第44話◇大胆な自分◇

 病気の夫や不登校の子供、認知症の母を置いてこんな事をしている自分の大胆さが信じられなかった。カードキーで部屋を開けると、カードを部屋のカード入れに刺さずに無かったので、部屋の電気はつかず真っ暗だった。斎藤は何も言わなかった。瑠璃子は部屋を真っ直ぐ進むと窓際に立ちカーテンを開けた。満月なのか真ん丸な月が煌々と瑠璃子と斎藤を照らしていた。ホテルの下にある遊園地の観覧車がライトアップされて回転していた。  

瑠璃子は斎藤に貰ったサファイアのペンダントを箱から取り出して、瑠璃子の傍に立って月を眺めていた斎藤に言った。

「ペンダント着けてもらえますか?」

 斎藤は瑠璃子の手からペンダントを取った。瑠璃子は肩まである髪を片方に寄せた。斎藤は、瑠璃子の首にネックレスをつけると後ろから優しく抱きしめた。

「好きです。」

 真っ黒なガラスには、斎藤に抱き締められた瑠璃子が映っていた、月に輝くサファイヤペンダントを着けた満ち足りた顔をしていた。これは、夢ではないのだ。突然アラフィフの扉を開けてしまった。瑠璃子は振り向くと斎藤の胸に顔をうずめて言った。

「わたしも好きです。」

 斎藤は瑠璃子の頬に手を当てるとゆっくりと、瑠璃子と唇を合わせた。瑠璃子は、全身が熱くなるのを感じ、立っていられなくなり、横にあったベッドに腰を下ろした。

「大丈夫?」

斎藤は瑠璃子の横に座り肩を抱き寄せた。瑠璃子を引き寄せると二人はベットに横になった。抱き合うと斎藤の首筋からコロンの良い匂いがした。斎藤の手は瑠璃子の胸を這って、ブラウスのボタンをゆっくりと外し、胸元に口づけをした。瑠璃子は、今まで経験した事のない幸せな感覚に浸り言い知れぬ喜びの中にいた。斎藤は瑠璃子の耳元でささやいた。

「いいですか?」

 瑠璃子は黙って斎藤の唇を受け入れた。こうして、瑠璃子と斎藤はその夜結ばれたのだ。どのくらい時間が経ったのだろう。目くるめくきらめきの時間を過ごして、余韻を楽しみながらまどろんでいると、斎藤が静かに起き上がってた。

「僕、帰ります。」

 時計を見ると午後八時四十分だった。

「お引き留めてすみませんでした。」

「大丈夫。駅はこの下だから。まだ電車も十分あるよ。」

 斎藤はそう言うと身支度を始めた。

「そうだわ。渡すものがあるって来てもらったのに、忘れていたわ。」

 瑠璃子は、ベッドから起き上がると、キャリーケースの中から、紙袋を取り出して斎藤に渡した。

「ありがとう。」

 斎藤はブルーのリボンがかかった包みを受け取った。

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