第12話 決着

 アカードがガドリングの射線を通す為に動こうとした時、部屋中に散らばった機械部品の影から一人の男が姿を現した。


「私をなめているのかな?ランスロット。それとも諦めて死にに来たのか?流石のお前でもこのガドリングの弾は避けきれないさ」


「確かにいくら私でもガドリングの弾をかわすことは不可能です。ですが、死ぬつもりはありません」


「戯れ言を。本当に笑えない。まあ、なんでもいいか。ガラクタを退かして探す手間が省けたし。それじゃあ、死んで」


 ギュル、キュル


 異音がする。ガトリングが動かない。見ると鎖が絡まっていてガトリングが回らなくなっている。


「これぐらいならまだ余力は全然あるって言いたいけど、結構キツイや。だからランスロット団長、早めにお願いね」


「十分です。後は私がやります」


 アカードがガトリングの不具合に気づいた時、ランスロットは既に駆け出し、目前に迫っていた。しかし…


 カン、カン、キィーン


 数回の甲高い金属音と共にランスロットの剣が固い装甲によってはじかれる。


「キャハハ、少しは考えたようだけど無駄さ。この機械も私の能力で生成した金属を使って作れているのさ。どんなにお前の剣の腕が良くても切るなんて不可能なのさ」


「はい、分かっていますよ。斬撃に関してはフェイクです。目的は無事に達成させて頂きました」


「キャハハ、何を強がりを言っているのさ。っん、何だ。煙が…ゲッホ、ゲッホ」


「思ったより、効果が出るのが早かったですね」


「何をした…ゲッホ、ゲッホ」


「散らばっていた小さな機械部品を投げこんで煙の逃げ道の穴と思われる所を全部、塞がせて頂きました。私は機械には疎いのですが、蒸気機関で動いているのなら煙の逃げ口を塞がれるのは致命的ではないのでしょうか?」


「くそ、やりやがった、この私の最高傑作になんてことしてしてくれたのさ。ゲッホ、ゲッホ。視界が…。熱も籠ってきた。あぁ、もう、こうなったら今のお前らぐらい、ワタシが直接殺してやる!」


 その叫びと共に機械の上部の蓋が開いて燃えるような真っ赤な髪と目でつなぎ服を着ている長身の女性が姿を現した。

 あれがアカードが姿は女だが、貴族アリストクラットだけあって今まで対峙したどの吸血鬼ヴァンパイアよりも圧を感じる。

 正直、怖いがやるしかない。ここからは俺の役割なんだから


ようやく姿を見せましたねアカード。観念しなさい。懺悔をするなら今のうちですよ」


「キャハハ、調子に乗るなランスロット。

 お前の剣が私の金属を切れないことには変わりないのさ。アランデルの能力を引き継いた小僧の鬱陶しい鎖も完全に消えた。

 つまり、お前らに私を倒すすべはないのさ。そうだろ?半端者よ。もう立っているのも限界なんじゃあないか?」


「はぁ、はぁ、確かにもう僕は限界だ。正直、もう倒れてしまいそうだよ。

 でもね、癪に障ることなんだけど、僕意外にも凄い切り札がいるんだ。さぁ、やってしまってよ。モルドレッド君」


 その言葉共に俺は隠れていた瓦礫の影から出る。全員の視線に俺に集まる。


「なんだ?見すぼらしい小僧じゃないか。お前も適合者とかいう半端者か?キャハハ、いいだろ。お前の有する能力が吸血鬼ヴァンパイア最高の私の防御を破れるものか見せてみろ」


 アカードは一見、傲慢な態度をとって油断している様に見えるが、切り札と呼ばれた俺を最大限に警戒している。俺から一切目を離そうとしない。それが最大の過ちだとも知らずに


「キャハハ、目を背けもしないとは大した度胸なのさ。どうやら切り札って言うのもあながち嘘、はったりでもないらしいな。それともびびって動けないのか。っん、待って。その目は…」


「動くな!貴様の一切の行動を禁じる」


「なっ!?」


(動けない…。声も出せない。まさかこれは勅令ちょくれいか…。信じられない。この私にこれ程までの勅令ちょくれいいるだと!それにあの目は確かに…。まさか、あのお方の…。そんなことがあり得るのか)


「動きが止まりましたねアカード。それでは先に地獄に行っててください」


(まずい、血の異能ブラッド・フォースが使えない。防御ができない。終わるのか。せっかく、私の時代が来たのに。

 あぁ、やはり私はあのお方には遠く及ばなかったのか…)


 ズサリ


 ランスロットはアカードの首を落とし、更に胴体から心臓を回収した。心臓を抜き取られた胴体は灰となって消えた。


「あーー、何とか生き残れた。貴族アリストクラット?やっぱり圧が凄い。勅令ちょくれいの疲労感がもうヤバい」


「お疲れ様です。残りの後始末は教会からの専門部隊に任せます。私達は早くこの心臓を教会に納める必要がありますので、急いでここを出ましょう」


「あの…、僕は今、一歩も動けないんだけど…。誰か助けてくれない?」


 ガラハッドは突っ伏したまま微動たりともしない。声は明るいが本当の本当に限界のようだ。普段の元気な姿が嘘のようだ。それ程までに血の異能ブラッド・フォースでの消費が激しいのだろう。


「仕方ないですね。私が担ぎましょう。モルドレッド君は自分の足で歩いて帰れますよね」


「まあ、くたくたですけどなんとか動けるので大丈夫っす」


「そうですね。今日はお手柄でした。教会に着いたらゆっくり休んでください。これからも期待してますよ」


「はいっす!」


 いやぁ~、なんだかんだ褒められるのは悪い気はしないな。実際、いきなりの実戦任務にしては大活躍だったでしょ?俺。

 まあ、でもやっぱりこんな命懸けの任務やるもんじゃあないね。今回の任務で信頼も稼げただろうし、当分はゆっくり休ませてもらうぜ。


「明日は今回の任務の反省会と訓練の再開しますから、お二人とも頑張って体力を回復してくださいね」


「「え~~!」」


吸血鬼ヴァンパイアを一掃するまで我々は神の使いとして最大限の努力をしなければいけません。日々精進です」


「「いやでも流石にそれはない(っす)!」」


「不服ですか?」


 カチリ


「「いいえ、喜んで頑張らせて頂きますから、手を剣から離してください(っす)」」


「さあ、無駄話はこれくらいにして帰りましょ。野次馬が多くなると厄介ですからね」


 どうやら、吸血鬼ヴァンパイアを一匹残らず駆逐するまで俺の平穏は帰って来ないみたいだ。

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