は大ヒットしたんだってな」

「みたいだね。あんまり記憶にないけど……」

「私最後ちょっとうとうとしちゃったんだけどさ、ラストどうなったの?」

「ヒロトとカケルが友情を確かめ合ってハッピーエンドだったよ」

「あー、私そういう感じの感動系苦手かも……」

「私もちょっと……。感動はしなかったかなぁ」

そう言うと、ウルルは目を丸くして驚いた。

「えっ、そうなの?ハナは好きそうだと思ったんだけど」

「そうかな?だって……」

「だって?」

「だって……共感できないんだもん……」

「…………」

黙ったウルルに慌てて言い足す。

「違うよっ、別にウルル達が友達じゃないとかそういう意味じゃないからねっ?」

身振り手振りで弁明すると、ウルルは「わかってるわかってる」と笑った。

「ウルル達は友達だけど、やっぱりヒロトとカケルみたいにはならないでしょ。だってあの二人、隠し事なんて一つもないんだよ」

「そうだね……」

「ウルルも私達に隠し事あるでしょ。私も、あるもん。隠し事」

「うん……」

「だから、あんなに綺麗な、型にはまった友情は、よくわからないよね……」

「うん……」

私はみんなに隠し事をしている。ウルルと蛾針ちゃんが隠し事していることも、何となくわかる。私達はヒロトとカケルにはなれない。

普通の友人関係と違うというのも、知っている。私達の隠し事はたぶんみんなの想像の域を超えているから。

「ごめんごめーん。お待たせー♪」

「待っててくれたんだーチョー嬉しー★」

体育館から出て来る生徒達が少なくなってきたところで、ようやく二人が出て来た。どうやら出入口付近の人口密度が下がるまで待っていたらしい。ジェラートは手を振りながら、蛾針ちゃんは怠そうに歩いて、二人はこちらに近づいてきた。

「教室戻ろー☆放課後カスト行かない?♪」

「ははは、カスト好きだよなぁ、私達」

「えーお金ないんですけどー★」

「いいじゃんカスト安いし♪」

四人で固まって廊下を歩く。どうやら今日の放課後もファミレスでお喋りになりそうだ。お金がないという蛾針ちゃんも、はっきり「行く」と答えていないウルルも、結局カストに行くのだろう。

「ウルル」

ジェラートが蛾針ちゃんに絡んでいる間に、一人になっていたウルルに話し掛ける。

「ん?」

「ヒロトとカケルみたいな友情じゃなくても、私三人のこと大好きだよ」

「……もう、わかってるって。恥ずかしいなぁもう……」

ウルルは顔を赤くして笑った。



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