第54話◇招待◇
令和三年十一月二十三日、瑠璃子は木村の授賞式のあるホテルにいた。出席をギリギリまで迷っていた瑠璃子に、出欠の返事の期限の前日に木村から電話があった。木村は、出欠の有無を聞かず、航空券とホテルの予約をするので予定を聞きたいと言った。瑠璃子は断ると二度と会えない気がして断ることが出来ず、日帰りで行くと返事をした。木村は懇親会があるので是非泊ってほしいと言ったが、翌日店を開けないといけないので断った。
会場に着くと、入り口のボードに、二階ラベンダーの間「モリーアロマボトルコンペティション授賞式」と書かれていた。瑠璃子は、正面のエスカレーターで二階まで行くと、会場の前で木村が招待客を出迎えていた。瑠璃子は受付を済ませ、招待客の名札を胸に着けて木村に近寄った。
「おめでとうございます。ご招待頂きありがとう。」
瑠璃子が木村に挨拶をすると隣に立っていた水色のスーツを着た小柄な可愛らしい女性が頭を下げた。
「ありがとうございます。種人がお世話になっております。」
「妻の真由美です。」と、木村が紹介した。
「木村さんにはお世話になっています、沢田瑠璃子です。」
瑠璃子が奥さんに挨拶すると、奥さんは瑠璃子の名札をじっと見つめて言った。
「さわだ るりこさん。ですか。」
瑠璃子は次に控えている客に押される様にその場を離れた。奥さんが来ているとは思わなかったが、来ていても不思議ではない。木村の妻に初めて会ってほっとしている自分に気づいた。表彰式が始まり、木村が登壇し、表彰状、金一封、副賞のイタリア研修の目録を受け取っていた。その後、懇親会が始まった。立食式のテーブルに並んだ料理や酒を堪能すると、会場の後ろに置かれた木村の受賞作品の前に立って眺めていた。
「今日はお忙しい所、遠方をお越し頂きありがとうございます。」
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