生と死と愛世界には終わりなどなく【轟木蛾針1】




「あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙~~‥‥‥」

「どうしたの?蛾針ちゃん」

疲れた声で伸びをすると、隣を歩いていた夕凪華華が顔を覗き込んできた。アタシは歩くスピードを早めてその視線を回避する。

「べっつにー。ちょっと疲れただけ」

「そっか。蛾針ちゃんいつも頑張ってるもんね」

なーにがいつも頑張ってるもんねーだ。テキトーぶっこいて話合わすなっつの。逆にムカつく。

アタシはさらに歩くスピードを上げる。歩幅の狭いハナはぴょこぴょこと着いてきた。

「ウルルも来れればよかったのにね」

「仕方ないでしょ。バイトなんだから」

アタシとハナは今、風邪で学校を休んだジェラートの家にプリントを持って行くついでにお見舞いに行くところだ。正直今すぐ帰りたい。帰ってゴロゴロしながらテレビ見たい。

「だいたいプリントって。小学生じゃあるまいし」

「プリントはついでだよ。私達がお見舞いに行くって言ったから先生が……」

「あーハイハイハイハイ」

ハナにとってはプリントが「ついで」だったか。見舞いに行こうって言い出したのもハナだし。ったく、馬鹿は風邪引かないんじゃないのかよ。役に立たないクセにこんな面倒臭いことさせやがって。

ハナはハナで相変わらずいい子ちゃんしてるし。はぁー……ダルぅ。アタシこの子嫌いなんだよね。二人きりとかマジ最悪。ウルル糞ヤロー。

「あ、ちょっと待って。何か買っていかない?ケーキとか」

「はぁー?」

ハナが足を止めた。小さなケーキ屋の前だ。長い髪を抑えて店先のショーケースを覗き込んでいる。

「そんな金ないって。ウルルと違ってバイトとかしてないからーぁ★」

「私が出すよ。ジェラートの家で三人で食べよう」

「……チッ、ったく、しょーがないなぁ……」

イライラしつつ店内に入る。ハナと居るとどうにも素の自分が出てしまうな。まぁコイツ何も言わないしな。ハナ一人にアタシの性格バレたってどーってことないし。

ハナはゆっくり時間をかけてケーキを三つ選んだ。ったく、相変わらずトロトロしてるなこいつ。

「お会計七百五十八円です」

店員がテキパキとケーキを箱に詰める。ハナはトロトロと鞄から財布を取り出した。

「もーッ!相っ変わらずノロいなハナは!」

アタシは財布から千円札を

一枚取り出してレジに出した。ハナが金を出すのを待っていた店員はサッと千円を二百四十二円にして返した。

「ありがとう蛾針ちゃん。払うよ」

ケーキの入った箱を店員から受け取る。全く、余計な出費を。

「割り勘!」

「え?」

「アタシ、貸しも借りも作らない主義なの」

ハナはニコリと微笑んで三百七十九円をアタシの手の平に乗せた。

「って、ピッタリかよ!」

「私、お金は大切にする主義だから」

ハナは意外にちゃっかりしているという事を知った一月二十四日だった。




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