第10話 恋矢の見解

     10 恋矢の見解


 確かに――篠塚ココの見立ては筋が通っていた。


 専業ヤクザならまだしも、殺し屋やスパイといった人種は、大抵二重生活を送っている。

 己の身分を偽り、表の顔は極めて善良なのだ。


 それも全ては、周囲の人間に怪しまれない為。

 彼等の場合、警察官に職務質問されただけでアウトだから。


 それを避ける為に、彼等は徹底して一般社会に紛れ込む。

 裏の顔があるなど、絶対に周りの人間には思わせない。

 

 そう言う意味では、確かに昼間から埋葬月人が活動しているとは思えない。

 逆に、夜に備えて昼間は〝通常業務〟を行っている最中なのではないか?


 SPを始めて三カ月である天井恋矢の脳裏にも、そんな推理が過ぎった。


(なら昼間に調査する分には、ココも安全? 

 いや、夜に一人で出歩かれるより、この方が遥かにいい)


 もう一度自分を納得させる恋矢に、ココはこう提案する。


「じゃあ、今日は学校をサボろう。

 一度家に帰って、それから駅に集合という事で」


 確かに今日は平日なので、ココの推理が正しければ埋葬月人も表の仕事をしている筈だ。

 今は午前八時なので、埋葬月人も何らかの勤務を行っている最中だろう。


 なら仮に恋矢達が埋葬月人のアジトを見つけても、鉢合わせる可能性は低い。

 そこまでは恋矢も理解できるが、彼には分からない事もあった。


「……は? 

 何で一度家に帰る必要がある? 

 このまま、調査に行けばいいだろう?」


 いや、そもそも学校をサボるという発想からして、アウトなのだ。

 とても優等生である、篠塚ココの考えとは思えない。


 しかもココは、何故か一度帰宅したいと言う。何か用意したい物でもあるのか?

 恋矢がそう訝しむと、ココは普通に笑顔で言い切った。


「いえ。

 私の私服姿で――恋矢を悩殺しようと思って☆」


「はぁ」


 生返事をする、恋矢。


 話はそれで決まって――ココ達は学校をサボる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る